運用自動化とは?メリット・事例・導入方法を徹底解説
更新日:2025年6月13日

ITシステムの運用業務が多様化・高度化している昨今、運用自動化の重要性は高まっているといえます。
しかし、運用自動化の必要性を感じながらも、必要な人材の不足などの理由で実現できていない企業も少なくありません。では、ITシステムの運用自動化をスムーズに進めるには、どのように取り組めばよいのでしょうか。
本記事では、運用自動化のメリットや基本的な考え方、自動化できる業務の種類、役立つ技術やツールについて解説します。さらに、具体的な運用自動化の事例をまとめた資料もダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
■目次
1. 運用自動化とは?
ここでいう「運用自動化」とは、ITシステムの運用業務を自動化することで人的作業を削減し、効率化する仕組みを指します。
ITシステムの運用には、システム監視やインシデント対応、セキュリティ対策などさまざまな業務が必要です。これらの業務を自動化することで、運用担当者の負担を軽減し、安定したシステム運用が可能になります。
運用自動化を実現するには、AI(人工知能)やRBA(Run Book Automation)などの技術の導入が有効です。さらにIDP(Internal Developer Portal)といったツールや、「自動化2.0」といった概念を取り入れることも、運用自動化の推進に役立ちます。
詳しくは「運用自動化に役立つ技術・ツール」をご参照ください。
2. 運用自動化の必要性
運用自動化の取り組みは、現場レベルからマネジメント層、さらには業界全体の視点から、その必要性が高まっています。
まず現場の視点から見ると、ITシステムが複雑化・多様化する中で、従来型の部分的な自動化や手順書に基づく運用では対応が難しくなっています。例えば、複雑な障害対応や急激な負荷変動に即時に対応するには、人間の判断力や作業速度では限界がある場合があります。これにより、「人的ミス」の増加や「障害対応の遅れ」といったリスクが高まります。こうした課題を解決するために、より高度な運用自動化が求められています。
次にマネジメント層の視点では、運用業務の効率化と品質の安定化は、企業の経営戦略において重要な課題となっています。限られた人的リソースで増大する運用タスクをこなすには、より高度な自動化が不可欠です。また属人化を防ぎ、一定水準以上の運用品質を保つためにも、自動化の範囲を拡大する必要性が認識されています。
さらに、業界全体でも、運用自動化の重要性はますます高まっています。新技術の急速な進展や、デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する流れの中で、迅速かつ柔軟なシステム運用が競争力の鍵となっています。他社に遅れを取らないためにも、より効率的で高度な自動化運用体制の構築が求められています。
このように、現場のニーズから経営戦略まで、あらゆるレベルで運用自動化の必要性が高まっており、より包括的で高度な自動化への移行が急務となっています。
3. 運用自動化の現状・課題
運用自動化の現状は、企業規模や業種によって大きく異なります。情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2024」によると、DXへの取り組みには、大企業と中小企業で顕著な差があるとされています。運用自動化はDXの一環とも捉えられるため、この傾向は運用自動化にも当てはまるといえるでしょう。
具体的には、従業員1,001人以上の大企業では99.6%が「DXに取り組んでいる」と回答している一方、従業員100人以下の中小企業では44.7%にとどまっています(出典:IPA「DX白書2024」P2 図表1-2)。この差は、リソースや専門知識の有無が大きく影響していると推測されます。
運用自動化の課題としては、現場、マネジメント、業界それぞれのレベルで異なる問題が挙げられます。IPAの調査によると、DX推進において最も大きな課題は「DXを推進する人材の不足」(51.1%)であり、次いで「DXに取り組むための予算の不足」(38.2%)、「デジタル技術に関する知識やスキルの不足」(30.7%)が続きます(出典:IPA「DX白書2024」P4 図表1-5)。これらの課題は運用自動化の推進においても共通すると考えられます。特に人材面では、「DXを推進する人材の不足」に加えて、「デジタル技術に関する知識やスキルの不足」も大きな課題となっています。これは運用自動化に必要な専門知識を持つ人材の確保が困難になっていることを示唆しています。
