クラウドリフトとは?メリット・デメリットや他の手法との違いを解説
更新日:2026年3月16日
クラウド移行を検討する際、選択肢の1つとなる手法が「クラウドリフト」です。既存のシステム構成やアプリケーションを大きく変更せずにクラウド環境へ移行できるため、移行スピードを重視する企業を中心に検討されるケースがあります。
本記事では、クラウドリフトのメリット・デメリットに加え、他のクラウド移行手法との違いを整理し、自社の状況に応じた移行手法を検討する際の参考となる情報を分かりやすく解説します。ITインフラのクラウド移行や移行方法について検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
■目次
1. クラウドリフトとは
クラウドリフトとは、既存のオンプレミス環境で稼働しているシステムやアプリケーションについて、大きな改修を行わず、システム構成や設計をほぼそのままの状態でクラウド環境へ移行する手法です。
オンプレミスで稼働していたサーバーやデータベースをクラウド基盤上に移行するため、比較的短期間での移行が可能となる場合があり、初期の移行コストや作業負荷を抑えやすい点が特徴です。また、クラウド基盤が持つスケーラビリティ(リソース拡張の柔軟性)を一定程度活用できる点も、クラウドリフトが検討される理由の一つとされています。
一方で、既存環境を前提として移すため、クラウドネイティブな機能や設計思想を十分に活用できないケースもあります。そのため、中長期的な最適化やコスト効率の観点では、別の移行手法が適する場合もあります。
クラウドリフトは、クラウド利用を段階的に進めるための手法の一つとして位置付けられることが多く、早期にクラウド環境へ移行したい場合や、将来的な再設計を見据えた移行の初期段階として採用されるケースがあります。
1-1. クラウドシフトとの違い
クラウドシフトは、既存システムを単純にクラウドへ移行するのではなく、クラウドの特性を活かすことを前提に、システム構成やアプリケーションの設計を見直し、再構築するアプローチです。
クラウドリフトが既存のシステム構成を大きく変更せずにクラウド環境へ移行する方法であるのに対し、クラウドシフトでは、クラウドネイティブな構成を前提とした設計変更が伴う点に違いがあります。このため、両者はクラウド移行における考え方や進め方が異なる手法として整理されます。
クラウドシフトでは、システムの再設計や再構築が必要になることから、クラウド移行に要する期間が長期化しやすく、初期コストや対応工数が増加する傾向があります。一方で、クラウドの機能を前提とした最適化を図りやすい点が特徴です。
こうした特性を踏まえ、まずクラウドリフトによってクラウド環境へ移行した上で、段階的にクラウドシフトへ発展させるケースも見られます。このような進め方は「リフト&シフト」と呼ばれています。
2. クラウドリフトのメリット
ここでは、クラウドシフトと比較した場合のクラウドリフトの主な特徴について整理します。一般的に、クラウドリフトが検討される理由として、次の3点が挙げられます。
- クラウド化における初期コストを抑えやすい
- 比較的短期間でクラウド移行を進めやすい
- 段階的な最適化により移行リスクを抑えやすい
それぞれ詳しく解説します。
2-1. クラウド化における初期コストを抑えやすい
クラウドリフトの特徴の一つとして、初期コストを抑えやすい点が挙げられます。
クラウドシフトでは、クラウドネイティブな構成を前提とした再設計や機能追加が必要となるため、設計・開発工数が増加し、初期段階のコストが大きくなりやすい傾向があります。
これに対しクラウドリフトでは、既存のシステム構成を大きく変更せずにクラウド基盤へ移行するため、設計・開発にかかる工数を抑えやすく、結果として初期コストを低減できる場合があります。
そのため、限られた予算の中でクラウド移行を検討する企業において、クラウドリフトが選択肢の一つとして検討されるケースがあります。また、後述するように移行期間を短縮しやすい点から、移行に伴う人件費の抑制につながる場合もあります。
2-2. 比較的短期間でクラウド移行を進めやすい
クラウド移行を短期間で進めやすい点も、クラウドリフトの特徴です。
システムをクラウド向けに再設計する工程を最小限に抑えられるため、移行までのリードタイムを短縮しやすく、クラウド環境の利用を早期に開始できる場合があります。
例えば、リモートワークの導入やBCP対応など、比較的早い段階でクラウド環境の利用が求められる状況において、クラウドリフトが検討されるケースが見受けられます。
2-3. 段階的な最適化により移行リスクを抑えやすい
クラウドリフトでは、まず既存システムをクラウド環境へ移行し、その後に段階的な最適化を進めることが可能です。この進め方により、移行に伴うリスクを抑えやすい点が特徴とされています。
