東海旅客鉄道株式会社様/ジェイアール東海情報システム株式会社様
JR東海の基幹系システムをCOBOLからJavaへリライト。
メインフレームのオープン化で、システムの継続性確保を実現。


背景
COBOL人材が減少する“2025年の崖”で懸念されるシステムの継続性
東海旅客鉄道株式会社(以下、JR東海)が手がける東海道新幹線は、2024年10月に開業60周年を迎えた。同社は鉄道事業を中心に、流通事業・不動産事業などを展開。また、次世代のリニア中央新幹線計画も大きな注目を集めている。
JR東海は1980年代に構築された国内メーカーのメインフレーム上で稼働する運輸収入系システムを利用して、きっぷ(乗車券や特急券等)の売上を処理し、決算や輸送統計のデータとして活用していた。
以来、メインフレームは約10年のサイクルでリプレイスを行ってきたが、メインフレーム市場の縮小とCOBOL技術者の不足を背景に、2018年頃より今後のシステム構想を見直すこととした。この構想の検討は、JR東海グループ唯一の情報システム会社、ジェイアール東海情報システム株式会社(以下、JTIS)とともに進められ、オープン化が現実的な選択肢として話し合われるようになった。
その目的をJR東海 情報システム部の深谷高英氏はこう説明する。「いわゆる“2025年の崖”問題で提唱されているように、メインフレーム市場の縮小やCOBOL技術者の不足により、このままではシステムの継続性を確保できなくなり、業務継続が困難になる恐れがありました」。
実際に、2019年に国家試験の基本情報技術者試験でCOBOLの出題が廃止されたことに象徴されるように、レガシー言語の経験を持つ人材は減少し高齢化も進んでいる。その影響は、既に保守業務に出始めていたという。「メインフレームを24時間体制で保守する技術者の確保が年々困難になっていました。オープン化により、十分な人材の確保と運用費の抑制ができること。さらにシステムの自由度や柔軟性を高められる期待もありました」(JTIS 名古屋基幹システム本部 仙田哲也氏)。
選択
業務ロジック100%の変換が可能な「Xenlon~神龍 モダナイゼーションサービス」

総合企画本部 情報システム部
担当課長・システムセキュリティ推進室長
深谷 高英氏
JR東海とJTISはまず、オープン化で一般的に用いられている手法を検討。品質・コスト・納期の条件を踏まえ、変換ツールでCOBOLからJavaに変換する「リライト」手法に可能性を見出した。この手法であれば、コストと移行リスクを最小限に抑えつつオープン化が可能と判断した。
そして2019年前半より、パートナー選定に着手した。「リライトは初めての挑戦テーマになるので、取引実績の有無に関わらず、少しでも可能性のある多数の会社に声をかけました。そして、システムの維持を継続できなくなるという危機的状況について、気持ちを込めて皆さんに説明しました」(仙田氏)。
しかし、多くの会社は大規模なリライトの経験・体制がないため、提案参加を辞退することになり、最終的にTISを含む3社が候補となった。
TISは「Xenlon~神龍 モダナイゼーションサービス」(以下、Xenlon)によるリライトを提案。これは、自社開発の変換技術を利用して、業務ロジック100%の精度でCOBOLからJavaに自動変換するという特長を持つ。
TISの提案について深谷氏はこう振り返る。「変換精度を示す数値は他社ツールよりかなり高く、過去に約1,000万ステップの大規模案件を手がけた実績も、客観性のある評価基準になりました」。さらに、RFP(提案依頼書)で候補となる3社に投げかけた、プロジェクトで想定される技術課題に対する解決策からも、TISの技術力の高さが裏付けられた。
また、Xenlonの印象を仙田氏はこう語る。「他の2社は海外ベンダーの変換ツールを利用したリライトの提案でした。他方、TISは自社開発した変換ツールのため、プロジェクト開始後に発覚するメインフレーム固有の技術課題にフレキシブルに対処してもらえる可能性が高いと考えました」。こうして、総合的に高い評価を得たTISが、パートナーとして正式採用された。
開発
3か月の並行稼働でシステム品質を高め、切替判定会議を通過
プロジェクトは2021年2月にスタート。まず、国内メーカーのメインフレーム上のCOBOLを変換する準備段階として、TISが実際のプログラムを検証して、Xenlonのチューニングを実施。その後、トータル約250万ステップのプログラムを順次、COBOLからJavaへと自動変換していった。
約2年10か月のプロジェクト期間の大部分は、変換前後のプログラムで、同じ処理結果が出ることを確認する「現新一致テスト」にあてられた。「単体テスト」→「結合テスト」→「総合テスト」と順番に範囲を広げ、品質を確実に積み上げていった。「Xenlonでほぼ100%正確に変換できても、メインフレームとオープン系サーバの差異で挙動が異なる場合や、ブラックボックス化していたメインフレーム固有の処理が発覚することがあります。その都度、TISがチューニングを行い、中間プログラムを開発して課題を解決していきました」(仙田氏)。
プロジェクトの最終段階では、3か月をかけて現行システムと新システムを並行稼働させる最終確認を実施。その後、JR東海のシステム開発案件で標準ルールとなっている社内の切替判定会議へと臨んだ。「当社では『システム障害も事故』とみなされます。この切替判定会議は、社会インフラを支えるシステムの品質を客観的に確認して担保するという、重要な役割を持っています」(深谷氏)。
会議に向けて、それまでのテストの経緯・結果や、本番稼働後に想定される問題・リスクに対する対策などが資料としてまとめられた。「TISにとっては初の切替判定会議でしたが、しっかり対応いただいたことで無事に承認を得ることができました」(仙田氏)。
効果
運用・保守コスト約4割削減とシステムの継続性確保を実現
システムの本番切替は、2023年11月に実施された。「短期間で安定稼働させることができ満足しています。考えられる限りのテストをすべてやり切り、あらゆる課題を洗い出し、対処しながら品質を向上させたことが、成功につながったと思います」(仙田氏)。
今回のオープン化による一番のメリットは、保守性の向上だと深谷氏は言う。「以前は、メインフレーム専属の担当者が24時間体制で、エラー発生時の対応にあたっていました。移行後は、複数のオープン系システムの保守を担当するチームにエラーを自動通知し、対処する体制へ移行。以前より少ない人数で複数システムを保守できるようになり、運用保守コストを約4割削減できました」。
JR東海の業務システムの開発・改修・運用保守を担当するJTISから見たメリットを仙田氏はこう語る。「メインフレームやCOBOLの経験・知識がない若手社員が、業務システムに手を加えやすくなり、次世代へ技術力を継承できる環境が整いました。業務システムの継続性に直接貢献できたことが一番の収穫だと思います」。
また、オープン化によって、データ利活用に向けて大きく前進したと仙田氏は言う。「現時点では、レガシーシステムのデータ構造をそのまま引き継いでいる部分があり、データの扱いやすさの点で、今後対応していく課題があります。しかし、 “DXの入口”に立ったのは間違いありません」。
深谷氏はDXへの意欲をこう語る。「プロジェクト期間を通じて、何度も“リライトは終わりではない”と口にしてきました。今後は運輸収入・輸送統計システムに蓄積された、きっぷの売上データや走行実績データを分析し、新しい付加価値を生み出すDXも実現したいと考えています。TISの支援も得ながら、技術動向などの最新情報を把握し、新しいテーマに挑戦していこうと思います」。

