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#2. 経営戦略と人材戦略とキャリア戦略の連動

1. はじめに

TIS株式会社の中田誠です。弊社が提供する 「人的資本経営実践サービス」 の企画推進のオーナーを務めております。

本コラムでは、「個人と組織のより良い関係」 を軸に、人的資本経営の理想のあり方について全5回に渡ってお伝えします。個人的見解に基づく内容も多くなりますが、最後までお読みいただけますと幸いです。

~ 個人と組織のより良い関係 (全5回) ~
第1回 : 企業にとって従業員は費用?資産?資本?(2024年7月16日公開)
第2回 : 経営戦略と人材戦略とキャリア戦略の連動
第3回 : マネージャーとメンバーの最高の関係性
第4回 : 個人の多様な体験がイノベーションを創出する
第5回 : 人的資本経営の未来予想図

2. 経営戦略と人材戦略の連動

人的資本経営の取り組みに関わっていらっしゃる方は、「経営戦略と人材戦略の連動」 という表現を一度は聞いたことがあると思います。

日本国内でこの表現が広まったきっかけは、2022年5月に経済産業省が公表した 「人的資本経営の実現に向けた研究会 報告書 (人材版伊藤レポート2.0)」 でした。人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素(3P・5Fモデル)の中でも 「経営戦略と人材戦略の連動」 は最も重要な視点であると位置付けられています。

図1. 人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素(3P・5Fモデル)

それでは、どのような状態になれば経営戦略と人材戦略が連動できていると言えるのでしょうか。

絶対的な正解はありませんが、2020年9月に経済産業省が公表した 「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 (人材版伊藤レポート)」 にその実践のヒントが記されています。

  1. 経営戦略上重要な人材アジェンダの特定
    経営戦略の目標達成や価値創造の実現に重要となる 「人材アジェンダ」 を特定する。
  2. 目指すべき将来の姿 (ToBe)に関する定量的なKPIの設定
    重要な人材アジェンダごとに、目指すべき将来の姿(ToBe)を定量的なKPIを用いて設定する。
  3. 現在の姿(AsIs)の把握、“AsIs-ToBeギャップ” の定量化
    重要な人材アジェンダごとに設定したKPIについて、現在の姿(AsIs)を正確に把握し、目指すべき将来の姿(ToBe)と現在の姿(AsIs)のギャップを定量化する。(このギャップが経営戦略と人材戦略の連動の程度を表す指標となる。)
  4. ギャップを埋め、企業価値の向上につながる人材戦略の策定・実行
    人材アジェンダごとに定量化した “AsIs-ToBeギャップ” を埋め、企業価値の向上につながる人材戦略を策定・実行する。(どのような時間軸でアクションを行うかを、経営戦略のゴールからバックキャストで明確にする。)

人材版伊藤レポートでは、これらの取り組みは経営層が実施すべきと記されており、既に実践されている企業も多いかと思います。

私はこの 「経営戦略と人材戦略の連動」 に加えて、もうひとつ不可欠な戦略があると考えています。

3. キャリア戦略とは

「キャリア戦略」 という表現は、人材版伊藤レポートには記されておりません。しかし、人的資本経営の実践、および、経営戦略の目標達成にあたって、私はこのキャリア戦略が重要なカギを握ると考えています。

なぜならば、人的資本経営の主役は従業員一人ひとりであり、個人(従業員)のパフォーマンス最大化の源泉が、興味・能力・価値観に基づく 「キャリア形成」 であると考えているからです。

私が考える 「キャリア戦略」 の言葉の定義を以下に記します。

キャリア戦略とは、従業員一人ひとりが描く 『仕事を通してどのような楽しい未来を歩んでいくかのストーリー(物語)』 である。

経営層がバックキャストで未来から逆算した実行計画を策定するアプローチと同様に、従業員一人ひとりも自分自身がワクワクする未来を描き、そこに向けてどのような環境でどのような経験を蓄積していくかのイメージを描いてみることを、私は推奨しています。

そのイメージから半年後の目標、1年後の目標、3年後の目標をそれぞれ掲げてしっかりとした行動計画を策定する形でも良いですし、ぼんやりとしたイメージのままでも良いと思います。