また、予算不足の問題も、中小企業にとって大きな障壁の一つです。IPAの調査ではDX推進による成果として「組織横断・全体の業務プロセス」が最も多く挙げられており、次いで「企業文化・組織マインドの変革」、「新規製品・サービス創出」が続いています(出典:IPA「DX白書2024」P9 図表1-13)。運用自動化においても、同様の効果が期待できるでしょう。
このように、運用自動化の現状と課題は多岐にわたりますが、多くの企業がその必要性を認識し、段階的に取り組みを進めています。特に大企業では積極的な導入が進んでいる一方、中小企業では人材や予算の制約から、まだ十分に進んでいない現状が浮き彫りになっています。
4. 運用自動化のメリット
ITシステムの運用自動化を行うメリットとして、以下の5つが挙げられます。
- 業務効率の向上
- 品質と信頼性の向上
- コストとリソースの最適化
- デジタル変革の基盤構築
- イノベーション促進と競争力強化
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1. 業務効率の向上
運用自動化により「標準化・効率化」が進み、業務全体の生産性が向上します。手作業による運用では、担当者ごとに作業手順が異なり、プロセスの一貫性が確保されないことがあります。その結果、業務ノウハウが社内に蓄積されにくく「属人的な運用」となりやすいといった問題があります。
運用自動化を導入することで、あらかじめプログラムされた作業プロセスに沿った統一的な運用が可能となり、業務の「標準化」につながります。この標準化により、無駄な工程の削減が可能になり、運用業務全体の「効率化」に大きく貢献します。
さらに、業務や保守対応の「迅速化」も実現します。例えば、障害対応や点検などの保守業務は、定期的かつ迅速な対応が求められますが、運用自動化により、こうした業務を瞬時に完了できる体制を構築できます。これにより、人手では難しいレベルのスピード対応が可能になります。
4-2. 品質と信頼性の向上
運用自動化は、業務の「品質向上」と「信頼性向上」に大きく貢献します。自動化により作業の「正確性」が向上し、人的ミスやエラーを減らすことで、安定した運用が可能になります。例えば、障害の検知やアラート発信などを自動化することで、対応の遅れや漏れを防ぎ、品質向上に寄与します。
また、手作業の負担が軽減されることで、重要なユーザー対応やシステムの改善に注力できるため、さらなる品質向上にもつながります。
4-3. コストとリソースの最適化
運用自動化により、コスト削減とリソースの最適化が可能になります。自動化により、運用担当者の手作業が軽減し、少ない人的リソースでも効率的に運用できる体制を構築できます。その結果、人件費を抑えつつ重要な業務にリソースを適切に配分できるようになります。
また、安定したシステム稼働により、ネットワークやストレージの効率的な利用が可能となるため、全体的な運用コスト削減とITリソースの有効活用につながります。
4-4. デジタル変革の基盤構築
運用自動化は、企業のデジタル変革(DX)を推進する上での重要な基盤です。手作業による運用業務が減少することで、ITチームが新しい技術やソリューションの導入に注力できる環境が整います。これにより、クラウド・AI・IoT(モノのインターネット)などの最新技術を柔軟に活用できる体制が整います。
また、システムや技術の統合がしやすくなる点も運用自動化のメリットです。これにより、企業全体のデジタル化が加速し、変化の激しいビジネス環境に迅速に対応できるようになります。
4-5. イノベーション促進と競争力強化
運用自動化は、イノベーションの促進や企業の競争力強化にもつながります。運用自動化によって、日常的な運用業務の負担が減ることで、ITチームの時間とリソースが解放され、新規サービスの開発やデータ分析を活用した事業戦略の立案などに注力しやすくなります。
さらに、自動化によるデータ収集・分析を活用することで、市場動向の予測や顧客ニーズの把握が容易になり、迅速かつ的確な意思決定が可能になります。これらの要素が組み合わさることで、企業の競争力向上が期待できます。
このように、運用自動化は単なる業務効率化の手段ではなく、企業全体の変革と成長を支える重要な戦略的ツールとなります。
5. 運用自動化の適用領域
運用自動化は、具体的にどのような業務に適用できるのでしょうか。特に重要性が高い適用領域として、以下の4つが挙げられます。
- 業務プロセスの自動化
- 監視と問題解決
- セキュリティとコンプライアンス
