いまを読み解く Column

ショップに在庫がなくても「来店客に安心して買ってもらえる」販売改革を【前編】

古井戸 一郎(こいど いちろう)
TIS株式会社
・DXビジネスユニット DX営業企画ユニット
・DXペイメントコンサルティング部 エキスパート
2021年7月TIS株式会社に入社。前職の大手スポーツメーカーではEC事業構造の変革を推進。ECに関わる倉庫・物流業務、オペレーション、システム基盤、および組織体制のあり方の刷新などに取り組む。また、前々職の黒物家電メーカーの情報システム子会社所属の時代には、Owned Mediaの構築・運営、スマホアプリを活用したプロモーション施策、WebサイトのUX/UI改善などに従事。


アパレルや化粧品など、店舗への来店・接客を前提としたビジネスモデルは、長期化するコロナ禍の中で事業プランの見直しを迫られています。
多くの企業がEC化率の向上に注力する中、次の挑戦テーマとなるのが、オンライン・オフラインを問わず「すべての販売チャネルで欠品がなく安心して商品が買える」心地よい購買体験の提供です。
今回は、ECに対する消費者意識の変化と、リアル店舗とECサイトで在庫情報を一元化する意義について考えてみます。

1.コロナ禍で明確になる、
ECサイトとリアル店舗の役割分担


私は前職時代に、EC事業における顧客アンケートを実施する機会がありました。そこで印象的だったのが、これほどECが一般化している時代にも関わらず、「ECではサイズや質感がつかめないから、お店で買う」、「お店で確認してから、ECで買う」という、店舗訪問を前提とした回答が多かったことです。

それが2020年のコロナ禍で、消費者は半ば強制的に、ECでしかモノを買えない状況に直面しました。これを契機として、それまで及び腰だった人が「ECで問題なく買えるじゃないか」と、快適さを知ることに。お店に出かける代わりにECで買う傾向に、ますます拍車がかかったと考えられます。

しかし、事業者にとってECさえあればリアル店舗が不要かと言えばそうではなく、EC化率の向上に注力した企業の中で、コロナ禍以前の数字までトータルの売上を回復できたケースはあまり多くありません。

将来的にも、すべての物販がECへ移行する可能性は小さいと考えます。おしゃれな服を買いたい人は、原宿や渋谷のお店で流行を体感したいでしょうし、化粧品を選ぶ時は、百貨店の美容部員から直接レクチャーしてもらったり、香水の香りをテスティングしたい人も多いはず。五感を使った買い物体験は、スマホの画面の中ではできませんから、今後、リアル店舗とECは、足りない部分を補完しあって共存していくだろうと予想します。

2.消費者はECサイトを
“店舗のひとつ”と考えている


これまで事業者側は、心地よい購買体験の提供にあたって、ECサイトとリアル店舗を別々のものとして考えてきました。しかし、これはあくまで事業者側の都合であって、消費者にとっては両者の境界線は既になくなっているのではないでしょうか。

ある商品を購入する際、店頭で見かけて気になり、家に帰ってECで買う人もいるでしょう。また、先にECサイトでモノを見て、店頭で質感を確認してレジで購入する人もいます。この時私たちは、「この方法で買おう」と考えてから行動しているわけではなく、自分がいちばん買いやすい方法を無意識に選択していると思います。

それほど、スマホやPCを使った購入体験は暮らしにすっかり溶け込んでいます。もはや消費者にとってECサイトは、インターネット空間上という違いはあるものの、“店舗のひとつ”に過ぎないと言えるでしょう。近い将来には、もはやEコマースという言葉自体がなくなり、両者を区別する意識の垣根は、完全になくなっているかも知れません。

3.「商品の欠品がなく安心して買える」
ことを優先目標に


オンラインとオフラインがボーダーレスの時代になって、モノを販売する事業者側にも意識の転換が求められています。消費者がリアル店舗とECサイトのどちらで商品を買っても、同一の心地よい購買体験を提供すること。この状態を「ユニファイドコマース」と表現しますが、EC化率の向上と共に考えるべき事業者の具体的目標とは何なのでしょうか?

私は、“心地よい購買体験”の中で最も優先度の高いテーマは、オンライン・オフラインを問わず、「ほしい商品の欠品がなく、安心して買える」ようにすることだと考えます。

アパレル業を例に見ると、リアル店舗は広さの制約があって、服や靴のすべてのサイズ・色を在庫として持つことが困難です。そのため、店舗まで足を運んでも、欲しい色やサイズが欠品して取り寄せとなり、数日後に再度店舗に行く手間がかかるケースがよくあります。

また、ECサイト上での欠品表示も解決したい課題です。実際にはリアル店舗に在庫があっても、情報連携がされず残数がゼロと表示されていると、せっかくの販売機会を逃してしまいます。

4.在庫情報の連携で可能になる
新しい購買スタイル


これらの“欠品”に関わる課題を解決するのが、オンラインとオフラインの販売チャネルで在庫数をリアルタイムに一元把握できる仕組みづくりです。その結果、店舗における購買スタイルがどう変わるのか、一例を紹介します。

来店客は、ある洋服の「赤色・Sサイズ」がほしいが、その店舗には在庫なし。店員が商品を検索して、その時点でECサイトの物流センターに在庫があると分かりました。そこで来店客は、別の色のSサイズを試着してフィット感を確認し、色や質感については赤色・Mサイズの現物で確認。こうして、来店客は不安な点を解消してから、希望の商品をレジにて精算できます。商品は数日後、ECサイトの物流センターから自宅へ届けられるので、取り寄せ品を受け取るために再度お店に行く必要がありません。

このように消費者が「欠品を気にせず安心して買える」メリットは、多くの色・サイズを置けない小規模店舗でも売上を伸ばせることにもつながります。

5.リアルタイムの在庫情報管理が
できている事業者はまだ少数


リアル店舗とECサイトでシームレスな購買スタイルを実現するためには、それぞれ異なる在庫管理の仕組みを連携させる必要があります。現状、店舗の在庫管理はPOSシステムに依存し、ECサイトの在庫管理はこれとは独立して構築されているケースが大半です。

この2つのシステムをつなぐため、よく用いられる方法が、夜間バッチによる連携です。各店舗は閉店後に、POSデータにもとづくその日の在庫情報を店舗管理システムへ自動送信。この情報から、店舗ごとの色・サイズ別の在庫数が割り出され、翌日ECサイトへ反映されるというものです。

つまり、ECサイトで表示される残数は前日のもので、リアル店舗の実際の在庫数とは異なる可能性があります。そのため、ECサイトの注文画面には、“各ショップに在庫の有無を確認してから注文してください”といったエクスキューズを付けていることもあります。

私は、この夜間バッチによる連携は、異なるシステムをつなぐための、あくまで過渡期的な対応だと見ています。今後は、よりリアルタイム性の高い連携の仕組みを構築しないと、消費者の期待に応えることが難しくなっていくのではないでしょうか。


デジタルマーケティングと言うと、消費者の購買や行動情報を捉え、データ分析によって販売拡大を図ることにフォーカスされがちです。もちろんデータの利活用は重要であり進めていくべきことですが、並行して「欠品を気にせず安心して買える」環境整備こそが、消費者からの信頼を得ることにつながるのではないでしょうか。

次回は後編として、オンラインとオフラインのすべての販売チャネルで在庫情報をリアルタイム一元化するための、具体的な方法について解説します。



ショップに在庫がなくても「来店客に安心して買ってもらえる」販売改革を【後編】

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