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独立行政法人 住宅金融支援機構様

COBOLからJavaへのリライトで住宅金融支援機構の大規模レガシーシステムをオープン化

「フラット35」で知られる住宅金融支援機構は、保守性・柔軟性に課題を抱えるメインフレームから、オープン環境へのマイグレーションを計画した。TISは、COBOLを中心とする約3万本のプログラムを自社開発のリライトツール「Xenlon~神龍 Migrator C2J」でJavaへ自動変換するとともに、厳格な品質テストを重ねて本番の安定稼働を実現。デジタルトランスフォーメーションへの第一歩を後押しした。

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背景

大規模レガシーシステムのオープン化に挑む

住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)は、民間金融機関による住宅ローン供給の支援等を行う公的機関。金融機関との提携による全期間固定金利型の住宅ローン「フラット35」の提供や、震災で被災した家屋再建の費用貸付け等の取り組みを通じ、日本の住宅金融行政の一翼を担っている。
住宅ローンの審査から融資、返済までの業務全般を支える基幹システム「総合オンラインシステム」は、2000年にメインフレームで構築された。同システムにネットワーク接続されている金融機関は、全国約600にのぼる。
2010年頃より、2018年春に迎えるメインフレームのEOS後の次期システムについて機構内で検討がスタートした。目標の一つは、最大の課題となっていた保守性の向上。既存システムは、長年にわたる改修で構造が複雑化・肥大化し、金利変更等に対応するための改修に時間・手間を要するうえ、TCOも高止まりしている課題を抱えていた。
そのため、次期システムは、Linuxやプライベートクラウド等で構成された、保守性・拡張性が高いオープン環境への移行を検討。当時は、金融機関にとって参考となるような、同等以上の規模のレガシーマイグレーション事例はなく、住宅金融支援機構は、1年以上をかけて実現性やリスクを慎重に検討した上で、オープン化を決断した。
計画は二段階に分け、まず第一段階では、EOSの到来までに、既存のアプリケーションの機能や操作方法は変更せずにオープン環境へ移行。続く第二段階で、求められている業務ニーズにあわせて個々のアプリケーションのソースを改修していく方針とした。こうして、まず第一段階の“脱メインフレーム”を目指して計画をスタートさせた。

選択

Javaへのリライトを提案したTISを採用

「総合オンラインシステム」は住宅ローンの仕組みそのものを支えるインフラであり、万が一障害が発生すれば、金融機関や消費者に及ぼす影響は甚大となる。そのため、マイグレーション実績を持つSIベンダーに支援を要請することとし、2014年9月にTISを含む複数社による入札が実施された。各社は調達仕様書の要件に応え、それぞれオープン環境へのマイグレーション手段を考案し、提案に臨んだ。
TISが提案に盛り込んだのは、既存アプリケーション群をCOBOLからJavaに「リライト」するマイグレーション手法。一般的に、COBOL資産をオープン環境へ移す際、COBOLのままオープンシステムの仮想環境に移植する「リホスト」の手段を選ぶケースは少なくない。この移行リスクが比較的小さいリホストではなく、TISがリライトを提案した理由は、将来的に本システムがCOBOL技術者の不足で保守性を保てなくなる可能性を踏まえ、早期のJava化を果たすことにあった。
しかし今回の案件では、JavaにリライトするアプリケーションはCOBOLだけで約1万本、計1,000万ステップと膨大。当時の業界の常識で考えれば、移行リスクやコストの観点から、全面的なリライトは一見無謀にも見えるものだった。
この提案に現実性を持たせたのが、TISが自社開発した、COBOLからJavaへの自動変換ツール「Xenlon~神龍 Migrator C2J」の存在。本ツールは、多くのレガシーマイグレーションを手がけてきたTISの知見と技術を結集し、高い変換率を最大の特長としている。
住宅金融支援機構は、TISが示したリライトツールによるサンプルプログラムの変換結果に基づき、Javaへのリライトの実現性は高いと判断した。保守性向上に対する住宅金融支援機構の強い思いと、TISの提案の方向性が一致し、2014年9月、TISへの発注が決定した。

導入

テスト範囲を徐々に広げて品質を積み上げ

本プロジェクトの成否はリライトツールの品質に大きく依存するため、2014年10月のプロジェクト開始後、移行に関わる設計や構築と併走して、1年のPoC(概念実証)を実施し、その精度を検証することとなった。具体的には、業務視点、アーキテクチャ視点で幅広く選定したアプリケーションをJavaにリライトし、変換後の正確性・性能・保守性を徹底的に検証するというもの。1年にわたる検証の結果、TISのリライトツール自体の精度は、業務利用の水準を満たしていることが確認された。
他にもPoCの結果として、既存のCOBOLアプリケーションの一部に、COBOL特有の言語仕様により暗黙的な処理を行っている箇所が発見された。ソースや仕様書を見るだけでは分からなかった課題も、PoCで実際に動かしてみることが早期発見につながった。これを踏まえ、Javaへの変換を考慮したチューニングを繰り返しながら、最適化していく計画が定められた。
本件は、前例のないリライトによる大規模マイグレーションであり、移行後の新システムで本当に品質確保できているかを確認するプロセスが、プロジェクト成否の鍵を握っていた。そこで採用されたのが、テスト範囲を徐々に広げながら“確実に品質を積み上げていく”アプローチ。
たとえばプログラムの結合テストについては、まずは機能単位で実施して品質を確認後、次に業務単位での新旧比較へと範囲を広げるといったように、段階を踏んで進められた。こうして、慎重に新旧システム処理結果の同一性を検証しつつ、着実に品質を積み上げていった。テストの最終段階となったのが、実際の業務データで新システムを3ヵ月稼働させる商用稼働再現テスト。これを無事にクリアしたことで、本番業務に対応できる十分な品質である確証が得られた。

効果

デジタルトランスフォーメーションへの第一歩を踏み出す

2018年1月の本稼働開始後は、運用作業が軌道に乗るまでに小規模障害が何度か発生したものの、アプリケーションに起因する深刻なトラブルはなく、早期の安定稼働が実現。Javaにリライトしたアプリケーションの一部は、日々金融機関のオペレーション業務で使用されているが、大きな障害もなく安定稼働が続いている。今回のプロジェクトで、EOSまでに「総合オンラインシステム」をオープン環境へ移行するという第一段階の目標は、TISの支援により無事に達成された。
住宅金融支援機構は、今後の第二段階として、個別のアプリケーションのJavaコードを改修(リファクタリング)し、保守性をより向上させる構想としている。保守性を高めることで、地域創生や子育て支援など、新たな政策推進などのニーズに素早く柔軟に対応できる。また、機能拡張の幅が広がり、住宅金融支援機構では、地方公共団体や金融機関と連携した新たなサービス開発も行いやすくなる。
なお、経済産業省はメインフレーム等のレガシーシステムを抱える企業に向け、そのオープン化およびビジネス革新を促す「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を提唱している。レガシーシステムの刷新を2025年までに終えない場合、日本経済全体で毎年12兆円の損失が生じる『2025年の崖』についてもレポートで警鐘を鳴らす。レガシーシステムから脱却しDX実現を目指す企業・団体にとって、住宅金融支援機構のマイグレーション事例は格好のモデルケースとなるだろう。

移行の概略イメージ

移行の概略イメージ

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更新日時:2023年10月4日 23時31分