- 継続的インテグレーションと継続的デリバリー(CI/CD)
それぞれどのように自動化できるのか、詳しく解説します。
5-1. 業務プロセスの自動化
業務プロセスの自動化は、IT運用の日常業務の効率化と人的エラーの削減に貢献する重要な領域です。
「ワークフロー自動化」では、承認プロセス、データ入力、レポート生成などの定型業務を自動化できます。例えば、チケット管理システムと連携することで、問い合わせの自動振り分けや定期的なステータス更新を行うことが可能です。
「タスク実行の自動化」では、スクリプトやツールを活用し、バッチ処理、ファイル転送、データベース操作などを自動で実行します。これにより、手作業による遅延やミスを防ぎ、24時間365日の安定した運用が可能になります。
5-2. 監視と問題解決
「システム監視」や「インシデント対応」の業務も自動化できます。サーバーやネットワークの状態を常時監視し、異常を検知した際に自動でアラートを発信することで、対応の遅れや漏れを防ぎ、迅速な問題解決が可能です。
例えば、障害発生時にアラートを自動配信したり、ログ・レポートを自動生成したりすることで、人的リソースの負担を軽減できます。また、障害発生時にサーバーの再起動を自動化することで、一時対応の迅速化も図れます。
さらに、AI技術を活用した予測監視により、システムの異常を事前に検知し、大きな問題に発展する前に対応することで、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。
5-3. セキュリティとコンプライアンス
「セキュリティ対策」の業務も自動化が可能です。セキュリティパッチの適用やアクセス制御、ログ監査などの保守作業を自動化することで、担当者の負担を軽減し、人的リソースを最適化できます。自動化は負担の軽減だけでなく、サイバー攻撃や脆弱性を自動検知し、早期対応を可能にする点でも有効です。最新の自動化ツールでは、機械学習を用いて未知の脅威を検出し、自動で対策を講じることもできます。
また、一定のセキュリティ基準を満たしているかを評価する「コンプライアンスチェック」においても、一部業務を自動化することで、抜け漏れを防ぎ、品質向上を実現できます。例えば、定期的なセキュリティスキャンやコンプライアンス監査レポートの生成を自動化することが可能です。
5-4. 継続的インテグレーションと継続的デリバリー(CI/CD)
開発環境から本番環境への移行に伴う「デリバリー」の業務も自動化できます。コードを更新すると、自動で「ビルド」「テスト」「リリース」のプロセスが実行され、開発作業の効率が向上します。自動化することで、更新のスピードが向上し、バグの早期発見が可能になるなど、多くのメリットが期待できます。
「継続的インテグレーション」(CI:Continuous Integration)では、コードの変更を頻繁に統合し、自動でビルドやテストを実施します。これにより、開発チーム全体の生産性が向上し、高品質なソフトウェアを迅速に提供できます。
「継続的デリバリー」(CD:Continuous Delivery)では、CIの結果をもとに、本番環境へのデプロイを自動化します。これにより、リリースプロセスが大幅に効率化され、新機能や改善がより迅速にユーザーへ提供できます。
さらに進んだ「継続的デプロイメント」(CD:Continuous Deployment)では、テストに合格したコードを自動で本番環境にデプロイし、人間の介入なしで継続的かつ高頻度なリリースを可能にします。
これらのCI/CDプラクティスを導入することで、開発サイクルの短縮、品質向上、リスク軽減が実現し、ビジネスの競争力強化につながります。
6. 運用自動化に役立つ技術・ツール
運用自動化のために、具体的にどのようなテクノロジーやツールを導入すれば良いのでしょうか。
特に重要な技術・ツールとして以下の4つが挙げられます。
- RBA(Run Book Automation)
- 自動化2.0
- IDP(Internal Developer Portal)
- AI(人工知能)
それぞれ以下に詳しく解説します。
6-1. RBA(Run Book Automation)
RBAは、IT運用プロセスを自動化するための基盤技術です。従来、運用手順書(Run Book)に記載されていた手順を自動化することから、この名称が付けられています。
RBAによって自動化できる主な領域と適用例は以下の通りです。
自動化領域 | 適用例 |
---|---|
複雑な運用プロセスの自動化 |
|
イベントドリブンな自動化 |
|