最初からクラウドネイティブな構成を前提に再設計した場合、設計段階での想定と実際の運用環境との間にギャップが生じる可能性があります。
クラウドリフトでは、まずクラウド上での稼働状況やアクセス負荷を確認した上で、必要に応じて構成や設定を見直していくことができるため、段階的に最適化を進めやすくなります。こうしたプロセスを取ることで、移行時の影響範囲を限定しながらクラウド移行を進めることが可能となります。
3. クラウドリフトのデメリット
クラウドリフトにはメリットがある一方で、留意すべき点も存在します。ここでは、クラウドリフトを検討する際に把握しておきたい主な注意点として、次の3点を整理します。
- クラウド活用の効果が限定的となる場合がある
- オンプレミス環境との連携に課題が生じる可能性がある
- セキュリティ設計・運用の最適化が別途必要となる場合がある
それぞれ詳しく解説します。
3-1. クラウド活用の効果が限定的となる場合がある
クラウドリフトでは、クラウド化による効果を十分に発揮しにくいケースがあります。
例えば、リソースを柔軟に拡張・縮小できるスケーラビリティは、クラウドの代表的なメリットの1つですが、システムの構成やアプリケーションの設計によっては、クラウドネイティブな構成に再設計しなければ、その効果を十分に活かせない場合があります。
このため、クラウドリフトを単独の施策として完結させるのではなく、将来的な再設計を見据え、段階的にクラウド最適化を進める「リフト&シフト」という進め方が検討されるケースもあります。
3-2. オンプレミス環境との連携に課題が生じる可能性がある
クラウドリフトを行う際、オンプレミス環境に残るシステムとの連携が課題となることがあります。
実務上、すべてのシステムを一度にクラウドへ移行するのではなく、一部のシステムや外部連携先をオンプレミス環境に残したまま運用を継続するケースも少なくありません。特に、機密情報の取り扱いなどの制約により、オンプレミス環境の併用が前提となる場合があります。
こうした構成において、既存システムを前提としたままクラウドリフトを実施すると、従来どおりのシステム連携が維持できなくなる可能性があります。その場合、クラウド側またはオンプレミス側のいずれかに対して追加の設計変更や改修が必要となり、結果として移行時の工数やコストが想定以上に増加するケースも考えられます。
3-3. セキュリティ設計・運用の最適化が別途必要となる場合がある
セキュリティの観点でも、クラウドリフトを採用する際には留意が必要です。
クラウドリフトでは、既存システムの構成や運用ルールを大きく変更せずに移行するケースが多く、オンプレミス環境を前提としたセキュリティ設計がそのまま引き継がれることがあります。
しかし、クラウド環境では、アクセス権限の細分化やログ管理、ネットワーク制御など、クラウド特有のセキュリティ設計が求められる場合があります。従来の対策のみでは十分なセキュリティレベルを確保できないケースも想定されます。
また、既存システム自体に脆弱性が存在する場合、そのリスクがクラウド環境へ持ち込まれる可能性もあります。そのため、システムの特性によっては、追加のセキュリティ対策や設計見直しが必要となる点に留意する必要があります。
4. クラウドリフトの手順
クラウドリフトを進める際の一般的な流れは、次の4ステップです。
- クラウドサービスの選定
- 既存システムの仮想化
- クラウド環境でのテスト
- クラウドでの運用開始・検証
それぞれ詳しく解説します。
4-1. クラウドサービスの選定
まず「AWS」「Microsoft Azure」といった主要クラウドサービスを含め、自社の要件に合致するクラウド環境を比較検討します。
比較の際には、料金体系や提供機能、サポート体制、セキュリティ要件などを踏まえ、自社のシステムや運用方針に適しているかを多角的に確認することが重要です。
また、将来的にシステム構成の見直しやクラウド最適化を進める可能性がある場合には、拡張性や対応サービスの範囲なども考慮しておく必要があります。
クラウドサービスごとに利用できる技術やセキュリティ仕様には違いがあるため、選定にあたっては、必要に応じて技術的な知見を持つ関係者や専門家と連携しながら検討を進めることが一般的です。
4-2. 既存システムの仮想化
次に、クラウド移行の前提として、既存システムの仮想化を行います。
仮想化とは、物理サーバー上で稼働していたシステムを、仮想サーバー上で動作させる形に置き換える技術を指します。これにより、システムをクラウド環境へ移行しやすい構成に整えることができます。
仮想化を行うことで、既存システムを大きく変更せずにクラウドへ移行できるようになりますが、システム構成や利用しているミドルウェアによっては、仮想化に対応していない場合もあります。
