固定資産に見るIFRS導入のインパクト

多くの企業が取り組む「IFRS(国際財務報告基準)」対応の中でも、特に大きなインパクトを与える論点として注目されているのが「固定資産管理」です。実態に即した形での検討が必要な「減価償却」や「耐用年数・残存価額」、従来の会計処理とは異なる対応が求められる「資産除去債務」など、実際のビジネスに大きな影響を与える論点が数多く存在しています。だからこそ、できるだけ早期に影響度合いの試算を行い、その方針決定を元に実際のシステムに落とし込んでいく必要があるのです。
今回は、IFRSの中でもシステム影響がもっとも大きいとされている固定資産管理における論点を整理しながら、特にインパクトのある「減価償却」に関連した方針決定までの流れとその実際の進め方の事例を通じて、最適な固定資産管理のあり方を考えます。

IFRSにおける個別論点でもっとも影響が懸念される「固定資産」

IFRSに対する様々な論点が取り沙汰されていますが、特に運用場面で大きなインパクトがあると考えられている代表的なものに「固定資産管理」があります。前回「連結会計」でもご紹介した、上場企業の経理財務担当役員、経理財務部門の上級管理職を対象に調査を行ったIFRSコンソーシアム発表の「システム・ITインフラへのIFRS対応の影響度」(2010年9月)を見れば明らかなように、半数を超える方が固定資産管理システムに関して“大きな影響がある”と回答。影響分析が必要だと考えている企業までを含めると、90%を超える方が既存の会計システムに与える何からの影響を懸念しているのです。

システム・ITインフラにおけるIFRS対応の取り組みへの影響度 (一部抜粋)

システム・ITインフラにおけるIFRS対応の取り組みへの影響度

固定資産管理における論点とは?

IFRSに関わる固定資産管理業務には、多くの論点が存在しています。一般的な有形・無形固定資産に関わる論点だけでなく、「売買目的非流動資産」など従来の日本基準には存在していなかった個別論点もあり、新たな角度から議論を進める必要も出てきます。また、現状で(2012年8月時点)確定していない「リース資産」に関する論点は、システムに与える影響が大きいこともあり、引き続き情報を収集しながら対応を検討していくことが求められます。
これら個別論点の中でも、影響の大きいものとして挙げられるのが「減価償却」「耐用年数・残存価額」「資産除去債務」です。特に「減価償却」に関しては、会計上で税法に基づく減価償却が認められている日本基準に対して、IFRSでは実態に即した形で減価償却方法を検討しなければならず、ビジネスに与えるインパクトは大きい部分。早期に方針を決定しておかなければならない論点として注意が必要です。

固定資産管理における論点一覧表
固定資産管理における論点一覧表

方針決定はお早めに!減価償却方法の方針・検討の流れ

ここで、インパクトの大きな「減価償却」に関する論点に絞って、そのポイントと実際の方針検討から試算、最終的な方針決定までの流れを見ていきます。
IFRSで使用される減価償却方法については「資産の将来の経済的便益が企業によって消費されると予測されるパターンを反映するものでなければならない」とされており、定率法、定額法及び生産高比例法の中からより実態に即した形で減価償却方法を検討する必要があります。
そのためには、まずは「調査フェーズ」にてグループ企業全体で同一会計方針を適用するか、業態の違う親会社・子会社別に実態に即した会計方針を使うかなど採用方針の仮決定を行います。その後、自社が保有する固定資産をターゲットに方針に沿って試算を行い、ビジネス上の影響度合いを見ていく「試算フェーズ」に移行。「検討フェーズ」では、その試算結果を元に仮方針の妥当性を評価し、監査人への説明を経て方針が決定されるという段階を経ていきます。
方針決定後は現行システムの置き換えなどが発生する可能性もあり、その構築には事前準備を含めた多くの時間が必要です。できるだけ早期に影響度合いの試算と方針決定を行っていくべきです。

調査・試算・検討フェーズ

また、「試算フェーズ」では仮方針に沿った試算を効率的に行うため、現在運用している既存システムなどに備わっている機能を利用します。この環境整備や試算データの抽出などに関しては、情報システム部門が大きく関与することが重要です。パッケージベンダやIFRSコンサルタントと協力しながら試算に向けた環境作りを行っていきましょう。

減価償却方法変更による影響額の試算について

上記各フェーズの中で、ここでは「試算フェーズ」に関する具体的な手順を見ていきます。
試算は、仮方針に沿った償却方法に変更することで固定資産の金額が財務諸表へどの程度の金額影響を及ぼすのかという「金額の重要性」を認識することが目的です。対象資産に対して新たな償却計算を用いてシミュレーションし、試算した金額に照らし合わせて調査フェーズの仮方針通りに進めるべきか、対象や方針を見直すべきかの判断を行います。
まず、対象期間や対象資産など試算範囲の明確化を行い、その範囲に沿って試算するための方法を検討します。その後、現状の会計システムをはじめ、ERPシステムや個別のパッケージソフトなどに備わっている償却シミュレーション機能を利用して試算を行いますが、この際には本番環境への移行時に使用した“テスト環境”などを有効活用したいところ。ITを積極的に利用することで、短期間かつ効率的に影響金額の試算が可能になります。そして、試算した情報を会社や資産分類ごとに集計し、「高・中・低」など企業ごとに異なる閾値で重要性の評価を行います。
試算作業は会計事務所などがプロフェッショナルサービスとして提供するサービスの1つになっているものもありますが、既存システムを上手に活用することで、自社でも影響金額の試算は十分に行えます。

