システム運用の成熟度を段階的に示す「運用高度化ジャーニー」とは?
~運用の“今”と“これから”を見える化する改善フレームワーク~
著者:IT基盤技術企画部 池田大輔 内藤拓也 梅谷麗
なぜ今システム運用の現場において「運用高度化」による改善が求められるのか
ITシステムの運用は、ここ数年で大きく様変わりしています。
クラウド化やマルチベンダー化に伴い、システム運用は複雑化の一途をたどり、運用現場では次のような課題が顕在化しています。
- システムの障害が複雑化し、原因特定に時間がかかる
- 属人化による「その人にしか分からない業務知識や作業」があり、人材のローテーションができない
- 夜間対応・オンコール負荷が高い
- 日々の点検・ログ確認など“手作業”が減らない
- 経営層から効率化やコスト最適化を求められている
その結果、
「現場が回らない」「自動化したいが、どこから手を付けるべきか分からない」
という声が増えています。
こうした状況の中で注目されているのが、AIOpsや自動化・自律化といった最新の技術や方法論を導入する「システム運用のモダナイゼーション(近代化)」であり、それにより運用の効率化や改善を図る「運用の高度化」です。
しかし、単純に運用現場にAIOpsツールを導入するだけでは、望む成果は得られません。
現状の自分たちの現状=立ち位置を正しく理解し、また、あるべき姿を描いたうえで、「どこを、どの順番で改善すべきか」を明確にし、その実現手段としてツールの導入などに取り組んでいくステップが重要です。
そこで私たちは、「今の自分たちの状態」「何から改善すべきか」「どのように高度化を進めるべきか」を明確にするために、運用の“今”と“これから”を見える化するための「運用高度化ジャーニー」 を作りました。
「運用高度化ジャーニー」とは?
運用高度化ジャーニーは、運用の理想像・将来像を描き、段階的に改善・高度化していくためのロードマップを示したフレームです。
運用保守の状態を 5つのレベル に定義し、組織がどこに位置しているのか、次にどこを目指すべきかを明確にします。
運用の成熟度を表す5つのレベル
| レベル | 定義 | 特徴 |
|---|---|---|
| レベル1 | リアクティブ(事後対応) | 障害発生後に人が手動で対応する状態 |
| レベル2 | プロアクティブ(予防対応) | 過去の履歴を分析し、予防的な対応を行う |
| レベル3 | プリディクティブ(予測対応) | AIによる予兆検知や推奨提案が可能な状態 |
| レベル4 | オートノマス(自律運用) | AIが自律的に判断・対応し、人はレビューのみ |
| レベル5 | インテリジェント(学習・最適化) | AIがビジネス状況に応じて最適な判断を下す |
この運用高度化ジャーニー(=ロードマップ)により以下が明確になります。
- 自分たちの運用組織はどのレベルに位置するのか?
- 目指すべきレベルはどこか?
- どう進めればよいのか?
- 改善することでどんな価値が得られるのか?
システム運用を分析・評価する“3つの視点”
運用高度化ジャーニーでは、システム運用の変化や効果を分かりやすくするために、次の3つの視点で整理しています。
①運用保守の視点(システムの自動化・自律化の状態)
Sense(検知・トリガー)・Think(分析)・Act(行動・処理)を切り口とし、どれくらい人に依存しているか、どの領域が自動化・自律化できるか、されているかをレベルごとに定義しています。
この視点では、人とシステムの関係性(役割分担)を表現しており、運用が高度化するにつれて、人の割合は減り、自動化・自律化の割合が増えていくことがわかります。
②現場の視点(運用の状態)
ここでは、人・技術・プロセスを切り口とし、それぞれのレベルでどのような人材が必要か、どのような技術が活用されているべきか、プロセスはどうあるべきかをレベルごとに定義しています。
この視点では、運用は高度化に伴いどのように変わっていくか、変えていくべきかを表現しており、改善のために現場で必要なアクションを理解することができます。
③ビジネスの視点(運用への効果)
Quality / Cost / Deliveryを切り口とし、運用を変えていくことで得られる効果やメリットを評価します。(本ジャーニーでは、現時点ではレベルごとの具体例は定義していません。今後追加で公開予定です。)
なぜ”3つの視点”が必要なのか?