そのため、対象となるシステムが仮想化に対応可能かどうかを事前に確認し、必要に応じて追加の調整や変更が発生する可能性がある点も踏まえて検討することが重要です。
4-3. クラウド環境でのテスト
仮想化したシステムをクラウドに移行した後、テスト環境で動作確認を行います。
主なテスト項目としては、アプリケーションの動作確認、データの整合性チェック、ネットワーク接続状況や遅延・パフォーマンスの確認(負荷試験)などが挙げられます。
あわせて、アクセス権限の設定やログ取得など、クラウド特有のセキュリティ設定についても動作確認を行うことが重要です。
事前にテストを実施し課題を洗い出すことで、本番稼働後のトラブルを抑制し、安定した運用につなげることが期待されます。
4-4. クラウドでの運用開始・検証
テスト環境で十分に動作確認を終えたら、実際に本番環境で稼働させ、クラウド上での運用を開始します。
運用開始後は、システムの稼働状況やパフォーマンスを継続的にモニタリングし、想定どおりに動作しているかを確認します。特に運用開始直後は、障害や性能劣化が発生しやすいため、状況に応じて設定の見直しやチューニングを行いながら運用を進めることが重要です。
5. クラウドリフトの他に検討すべきクラウド化の方法
クラウドリフト以外にも、クラウド化を進めるための手法はいくつか存在します。代表的な整理として、ガートナー社が提唱する「5R」と呼ばれる分類があり、クラウド移行のアプローチは次の5つに整理されています。
- リホスト(Rehost)
- リバイス(Revise)
- リファクタ(Refactor)
- リビルド(Rebuild)
- リプレイス(Replace)
ここまでで解説したクラウドリフトは「リホスト」、クラウドシフトは「リファクタ」に該当します。ここではそれ以外の3つの手法について、概要を整理します。
5-1. リバイス(Revise)
リバイスは、クラウド環境での稼働を前提として、既存システムに対して必要最小限の改修を行いながらクラウドへ移行する手法です。
リファクタほど大規模な再設計は行わず、基本的なシステム構成を維持しつつ、一部の機能や構成のみを見直す点が特徴とされています。そのため、フルリファクタと比較すると、改修工数や初期コストを抑えやすい傾向があります。
また、将来的なクラウド最適化を見据えた段階的な移行プロセスの一部として、リバイスが採用されるケースもあります。
5-2. リビルド(Rebuild)
リビルドは、既存システムを前提とせず、クラウド環境向けに新たにシステムを構築する手法です。
クラウドサービスでは、アプリケーション基盤や各種機能があらかじめ提供されているため、システム要件によっては、既存システムを改修するよりも、新規に構築した方が合理的な場合もあります。特に、既存システムが複雑化しており、改修に多くの工数を要する場合に検討されることがあります。
一方で、クラウドリフトやリバイスと比較すると、開発工数が増加しやすく、初期コストや開発期間が大きくなる可能性がある点には留意が必要です。
5-3. リプレイス(Replace)
リプレイスは、既存システムを廃止し、クラウド上で提供されるSaaSなどの既製サービスへ置き換える手法です。
業務要件が標準的で、既存のクラウドサービスで十分に対応できる場合には、システムの運用・保守をサービス提供者に委ねることができ、社内の運用負荷を軽減できる点が特徴です。
一方で、サービスの仕様や提供範囲に依存することになるため、独自のカスタマイズが制限される場合があります。また、将来的なサービス内容の変更や提供終了といったリスクも考慮した上で検討する必要があります。
6. クラウド化にあたり検討しておきたいその他の要素
システムのクラウド化を計画する際には、移行手法の選定に加えて、次のような観点についても整理しておくことが求められます。
- クラウドの提供形態ごとの違い
- システム構成の見直し(スリム化)
- オンプレミス環境に残す範囲の検討
それぞれ以下に詳しく解説します。
6-1. クラウドの提供形態ごとの違い
クラウドにはいくつかの提供形態があり、それぞれ特徴や留意点が異なります。自社のセキュリティ要件やコスト、運用体制などを踏まえ、どの形態が適しているかを整理しておくことが重要です。
代表的なクラウドの提供形態は次の通りです。
| クラウドの種類 | 特徴 |
|---|---|
| パブリッククラウド | 複数の利用者でリソースを共有する形態。比較的低コストで利用しやすい |
| プライベートクラウド | 自社専用で利用する形態。コストは高くなる傾向があるが、セキュリティや構成の自由度を確保しやすい |
| ハイブリッドクラウド | パブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミスなどを組み合わせて利用する形態 |