事例:製造業A社における減価償却方法 変更時の試算

ここで、実際に減価償却方法を変更した場合の試算シミュレーションを行った製造業A社の事例を紹介します。
A社では、「いつからIFRSを適用すべきか」「日本基準でも償却方法を変更すべきかどうか」の2点が経営へのインパクトが大きな要素となると判断。調査フェーズで仮説を立て、IFRSの適用年度別に案を分け、さらに日本基準の償却方法をIFRSにあわせて定率法から定額法へ変更した場合と、日本基準は変更せずに既存のまま運用した場合をそれぞれ試算。これは、日本基準も同時に変更することで、IFRSの初度適用時の簿価の遡及修正の負荷を軽減させるのが狙いです。この試算データを元に、税務メリットや製造原価への影響などを考慮しながら評価が行われました。なお、実際にシミュレーションを行ったのは、既存システムのテスト環境で実施し、パッケージベンダとIFRSコンサルタント、そして情報システム部門、経理部門のメンバーです。

試算対象資産の決定(影響ありの資産分類を事前に調査)

試算対象資産の決定

適用時期/適用方法別減価償却費の開示影響試算

適用時期/適用方法別減価償却費の開示影響試算

この数字を見ても分かる通り、IFRS適用年度と日本基準の償却方法の変更有無をパターン化することで、年度ごとに減価償却費が大きく変動することがわかります。特に製造業の場合、固定資産額が製造原価に影響を与えることになるため、提供価格の変動など直接ビジネスに響くケースが出る可能性があります。ビジネスの実態に則した場合は、現行と同様、定率法を選択することができるため、監査人に確認を行うなど、新たな“うち手”を検討しなければならない場合もあるため、パターン別にしっかりと影響額を算出し、監査人との合意形成に役立つ試算情報を早期にシミュレーションする必要があります。なお、短期間のうちに効率よく試算を行うためにも、システムを活用したシミュレーションが欠かせません。情報システム部門の役割は決して小さくはないのです。

IFRS適用を見据えた固定資産管理システムのあり方

上記で見てきた通り、「減価償却」の論点1つとってみても、システムの役割は重要です。さらに、冒頭で紹介した固定資産管理業務の個別論点は数多くあるため、これらすべての論点を踏まえて監査人との交渉を行い、方針決定した内容を実際のシステムに落していくことが必要です。
固定資産管理システムは、固定資産となる対象資産が存在する各部署や工場などで活用されている上流システムと連携し、最終的には一般会計システムに仕訳の形で連動させていくことが求められます。固定資産管理業務における(A)から(F)までのポイントをしっかりと確認しながら、IFRS適用を見据えた固定資産管理システムの“あるべき姿”を検討していくことが必要です。

固定資産管理のあるべき姿

事例:製造業B社における複数台帳管理と償却条件システムの検討

最後に、製造業B社が行った固定資産管理システムにおける検討事例を見ていきます。B社ではもともとERPパッケージは導入しておらず、すべて自前でシステムを構築しています。IFRS適用に向けて現行システムを拡張する前提で、システム改修のためのポイントを「資産取得時の登録」「情報の付加」「固定資産台帳への記帳」という3つのステージにわけて、それぞれ検討しています。

固定資産管理システムの検討事例

結果として、B社では検討ポイントごとにメリット・デメリットを整理し、最終的に以下のように対応方針を決定してシステムに実装しました。固定資産の種類やその数によって必要要件が異なってくるため、どの企業にも当てはまるわけではありませんが、自社の置かれた環境及び固定資産の状況を適切に判断し、固定資産管理システムのあるべき姿と照らし合わせてシステム改修を行うことが重要になってくるのです。

検討のポイント1、2、3

冒頭でも紹介した通り、固定資産管理システムは既存環境に大きく影響を与える部分です。システムの実装には時間もかかることから、できる限り早期に自社の環境を見極め、その方針決定を迅速に行うことが大切です。

次回予告

次回は特に金融機関にインパクトの大きい金融商品会計への対応をテーマとする予定です。協議が進むIFRS金融商品会計の最新動向及び償却原価、公正価値、減損対応へのポイントや必要となるシステム機能・構成について、海外企業の対応事例も交えて、ご紹介いたします。

関連情報

更新日時:2018年12月18日 15時50分

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