運用プロセスの標準化と可視化 |
|
最新のRBAツールでは、グラフィカルなワークフローデザイナーを提供し、技術者でなくとも複雑な自動化シナリオを設計できるようになっています。また、APIを通じてさまざまなシステムと連携可能で、既存のIT環境に統合しやすくなっています。
6-2. 自動化2.0
自動化2.0は、RedHat社が提唱する概念で、単なるタスクの自動化を超えて、組織全体のコミュニケーションや意思決定プロセスの最適化を目指す考え方です。従来の自動化(自動化1.0)は「タスクの効率化」に焦点を当てていましたが、自動化2.0ではより広範囲な業務プロセス全体の最適化を実現します。
自動化2.0の主な特徴をまとめると以下の通りです。
- コミュニケーションの効率化にフォーカス
- 組織全体のプロセスを包括的に最適化
- 人間とシステムの協調を重視
自動化2.0を導入することで、単なるタスクの自動化にとどまらず、組織全体の情報共有や意思決定のスピード向上につながります。RedHat社の提唱するこの概念は、現代の複雑化するIT環境において、より効果的な自動化戦略を実現するための重要なアプローチです。
6-3. IDP(Internal Developer Portal)
IDPは、開発者や運用者が必要なリソースやツールに簡単にアクセスできる統合プラットフォームです。IDPの導入により、以下のような効果が期待できます。
- セルフサービス化によるリソース提供の迅速化
- 標準化されたワークフローによる一貫性の確保
- 運用知識の集約と共有の促進
最新のIDPツールでは、以下のような機能も提供されています。
- クラウドリソースの自動プロビジョニング
- CI/CDパイプラインの統合管理
- マイクロサービスのディスカバリーと管理
IDPを効果的に活用することで、開発者の生産性が向上し、運用チームの負荷も軽減されます。さらに、組織全体のデジタル変革を加速させる基盤としても機能します。
6-4. AI(人工知能)
AIは運用自動化のさまざまな領域で革新的な変化をもたらしています。主な適用領域と具体例は以下の通りです。
適用領域 | 具体例 |
---|---|
予測的メンテナンス |
|
異常検知と根本原因分析 |
|
セキュリティ強化 |
|
自然言語処理を活用した運用支援 |
|
最新のAIツールでは、機械学習モデルの継続的な学習と改善が可能となり、より高度な自動化と精度の高い予測を実現できます。特にIaCの自動生成においては、既存のインフラ構成を分析し、最適なコードを提案することで、インフラ管理の効率化とエラーの削減に貢献します。
また、これらの技術・ツールを適切に組み合わせることで、運用の効率化、品質向上、コスト最適化などのメリットを最大限に引き出すことが可能です。さらに、こうした技術の導入は、組織のデジタル変革を促進し、イノベーションを加速する基盤となります。
7. 運用自動化のカギは長期的な視点を持つこと
運用自動化は、業務の効率化・品質向上・安定化を実現するための重要なソリューションです。自社の課題を明確にし、適切な領域に運用自動化を導入することで、ビジネスの競争力を高めることができます。
運用自動化を検討する際には、自社にとって実現可能な自動化の範囲や適用ツールを十分に検討することが重要です。さらに、将来的な拡張性やアップデート対応、ビジネスの将来像なども考慮し、「長期的な視点」で計画を立てることが求められています。
TISでは、運用自動化を支援する「インフラ基盤」「サービス基盤」「サービスアーキテクチャコンサルティング」などを最適な形で提供するデジタル基盤オファリングサービスを展開しています。デジタル基盤オファリングサービスでは、企業がアプリケーション開発に専念できる環境の構築を支援し、運用自動化の環境を自社で整備できるようにサポートします。
また、運用自動化を進めることで、社内の負担を軽減し、安定したサービス提供が可能となります。運用自動化の導入をご検討されている方は、ぜひTISにご相談ください。
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デジタル基盤オファリングサービス
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本コラムの執筆者

恩田 翔
プライベートクラウド基幹システムの構築・運用から、AWS・Azureを活用したプロジェクトのリーダーまで幅広い経験を持つ。
2023年よりデジタル基盤オファリングサービスへ参画し、プライベートクラウド領域の自動化2.0を担当。