名古屋基幹システム本部
旅客営業システム部
グループマネージャー
仙田 哲也氏
JR東海様の声

東海旅客鉄道株式会社
常務執行役員
総合企画本部副本部長・情報システム部長
齋藤 隆秀氏
当社は、「収益の拡大」と「業務改革」の2つの柱からなる「経営体力の再強化」に取り組んでいます。今回の基幹系メインフレームのオープン化により、ICTとデータをフル活用できるシステム基盤の整備を一歩進めることができました。
TISの洗練された「Xenlon~神龍 モダナイゼーションサービス」の活用、発生した課題への迅速な対応など、多くのご支援により、計画どおり実現できたことに感謝いたします。生まれ変わった新システムを活用して、新しい発想によるサービスの向上や、より効率的な業務執行体制の構築に取り組んでまいります。

東海旅客鉄道株式会社
総合企画本部 情報システム部
担当課長・システムセキュリティ推進室長
深谷 高英氏
当初の想定どおり、プログラミング言語の自動変換精度が極めて高く、その結果、メインフレームとオープン系サーバの環境差異に起因する課題解決に注力することができました。開発プロジェクトメンバー間のコミュニケーションがとてもうまくいっており、課題を早期に共有し、適切な対策を講じることができました。開発期間中、TISにおいて必要な体制強化を適宜実施していただいたことも、前例のない大規模リライトプロジェクトの完遂につながったと思います。
JTIS様の声

ジェイアール東海情報システム株式会社
代表取締役社長
岡嶋 達也氏
メインフレームのオープン化は、私共にとっても喫緊の課題ではありましたが、リライトマイグレーションという手法は、私共にも経験がなく、安全・安定輸送を旨として育んできたJR東海グループの企業文化の中では、かなりチャレンジングな課題となりました。さらにコロナ禍という制約の中ではありましたが、コミュニケーションに気を配り、会社の垣根を越えて一体感を醸成できたことが成功の鍵になったと思います。大変お世話になりました。

ジェイアール東海情報システム株式会社
名古屋基幹システム本部
旅客営業システム部
グループマネージャー
仙田 哲也氏
安全・安定輸送という企業文化の中で、ブラックボックステストによる品質確保はこれに排反する命題かつ経験のないプロジェクトでした。また、マイグレーションで苦労する一般の事案は発注者側に問題があることも多いと感じていたため、我々自身がいかに当事者意識を持って取り組むかが重要だと考えていました。こういった我々の状況を踏まえ、コロナ禍も加わる中でともに信頼関係を構築して伴走できると確信してTISを選定し、本当に良かったと思っています。
TIS担当者から

TIS株式会社
産業公共事業本部 産業ビジネス第3事業部
産業モダナイゼーションビジネス部 エキスパート
並川 晃幸
JR東海様・JTIS様のご期待に応えられたこと、そしてTISのメンバー全員がPJを通じて成長を実感でき、うれしく思います。お客様との距離が日に日に縮まり、一体感のあるPJ推進体制へと成熟していったことがとても印象に残っています。
これまで多くのお客様と仕事をさせていただきましたが、品質に対する意識の高さは最上級であるとも感じました。JR東海様とJTIS様が、事前の棚卸しで、変換対象のプログラムを約80万ステップ削減されていたことが、進捗の大きな助けとなり心より感謝いたします。

TIS株式会社
産業公共事業本部 産業ビジネス第3事業部
産業ビジネス第5部 エキスパート
禾本 純平
予定どおりにリリースでき、稼働後のトラブルもなく満足しています。PJが始まった時、TISを選んでいただいた理由を伺ったところ、Xenlonへの期待とともに、TISメンバーへの「人としての期待」が大きかったと聞き、身が引き締まる思いでした。
今回、TISにとって初の鉄道系の大規模PJであり、課題発生時は、この領域の豊富な知見・経験をお持ちのJTIS様に的確なアドバイスをいただき感謝いたします。PJを通して、たくさんのことを勉強させていただきました。
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