サーベイ結果から見る生成AI活用の深化と真の費用対効果
~個人の効率化から組織変革へ、AI共生型組織を実現するために~
背景
生成AIの導入は「試験的導入」フェーズを過ぎ、「本格適用」の段階に移行しつつあります。RAG(検索拡張生成)技術の進化によって、社内情報活用の精度は飛躍的に向上しました。しかし、現場のデータ基盤やガバナンス体制、サイバーセキュリティ対策、権限管理の未整備が全社規模の導入を阻む障壁となっているのが現状です。定型業務においては生産性向上という一定の成果が現れていますが、今後は事業全体を変革し、より高い投資対効果へつなげていくことが経営的要請と言えます。加えて、2026年1月には米AI大手のアンソロピック社がClaude「Cowork」を発表したことでIT企業の株価が急落しています。想像を超えた速さで技術が進展する中、一刻も早く状況に適応していくことが急務となっています。
先刻、TISでは外部調査会社と連携し、国内企業の生成AI利活用の実態と課題を調査しました。2024年10月にも同様の調査を行っており、本レポートは昨年度調査との比較と、新たに設けた調査項目を基に、現状の分析および組織変革を推進するために不可欠な観点とアクションを提言するものです。
1.生成AIの普及は新しい段階へ
国内企業における生成AIの普及が新たな段階に入ったことが明確となりました。業務活用経験者は90%(前回68.1%)、利用頻度についても「毎日」が43.8%(前回8.5%)、「週に数回」が36.2%(前回27.4%)と回答しており、AIはもはや一部先進層のものではなく、広く使われる業務ツールになったと言えます。
2.費用対効果―組織スケールへの壁
一方、生成AI導入後に「明確な費用対効果」を実感している企業は17.8%に留まっています。導入が急速に進んだ反面、経営指標への直接的な波及は限定的であり、導入初期のKPI設定不足や、組織全体での展開に至っていない点が理由と考えられます。定型業務に閉じた生産性向上の積み重ねだけでは、組織変革には至りません。
成果創出が顕著なのは「単純作業の効率化」(85.0%)であり、次いで「アイデア創出」(71.4%)が続いています。しかし、生成AI活用を次のステージに引き上げるためには、社内独自データを利活用したRAG環境の整備や、組織横断の推進体制(CoEなど)の構築を行った上で、業務プロセスそのものの改善・再設計や、新たなビジネスの創出・開発に生成AIを組み込んでいく必要があります。
3.組織化とCoE体制
生成AI活用の組織化は確実に進展しています。「経営直轄の専門部署・チーム」の設置が30.8%、「現場単位の専門チーム」が20.4%、そして「既存組織内での役割」まで含めると、8割超の企業が何らかの推進体制を持っている状況です。この潮流は、生成AIが企業価値を左右する戦略的インフラであるとの認識が経営層にまで浸透し始めていることの証拠と考えられます。
4.データ整備の課題
生成AIで成果を出すためには、各種業務から生成されるデータが整っており、かつその品質が担保されていることが重要ですが、データ整備に関する課題は深刻です。「活用可能なデータ品質が不十分」「利用すべきデータが特定できない」と感じている企業が60%に及ぶ一方、十分なデータ基盤を持つ企業は2割弱にとどまっています。
「データ整備なきAI導入」では、ハルシネーションの誘発や意思決定の信頼性低下を招くだけであり、高度な活用の基礎にはなり得ません。
まとめ
国内企業の生成AI活用は急速に進展し、もはやビジネスインフラの中心的存在となりつつあります。活用率や頻度は非常に高く、既存業務へのシームレスな組込みや独自環境の構築が、特に情報集約型業種を中心に定着しています。
しかしその一方で、多くの企業が直面している課題は、「単純業務の効率化」を超えた、組織変革や継続的な経営インパクトの創出という新しいステージへの移行です。
1.データ基盤の整備・高度化
有効なデータ環境を整えている企業は依然少数であり、データクレンジングや棚卸の徹底が全社展開を左右している。
AI-Readyとも呼ばれるように生成AIがデータを利用する前提での、データ生成・蓄積・利用までのデータ戦略立案およびデータガバナンスの強化が重要課題である。
2.費用対効果の可視化と
ビジネスへの還元
生成AI活用による「明確な費用対効果」を実感している企業は限られ、全社展開前のPoCやROI指標の設計、業種・業態に応じた適用ポイントの明確化が重要である。
AIの業務実装が進まない中、ヒトとの共生を前提とした業務再設計と、投資効果を最大化する経営指標との連動が不可欠である。
3.組織・人材の変革推進
AIの革新と価値を全社に波及させるには、CoE組織の設置やプロンプトスキルの教育、そして専門人材の獲得・育成といった “人”の観点が重要である。
生成AIは進化のスピードが速いため自社リソースだけでキャッチアップできない場合は、外部の専門家と連携する選択肢も視野に入れ、経営層自身が強いコミットメントをもって、推進力を発揮することが今後の競争優位に直結する。