「AIツールを導入すれば運用が劇的に変わる」そんな期待を持つ企業も少なくありません。しかし、システム運用の現場にAIツールを導入すれば、すべてうまくいくのでしょうか。
まだ自動化も十分でなく、プロセスも最適化されてない現場に、やみくもに高度な要素を入れても期待した改善の効果は発揮されないかもしれません。また、仮にうまくいったように見えたとしても、それは本当に適切な効果が出ていると判断できるでしょうか。
また、導入しようとしたとき、そのメリットを意思決定者や現場の作業者に納得させることができるでしょうか。
こうした問題を解決し、全員が納得できる形で変革を進めるために、運用高度化ジャーニーでは、運用保守・現場・ビジネスの3つの視点から、運用を変えていく際の考え方、進め方、メリットが明確になるように表現をしています。
運用高度化ジャーニーは、この3つの視点から見て、“全員が納得できる変革ストーリー”をつくるための共通言語となるものです。
実際のシステム運用高度化プロジェクトでの活用例
TIS では、運用高度化コンサルティングサービスの中核として「運用高度化戦略立案」のメニューを提供しています。
このサービスでは、お客様のシステム運用体制・仕組み・役割分担などの現状を多角的に評価し、課題や改善余地を整理した上で、今後の改善に向けた方向性を明確にしていきます。
実施の流れは以下の図のようになります。
もし、何ら基準や共通フレームがない状態で、各コンサルタントが個々の経験や観点で整理を行った場合、結論や提示方針にばらつきが生じる可能性があります。そこで活用するのが「運用高度化ジャーニー」です。
運用高度化ジャーニーを軸とした情報整理
運用高度化ジャーニーで整理した視点やレベルは、検討全体の“軸”として機能します。
これにより、評価・整理・将来像の議論に一貫性が生まれ、検討の精度と説明の納得感が向上します。
(1)現状分析(As-Is)での活用
ITIL各領域(インシデント管理/変更管理/構成管理など)ごとに、現状の運用がどのレベルにあるかを整理する際に活用します。
例:
・インシデント対応はレベル3相当、標準化がある程度進んでいる
・キャパシティ管理はレベル2相当、属人的な作業が残っている
といった形で、全体の成熟度を俯瞰し、改善の余地を把握することができます。
(2)将来像整理(To-Be)の活用
特に効果が大きいのが、将来像(To-Be)の検討です。
現状と理想のギャップをとらえ、どこをどのようなステップで高度化していくべきかを整理することができます。
例:インシデント管理の場合
・現状:定型作業は効率化されている(レベル2)
・次のステップ:AI分析で未知の事象を含む予兆検知へ(レベル3~4)
このように、改善ステップが言語化され、共有できる状態になります。
共通基準としての価値
運用高度化ジャーニーの価値は、個別のシステム運用に対する整理での活用だけではありません。
共通基準で複数の運用現場を評価した実績を蓄積することで、以下の効果も期待できます。
・自社の運用レベルを、他社や一般的なレベルと比較できる
・「定量的に説明できる運用の評価指標」を持つことができる
・改善の優先順位や投資対効果を、客観的に説明できる
システム運用は「正解が一つではない」領域だからこそ、共通の評価軸を持つことには大きな意味があります。
まとめ
運用高度化ジャーニーは、システム運用の改善・高度化を進めるための「地図」 となるフレームです。
まずは自社の“現在地”を把握し、どこを目指すべきか、どの順番で改善すべきかを明確にすることから始まります。運用改善の計画策定における「検討の軸」として、ぜひご活用ください。
今後も、コンサルティング案件や実装案件で運用高度化の最新の知識や経験を取り入れながら、継続的に本ジャーニーをアップデートし、より価値の高い提案ができる形へと進化させていきたいと考えています。
※ 運用高度化ジャーニーの資料は以下よりダウンロードできます。