楽しい未来を歩んでいくための3つのポイントをお伝えします。

  1. キャリア戦略は一度決めて終わりではない
    周りの環境の変化に応じて、いつどのように変えても良いです。よって、定期的に自身のキャリア戦略を見つめ直す機会を設けることが望ましいです。
  2. キャリア戦略は一本道でなくても良い
    様々な道を描いてみて、その時その時に進みたい道を歩んでいくも良いですし、複数の道を同時に歩んでいくことも良いでしょう。同時に複数の役割を担ったり、複数の組織や企業に所属したり、複数の未来の選択肢を描いている状態を、私は 「キャリアポートフォリオ」 と呼んでいます。
  3. キャリア戦略は積極的に開示する
    企業がステークホルダーに向けて中期経営計画や統合報告書で自社の価値創造ストーリーを開示するように、自身のキャリア戦略を周囲に積極的に自己開示することで、そのストーリーを応援してくださる方が増え、望ましいキャリアに向かって歩める可能性が高まります。

4. 経営戦略と人材戦略とキャリア戦略の連動

最後に、「経営戦略と人材戦略の連動」 と 「キャリア戦略」 を連動させる重要性を記して、今回のコラムを締めたいと思います。

まずは、こちらの図をご覧ください。 (※ 「経営戦略」 については、事業ごとに分解した 「事業戦略」 と表現しています。)

図2. 経営戦略と人材戦略とキャリア戦略の連動

図の左端に事業戦略に基づく 「事業ポートフォリオ」 があり、中央部には人材戦略に基づく 「人材ポートフォリオ」 が位置付けられています。ここは経営層が中心となってしっかりと連動するような取り組みが必要です。

図の右側にはキャリア戦略に基づく従業員一人ひとりの 「キャリアポートフォリオ」 があり、中央部 「人材ポートフォリオ」 と ”相互尊重” という関係性で結ばれています。
 
人材戦略とキャリア戦略の ”相互尊重” について詳しく説明します。

例えば、人材ポートフォリオとして 「3年後にデータサイエンティストが200人必要」 という計画があったとします。この計画は事業戦略(事業ポートフォリオ)に基づき算定された人数であり、必須成功要因(KSF)に基づく重要KPIのひとつと言えます。

一方、従業員が作成したキャリアプランシートを集計すると、3年後にデータサイエンティストを目指したい人数が120人しかいなかったとします。計画に対して80人が不足している状況下で、人材戦略としては 「採用」「育成」「配置(職種変更)」 等で人材ポートフォリオの充足を目指す施策を打ち出します。

事業戦略として必要な人数を充足するために、場合によっては3年後にデータサイエンティストを目指していない従業員にも 「配置(職種変更)」 を求めることもあります。この時に本人のキャリア戦略を尊重しつつ、キャリア面談等の実施によって本人の納得と同意の上で 「配置(職種変更)」 を決断する。このような状態を ”相互尊重” と称しています。

事業戦略の実践のために、一人ひとりの従業員のキャリア戦略をまったく尊重しない人材戦略(育成や配置)を進めても、従業員の貢献意欲(エンゲージメント)やパフォーマンスの低下を招いてしまいます。しかし、従業員のキャリア戦略を全て希望通りに叶えることで、各事業の業績目標が達成できるとも限りません。

このギャップの最適解を見出していくのが、事業サイドのトップマネジメント層であり、HRBPであり、現場のマネージャーとなります。特に、メンバーひとりひとりの成長に伴走する現場のマネージャー(上司)のピープルマネジメントが鍵を握ります。

しかし、多くの企業の現場のマネージャー(上司)は高負荷な状況が常態化しており、メンバーの育成のための時間が十分に取れていません。メンバーとキャリア形成についての会話が十分にできていなかったり、組織の方向性とメンバーのキャリア戦略のギャップに悩んでいる方も多いことでしょう。

次回は、そのような現状を踏まえた現場のマネージャー(上司)とメンバーの 『最高の関係性』 についてお伝えしたいと思います。
 
参考文献

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更新日時:2024年12月19日 17時30分