オリックス生命保険株式会社様
診断書の“医療方言”を標準化する「Assess(アセス)」で支払査定をスピード化
オリックス生命保険株式会社(以下、オリックス生命)は、イメージデータ化した診断書や請求書により、給付金の支払査定を行うワークフローの構築を検討。これを機に、医師が診断書に記載した“医療方言”の標準化を、ITで自動化することを目指した。そこで、TISのASPサービス「Assess(アセス)」を導入し、査定担当者のスキルに依存しない、正確・迅速な医療用語の標準化が実現した。
本社 | 東京都港区赤坂2-3-5 赤坂スターゲートプラザ |
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資本金 | 590億円 (2018年8月末現在) |
事業内容 | 生命保険 |
URL | https://www.orixlife.co.jp/ |
背景
紙の書類をイメージデータ化したワークフローの構築
オリックス生命は、"シンプルでわかりやすい"個人向け保険商品を特長とする、生命保険業大手。同社が2006年に発売を開始した「CURE」(現在の新CURE)は、いち早く7大生活習慣病をカバーしつつ、手軽な保険料を実現したことで、爆発的なヒット商品となった。「CURE発売以前の契約件数は約40万件でしたが、2018年5月には400万件を超えました。短期間で約10倍という成長率は、業界において極めて高い数字です」と、保険金部在籍時に本プロジェクトを推進した嶋享祐氏(現オムニチャネル営業部)は語る。
この契約件数の増加に比例し、通院・入院や手術に伴う給付金の支払件数は、右肩上がりで増え続けている。支払査定部門の作業量も増大し、新たな担当者の育成だけではカバーし難い状況となっていた。そこでオリックス生命は2013年、給付金受取人が提出する請求書・診断書をイメージデータ化し、査定から社内承認・支払いまでの業務を効率化する、新たなワークフローへの刷新を検討し始めた。当時保険金部に在籍した榎本祐二氏は「紙の書類をイメージデータ化することは、業務効率化はもちろん、大規模災害時でも支払査定を継続できるBCP対策としても有効です。いついかなる時でも給付金を速やかにお支払いできる体制を目指しました」と語る。
高度なスキルを要する“医療方言”の標準化
この新たなワークフローの構築にあわせ、目標の一つに定められたのが、医師が診断書に記入した傷病名・手術名を読み取って標準化する作業の自動化であった。一般的に、医師が診断書に記載する医療用語の種類は100万語を超えると言われる。例えば、『胃癌』は医師によって『Gastric cancer』や『胃(CA)』とも表記される。査定においては、こうした“医療方言”を標準的な医療用語に置き換えるとともに、該当する標準的な傷病コード(国際標準のICDコード)・手術コード(K・Jコード)への変換が必要である。さらに、各社が約款で定義する個社コードのうち、どれに該当するかを調べなければならない。
オリックス生命では、査定担当者への医療知識の教育に加え、経験が少ない担当者が見落としなく標準化を行えるよう、医療用語のPC用検索ツールを利用していた。これは、ある用語を入力すると、その定義と、該当するコードの候補が表示されるというもの。しかし、それだけでは不十分だったと保険金部支払査定チームの山村英次郎氏は語る。「不明な用語が出てくるたびに検索していては時間のロスが大きく、検索結果をシステムに手入力する二度手間もかかります。そこで、新たなワークフローに標準化を行う変換エンジンを組み込むことで、作業の迅速化・効率化が図れると考えました」。
選択
有力候補となった医療データ標準化サービス「Assess」
2015年後半の時点で、診断書の“医療方言”を標準化する方法には、幾つかのソリューションが存在した。オリックス生命は、要件を満たす3社に対して提案を依頼した。候補の一つとなったのが、TISが提供する医療データ標準化サービス「Assess」であった。
