【プロネクサス×TIS特別対談】日本の非財務情報活用の現状と展望
企業のディスクロージャー・IR実務を支援する「情報開示」のプロと、 ITで企業の与信管理を変えた、「企業与信」のプロ。
二人のプロフェッショナルが、日本のESG・非財務の現状を語り尽くす
非財務情報との関わり
小林 グローバル市場では2018年から2019年にかけて、企業価値の評価に非定量な非財務情報が重視され始めました。私はポジティブな企業評価・リスク評価には「ポテンシャルの顕在化」が不可欠だと考えていて、それには非財務情報をどう定量的に分析するかが重要だと思っています。企業が開示するWeb上の非財務情報には文字情報と画像が混在するため、定量化には高度なIT技術や高度な自然言語処理技術が不可欠です。そこに優位性を持つTISなら、「財務」と「非財務」で企業価値を評価する新しいプラットフォームが作れると考えました。まだESG経営やCSV経営といった言葉が出てきた頃ですね。
薄井 プロネクサスはもともと株券印刷など法定開示の分野に近く、財務情報の開示に携わることも自然な流れでした。この一年はお客様から非財務について相談されることが急に増え、お客様の非財務情報の整理・統合報告書作成・総会運営支援・Webサイトでの開示を一気通貫で行うようになりました。
プロネクサスとTISの接点
薄井 非財務の相談がさらに増え、我々だけで対応するのは難しくなってきた時に、TISさんが「ITを利用して非財務情報のベンチマークを実現」するという話を聞きました。これは我々にはできない… ぜひお話を伺いたいと感じ、すぐに連絡を取りました。
小林 東京理科大学インベストメント・マネジメント様、三井住友トラスト・アセットマネジメント様の2社と行った「ESG情報を活用した投資先企業の持続的成長へのエンゲージメント活動」に関する共同研究ですね。
薄井 そう、それです。話を聞くと想像以上にESG情報による企業分類ができていて、ぜひ我々も一緒にビジネスがしたいと思いました。当時はまだそれほどESGが注目されておらず、TISさん、特に小林さんの感度の高さに感心したことを覚えています。
非財務情報を取り巻く環境
小林 コロナ禍でパンデミックの社会が生まれ、世界は持続可能な社会のあり方を突然突きつけられたと思うんです。企業が負うべき社会的責任を考えさせられる世の中になり、投資家や金融機関が「サステナビリティ」重視へと一気に舵を切った。コロナの第三波あたりでそれが加速し、企業にも浸透していきましたよね。
薄井 投資の話で言えば、コロナ禍がなくても、ESG投資は進んでいたと思います。私がアナリストをしていた2007年頃はヘッジファンドの隆盛期で、ESGやSDGsのような考え方もありましたが、それが投資に影響を与えることはありませんでした。ところが2015年以降ユーロ圏がおかしくなり主要国でもマイナス金利に転じるなど、世界経済成長の低下が前提になってきた。投資家は短期投資では利益が出ないので、長期投資を考えざるを得ません。その長期投資では企業の「質」を評価されるので、結果的にESGが重視されます。少し話はそれますが、私は過去に日本が今のESGの課題をクリアしていると思っています。日本企業は高度経済成長の中で環境汚染問題や過重労働問題を経験し、それを乗り越えてきました。サステナビリティを提唱したのも日本が一番早かった。1970年代には国連に対してサステナビリティのあり方を提唱しています。しかし現在、日本は世界から取り組みが遅れていると見られている。皮肉な話ですよね。
ESGは「利益を得る手段」か、「社会貢献」か
小林 私は両方だと思います。企業である以上、利益の観点がなければ売り上げそのものが成立しなくなってしまう。一方でリスクマネジメントの観点からは、ESGへのコミットなしに市場の信頼は得られない。今は企業のESGへの取り組みを適正に評価するルールブックがなく、みんな試行錯誤してる状態だと思います。
薄井 そうですね。SDGsへの取り組みから新しいビジネスが生まれることも多い。またESGへの取り組みは、それ自体が企業のリスクチェックにつながります。非財務情報に取り組む時は、ビジネスチャンスと企業のリスクチェックの両輪で考えることが重要ではないでしょうか。
「非財務情報参照・点検サービス」は、ESGへの取り組みを簡単に装えてしまうほどに使い勝手がいい。
これはまさに悪魔のツールです。(笑)
プロネクサスとTISの協業
小林 非財務情報サービスで長期的な収益を得るためには、やはり社会的に認めてもらえるプラットフォームが必要です。マーケットの意識が非財務に向いている今は「非財務情報参照・点検サービス」を浸透させるいい機会です。このタイミングで同じビジョンを持ち、同じ方向に動いているプロネクサスさんと事業を進められるのは、とても力強いですね。
薄井 企業の非財務情報への取り組みはそれ自体がサステナブルなものです。私は、非財務情報サービスはマーケット的にはまだ少し早いと捉えています。非財務情報の開示ニーズは企業に知識が整う2~3年後に急速に拡大する領域でしょう。一方で非財務に「進んで取り組む企業」と「取り残される企業」の二極化も進むと思います。TISさんの「非財務情報参照・点検サービス」が真の価値を発揮するのはまさにこれから。非常に期待しています。
企業の非財務情報への関心
小林 実際に非財務情報関連のセミナーの集客力は高いですね。TISも2021年だけで10回開催しますが、セミナー参加率は平均で60%を超え、80%を超えることもあります。これはTISのセミナーの中でも非常に高く、非財務 情報への関心の高さが伺えます。
薄井 プロネクサスのセミナーでも同じです。非財務を扱う市場再編のテーマでは、やはりかなり多くの方が参加されます。最新情報が知りたいとの声も多い。TCFD(※1)対応を記載しないとプライム市場から脱落するのかを心配する問い合わせも増えています。
