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人事施策を評価する:(3) 因果推論的アプローチ

1. はじめに

TIS株式会社の西村友貴です。人的資本データ利活用に関するコンサルティングサービスを提供しています。

本コラムでは、人事施策を評価し、施策の改善や社内外への開示に活かすための方法について解説します。

次の通り、全5回のコラムを公開する予定です。

人事施策を評価する:(1) 重要となる4つのアプローチ
人事施策を評価する:(2) KPI・コストのモニタリング
人事施策を評価する:(3) 因果推論的アプローチ
人事施策を評価する:(4) 応用行動分析学的アプローチ
人事施策を評価する:(5) 予測妥当性検証

今回は「(3) 因果推論的アプローチ」の内容になります。

2. 人事施策を評価する上での障壁

施策の効果を評価するための分析として、「施策の対象者と非対象者を比較する」のが一般的です。例えば研修施策の場合、研修の受講者と未受講者のその後のパフォーマンスや行動評価結果を比較して、研修効果を推定するようなイメージです。

しかし、この分析には不十分な点があります。それは、「施策以外の要因を排除できていない可能性がある」点です。

もし研修を受講した人が20代から30代で、研修未受講者が20代から60代まで幅広い世代だった場合、分析で求めたパフォーマンスの差は、年代の影響なのか、研修の効果なのかがわかりません。施策の対象者の年代や職種、役職、もともとのパフォーマンスなどに偏りがある場合、「施策の対象者と非対象者を比較する」だけでは、施策の効果を正しく評価することはできません。

では、どんな分析を実施したらよいのでしょうか。鍵になるのが因果推論の考え方です。

3. 因果推論とは?

因果推論とは、変数間の"因果関係"を探ることです。

上記のように施策の効果を知りたいときは、「施策の実施有無」という変数から「パフォーマンス」などの変数に対する因果関係を探ることになります。その際、「年齢」や「職種」「役職」など別の変数の影響を排除することが必要になりますが、ここで因果推論的アプローチが役に立ちます。

本コラムでは、そのアプローチのうち最も一般的でわかりやすいものをご紹介します。次の図は因果推論の第一歩となるポイントを2つ表したものです。

それぞれの考え方について説明いたします。

適切な比較集団の抽出

1つ目のポイントは、施策の対象集団と非対象集団をそのまま比べるのではなく、適切な比較ができるように「同じような属性を持った似た集団」を抽出するという方法です。

先に述べた研修の例で考えてみましょう。研修を受講した人が20代から30代で、研修未受講者が20代から60代まで幅広い世代だった場合、研修効果を測るためにどう分析したらよいでしょうか?「適切な比較集団の抽出」という観点で、研修受講者に合わせて、研修未受講者も20代から30代に絞った上で、2集団を比較するのが有効です。こうすることで、2集団の差における年代による影響は少なくなります。適切な分析に一歩近づいたと言えます。

注意すべきポイントは、比較集団として設定する「同じような属性を持った似た集団」をどう定義するかです。上記の例では年代が似た集団を抽出しましたが、職種にも偏りがある場合は、職種も似た集団を抽出すべきです。もともとパフォーマンスが高い人の中から選んで施策を実施したという場合には、比較集団もパフォーマンスがもともと高い集団の中から抽出すべきです。このように比較集団を適切に定義できるようにするために、施策の対象集団がどんな属性を持つ集団なのかを明確にしておくことが重要と言えます。

層別化して比較分析

2つ目のポイントは、層別化という方法論です。層別化というのは、属性ごとに集団を層に分けるということです。

図の右表の例で考えると、集団を営業職と企画職の職種で分け、さらに20代、30代、40代の年代で分け全部で6集団に分けています。こうすることで、同じ属性を持つ集団ごとに比較することができ、その属性による影響を排除することができます。

具体的に表中の結果を見てみましょう。

まず施策対象集団と非対象集団を全体で比較した場合には、施策対象集団の方が3.3ポイントエンゲージメントスコアが低いという結果になっています。施策を実施した集団の方がエンゲージメントスコアが低いということになりますので、施策の効果がなかった、むしろ逆効果であったといった解釈になるかもしれません。

一方で、層別化して比較分析を行った結果を見ると、営業職の20代・30代・40代や企画職の40代において、施策を実施した集団の方がエンゲージメントスコアが高くなっています。この層の集団においては、施策の効果があったと言える可能性があります。

つまり、層別化せずに全体で比較した場合の結果は、年代や職種の偏りが残ったまま(施策対象集団は営業職30代・40代が多く、非対象集団は企画職20代・30代が多いという状態のまま)比較したために、本来の評価とは逆の評価をしてしまう恐れがあったということになります。こういった誤りを防ぐために、層別化というアプローチは有効であるということです。

また、層別化して比較分析することには、もう一つの利点があります。それは、「属性ごとに効果が異なるかどうか」を探ることができるという点です。図の表にある例で言えば、「営業職もしくは40代には効果がある」「企画職の30代以下には効果がない」といった解釈をすることができます。このように、属性ごとに施策の効果を評価できるようになれば、今後の施策の実施対象を変更したり、施策の内容をブラッシュアップしたりすることに活かすことができるようになります。

注意すべきポイントとしては、層別化した属性以外に特徴の偏りがないかという点です。上記の場合は職種と年代で層別化しましたが、役職やもともとのエンゲージメントスコアなどに偏りがある場合には、その区分でも層別化しないと、結果の解釈を誤る可能性があります。ただし、層別化するための区分を増やせば増やすほど各層の人数が少なくなってしまうため、最低限の人数を確保できるかどうか確認しながら層別化の区分を考える必要があります。

4. さいごに

因果推論の第一歩となる「適切な比較集団の抽出」「層別化して比較分析」の2つのアプローチをご紹介しました。

施策の効果を誤って解釈しないためにも、因果推論的な考え方を持つことは非常に重要です。因果推論的アプローチによって効果を測定・評価し、施策投資の増加やターゲットの選定、施策内容の改善などについて定量的なエビデンスに基づく意思決定を可能にしていきましょう。

次回は、「(4) 応用行動分析学的アプローチ」について解説します。

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更新日時:2024年12月19日 17時26分