「Assess」は、“医療方言”の標準化から、最終的に各保険会社が定めた傷病/手術コードへの変換までを支援するASPサービス。医療辞書には100万語以上が登録されており、傷病名・手術名の特定率は90%を超える精度を持つ。
榎本氏はこう語る。「実は、TISから提案を受ける以前から『Assess』には注目していました。2008年頃から、医療用語の標準化のため『Assess』を導入する同業者が出始め、当社でも2013年に検討を行いました。実際に導入した会社にお願いして、どのように使っているのかを見学させてもらったこともあります。その当時は、支払査定のワークフローの全体計画が固まっていなかったこともあり、『Assess』を単独で導入するまでには至りませんでした」。
実証テストで変換精度の高さを確認
各社のソリューションを比較する際に重視した点を嶋氏は「どれが最も正確かつスピーディーに、“医療方言”を標準化できるかに尽きます」と説明する。そして、実データに基づく実証テストを行い、病名・手術名の特定率について検証した。
その結果について嶋氏は「変換の正確さは『Assess』が抜きん出ており、変換スピードも十分。加えて、『Assess』はその時点で5社の生命保険会社が業務利用している実績があることも決め手となり、採用を決定しました」。
オリックス生命は、今回の各社提案に先立ち、AI(人工知能)を利用して医療用語を標準化する選択肢も検討したという。「AIを手がけるソリューションベンダーに相談に行ったところ、変換率は思ったほど高くなく、導入コストはまだ高いという印象。加えて、当社はこれまで紙の診断書で査定を行ってきたので、社内にAIの学習データが存在しないこともあり、導入は時期尚早と判断しました。対して『Assess』の場合、複数社が共同利用する医療辞書が随時アップデートされていきますから、我々が経験したことがない未知の用語まで変換できることは、非常に大きな魅力だと感じました」(嶋氏)。
導入
新ワークフローへ「Assess」を組み込む
支払査定の新ワークフローの構築は2016年春からスタートし、これと並行してTISによる「Assess」導入が進められた。給付金受取人から診断書を受け取り、「Assess」で医療用語を標準化するまでの流れは、次のようになる。
まず、紙の診断書をオリックス生命でスキャニングし、イメージデータ化。これを外部の協力会社に渡し、査定に必要な情報をデータエントリー(パンチ入力)する。オリックス生命では、このエントリー作業において、二人が同じ内容を入力して照合する仕組み(ベリファイ機能)を設け、誤入力の防止に努めている。診断書のテキストデータのうち、傷病名・手術名にあたる部分がTISの「Assess」に自動送信され、標準化を行った後、オリックス生命の査定チームにデータが返送される。
「Assess」はASPサービスであり、システムおよび医療辞書・マスターはTISが運用管理を担う。医療辞書は、医療専門家(診療情報管理士)が月次で収録内容をアップデートしており、変更点は「Assess」を利用する各生命保険会社に通知される。
工期を短縮しつつ高い変換精度を実現
榎本氏は初めてTISのチームメンバーとともに動いた印象を次のように振り返る。「メンバー全員、生命保険の業務知識が非常に豊富。“同じ言葉で会話できる”ことから、コミュニケーションも円滑で、プロジェクトを進めやすかったですね」。
「Assess」による自動コード変換率を最大化するには、「Assess」が保有する標準名・標準コードのマスタ(約46,000語)を、保険会社が約款で定める個社コードに1対1で紐付けるカスタマイズ作業(個社対応)が必要だが、今回はこれを先送りとした。「TISが提案時に示したテスト結果によれば、1対1で紐付けを行わなくても、傷病名は90%以上の精度で、当社独自のコードを導出できるとのこと。また手術名については、自動変換されるものが50%、最終的に表示される複数候補から人間が選択するものが40%で、合わせて約90%の特定率が期待できる。1対1での紐付け作業は当社にとって稼働の負荷が大きく、長期間を要します。まずは必要十分な特定率での短期導入を目指しました」(嶋氏)。
こうして「Assess」が組み込まれた新たな査定業務のワークフローは、2018年1月に完成し、本稼働を開始した。