6-2. システム構成の見直し(スリム化)
クラウド化を進めるにあたっては、既存システムの構成を見直し、不要な機能や使われていない仕組みがないかを整理することも一つの検討ポイントとなります。
クラウド移行を契機にシステムの棚卸しを行うことで、運用負荷の軽減や移行対象の縮小につながる場合があります。また、クラウドサービスには標準機能や周辺ツールが充実しているため、従来は個別に開発していた機能を、サービス標準で代替できるケースも考えられます。
クラウド移行の方式を検討する前段階として、現行システムの構成や役割を整理し、簡素化できる部分がないかを確認しておくことが有効です。
6-3. オンプレミス環境に残す範囲の検討
クラウド化を検討する際には、すべてのシステムをクラウドへ移行する前提にとらわれず、オンプレミス環境に残す範囲についても検討する必要があります。
例えば、データの保存場所に関する制約がある場合や、通信遅延が業務に影響するシステムなどでは、オンプレミス環境を併用した構成が適するケースもあります。
クラウドとオンプレミスを適切に役割分担し、併用する構成とすることで、要件に合ったシステム基盤を構築しやすくなります。
7. システムをクラウド化する意義
システムのクラウド化は、単なるインフラ刷新にとどまらず、事業環境やITを取り巻く状況の変化に対応するための選択肢の一つとして位置付けられています。特に、次のような観点から、その意義が語られることが多くなっています。
- IT人材不足への対応
- DX推進・イノベーションに向けた基盤整備
- 業務の安定性・継続性の確保
それぞれ詳しく解説します。
7-1. IT人材不足への対応
システムのクラウド化は、IT人材不足への対応策の一つとして検討されるケースがあります。
オンプレミス環境では、サーバーやネットワークの監視・保守など、幅広い運用業務が発生し、インフラに関する専門的な知識や経験が求められる場面も少なくありません。そのため、社内で人材を確保・育成する負担が大きくなりやすい傾向があります。
一方、クラウド環境では、インフラ運用の一部をクラウドサービス事業者に委ねることができるため、企業側の運用負荷や人的負担を軽減できる場合があります。結果として、限られた人材を新規サービスの検討や事業成長に直結する業務へ振り向けやすくなる点が、クラウド活用が検討される理由の一つとされています。
7-2. DX推進・イノベーションに向けた基盤整備
システムのクラウド化は、DXや新たな取り組みを進めるためのIT基盤を整備する手段としても位置付けられています。
既存のオンプレミス環境で長年運用されてきたシステムを見直し、クラウドへ移行することで、不要な機能の整理や構成の簡素化、新しい技術への対応が進めやすくなる場合があります。こうした取り組みが、DX推進のきっかけとなるケースも見られます。
また、生成AIやデータ分析といった先端技術をサービスとして利用できる点も、クラウドの特徴の一つです。オンプレミスで同様の環境を整備する場合と比較して、初期投資を抑えつつ検証を進めやすく、必要に応じて段階的に拡張できる点が評価されることがあります。
7-3. 業務の安定性・継続性の確保
クラウド化の検討は、業務の安定性や継続性を確保する観点から検討されることもあります。
システムを安定して運用し続けるためには、災害や障害への備えとしてBCP(事業継続計画)を考慮した構成が求められます。オンプレミス環境では、複数拠点でのサーバー運用やバックアップ環境の構築など、一定のコストや運用負荷が発生します。
多くのクラウドサービスでは、地理的に分散したデータセンターや自動バックアップ機能が提供されており、自社で対応する場合と比べてBCP対策の負担を軽減できるケースがあります。また、リモートアクセスが可能な点も、災害や非常時における業務継続を支える要素の一つとされています。
このように、クラウド化は不測の事態への備えとしても検討される選択肢の一つといえます。
8. まとめ
クラウドリフトは、既存システムの構成を大きく変更せずにクラウド環境へ移行する手法であり、比較的短期間でクラウド利用を開始しやすい点が特徴とされています。そのため、まずはクラウド環境への移行を進めたい場合や、段階的な見直しを前提とした移行を検討している場合に、選択肢の一つとして検討されることがあります。
一方で、クラウドネイティブな機能を十分に活用しにくい点や、中長期的には追加の最適化や再設計が必要となる可能性がある点には留意が必要です。
クラウド化を進めるにあたっては、クラウドリフトに限らず、リビルドやリプレイスなど他の手法も含めて比較検討し、自社のシステム構成や将来的な事業・IT戦略に適した方法を選択することが重要です。
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