非財務情報参照・点検ツール
薄井 両極端な面を持つツールですね。悪魔のツールだと思います。悪い意味じゃないですよ(笑)。例えば、会社の指示でとりあえずサステナビリティに取り組みます、条文を作りますという時に「非財務情報参照・点検サービス」でスコアのいい会社を真似て書けば、いい評価が取れてしまう。一言で言えば ESGへの取り組みを簡単に ”装うこと”ができてしまう。それほど使い勝手のいいツールです。ただ、それでESGスコアを上げても実態が伴っていないので、PDCAサイクル(※2)は思うように回らない。でも、しっかり取り組んでいるようには見えてしまう。利用する企業の”質”でその価値を大きく変えるツールと言えるでしょう。
小林 その意味では、私は悪魔のツールでもいいんじゃないかと思っています。このサービスは、どちらかと言えば非財務情報の初心者に向けたものです。非財務情報への取り組みは最初のハードルが高いと嫌になりますが、最初に評価されれば、取り組みは持続します。「非財務情報参照・点検サービス」を使えば、非財務に義務的に取り組む人でも最低限のことができ、戦略的に取り組む人なら情報の開示をより高度化するために使える。このサービスが非財務に取り組むきっかけとなることが重要だと思います。
企業の非財務情報へ取り組み
薄井 非財務情報への取り組みには、理想と現実があると思います。取り組むことが良いことはわかっていても、CSRで環境だけやればいいという話ではなく、社内で異論も出る。また、組織を作るにも人材がいない。「非財務情報参照・点検サービス」はリソースの課題を解消しうる可能性がありますが、それはこれを使う人や企業の意識によるでしょう。
小林 ひとつ面白いデータがあります。時価総額が一定規模かつ成長している企業と、そのESGの開示率の相関分析の結果です。ESGのどの項目の相関が高いと思いますか?私は意外でした。なんと「S(社会)」だったんです。
薄井 なるほど。確かに「E(環境)」「G(ガバナンス)」には言うべきことのガイドラインがあるから差が出にくい。鍵を握るのは「S」、人権への対応や社会貢献、つまりは ”人”なんですね。そう考えるとサステナビリティへの取り組みの本質は「S」なのかもしれませんね。実務的な観点で言えば、やはり膨大な情報の収集と整理が企業にとって負担が大きいですね。特に海外情報の収集をすることは、基準を揃えるだけでもすごく大変な作業だと思います。
小林 データの収集や分析の話は二つあると思っています。ひとつは「自社の情報収集や分析」、もうひとつは自社情報を開示する時に必要な「他社の情報収集と分析」です。TISのサービスは主に後者を支援します。外圧(他社の状況)で内圧(社内の異論)を跳ね返すのは日本企業の特性ですから(笑)。上場企業ではすでに取引先をESGに「取り組む企業」と「取り組まない企業」で区別し始めています。このことを取り組みが進んでいない企業は意識すべきでしょう。
コンサルが先か、非財務情報サービスが先か
薄井 最初はコンサルだと思います。実際に我々への問い合わせも、この1年で前年と比較して2倍に増えています。非財務情報を理解してる企業は多分最初から「非財務情報参照 ・点検サービス」を選ぶと思います。逆に理解していない企業は、そもそも何をしたらいいか分からないので、まずコンサルに話を聞きます。そして考え方や組織を変え、PDCAサイクルが回り始めたら「非財務情報参照・点検サービス」を使い、他社の状況や自分たちに足りない要素をチェックする。
小林 プロネクサスさんは、その最初の”企業の意識を変えていくこと”に取り組んでいる。それならTISは、非財務の重要性を理解した企業に、手軽に非財務情報に取り組める仕組みを提供していこうと思います。
薄井 我々の業務は企業情報の開示支援に特化しています。今回の協業で、TISさんの「ITを駆使して非財務領域に新しいビジネスを創造する」姿勢に、非常に感銘を受けました。我々のコンサルとしての知見とTISさんのITを組み合わせることで、どんなことができるのか楽しみです。共に非財務を牽引していきましょう。
取材日/2021年12月
◇非財務情報参照・点検サービス紹介
Q1:非財務情報参照・点検サービスとはどんなサービス?
A:企業が公に開示している有価証券報告書や統合報告書などの非財務情報を自動収集し、 ①主要な評価基準に応じた開示充足率チェック、②非財務情報の記載元の確認、③開示充足率の経年比較や④他社比較などが可能なサービスです。
Q2:登録が大変そう。個人情報は大丈夫?
A:登録はいたってシンプル!新規登録ページから必須項目5つ入力するだけです。
https://score-icebreaker.com/Identity/Account/Register
個人情報の取り扱いにつきましては「利用規約」をご確認下さい。
https://score-icebreaker.com/rule.pdf
Q3:登録しても費用は掛からない?
A:登録頂いても特に費用は発生しません。有償の方のみが利用できる機能もございますがまずは無償版でのご利用をお試し下さい。
Q4:使い方を教えて欲しい。
A:ハンズオンの動画も用意しております。またzoom等での打ち合わせも実施可能です。
その旨お問合せフォームから是非お申込み下さい。
その他詳しいサービスについて、こちらのWeb(https://www.tis.jp/service_solution/non-financial/)もご参照ください。
◇非財務情報参照・点検サービスサイト
https://score-icebreaker.com/
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