効果
経験に左右されない高品質な査定が実現
現在「Assess」では、月間約2万件の診断書の医療用語の標準化が行われている。支払サービスチームのメンバーは、その導入効果を次のように実感していると山村氏は言う。「これまで、経験の浅い査定担当者は、判断に迷う用語が出てくるたび、検索ツールを使って調べる必要がありました。新たなワークフローでは『Assess』により自動的に標準用語・標準コードが返ってくるため、“査定を非常に進めやすい”という声が多く聞こえてきます。場合によっては、見落としてしまったかもしれない傷病名・手術名に気づけるようになったことで、査定の品質の向上に役立っていると感じます」。
今回のワークフローの刷新は、給付金を確実・迅速に支払うという点で、給付金受取人にとって大きな意義があると嶋氏は説明する。「保険会社にとって、支払い漏れをゼロに近づけていくことは重要なミッションです。当社では、診断書の情報見落とし等による保険金・給付金の支払い漏れは、全体の0.06%前後。ワークフローの見直しにより、このうち3割程度の支払い漏れをなくせると見込んでいます」。
査定へのAI活用でもTISに期待
査定業務での利用が始まった「Assess」だが、今後はコールセンター業務への展開も検討していると嶋氏は言う。「保険金専用のコールセンターで最も多いご質問は、“○○という病気・手術は、給付金の支払対象かどうか?”というもの。現在は、査定業務と同じ検索ツールを使って対応していますが、『Assess』を使うことで、よりスピーディーなお客様対応ができるのではないかと考えています」。
また榎本氏は、複数の生命保険会社が利用するASPサービスならではの期待をこう語る。「当社が単独で蓄積できる情報量は限られますが、複数の生命保険会社が利用する『Assess』には、広く業界の情報・ナレッジが反映されます。たとえば、特殊な条件での給付金支払いの履歴が“見える化”され、共有できるようになれば、各社が査定のやり方を改善していくために役立つはずです」。
将来的には、査定業務のワークフローの随所に、AIを取り入れていくことも考えていると山村氏は続ける。「例えば、当社は給付金支払いの最終チェックを3人体制で行っていますが、このうち一人をAIに置き換えるといった使い方も考えられます。また、給付金の支払条件を満たしているかを判断する際、適切なアドバイスをしてくれる機能など、既にTISからは、査定業務に特化したAIソリューションの提案も受けていますので、当社に一番マッチしたかたちでワークフローを進化させていきたいと思います」。
システム概要
お客さまの声
オリックス生命保険株式会社
お客さまサービス本部
副本部長
榎本 祐二氏
オリックス生命保険株式会社
オムニチャネル営業部長
嶋 享祐氏
オリックス生命保険株式会社
保険金部 支払査定チーム長
山村 英次郎氏
今回、システム開発でありがちな、手戻りがほとんどなかったことが印象に残っています。経験上、発注側とSIベンダーで認識に相違が生まれることはよくあり、途中で“実はこうしてほしかった”と伝えても、“設計書と異なるので仕様変更になる”と言われがちです。そういうことが、ほとんどなかったのは、TISが初めてでした。今後は、今回は見送りとした1対1でコードを紐付ける個社対応による特定率の向上や、コールセンター業務での「Assess」活用などについて、TISと協議していきたいと思います。(嶋氏)
TIS担当者から
TIS株式会社
サービス事業統括本部
保険&メディカルビジネスユニット
保険&メディカルサービス第一部 主査
千葉 裕行
今回、オリックス生命様独自の管理コード体系等を活用するため、過去の「Assess」導入例とは違った方式を採用し、お客様と共に変換の品質をつくり上げていきました。多くの困難がありましたが、最終的には、当初オリックス生命様が希望されていた変換率を上回る品質(自動コード変換率90%以上)を実現できたことに満足しています。
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