国土交通省関東地方整備局 荒川下流河川事務所様
住民の問い合わせ電話に対話型AIで応対。
「Dialog Play®」+CTI「Amazon Connect」で、AIコールセンターを短期間・低コストで構築。


背景
河川管理業務のDX施策のひとつとしてボイスボット導入を計画
荒川は、埼玉県・東京都を流れて東京湾へつながる全長173kmの一級河川。その下流部約30kmの河川管理を担っているのが、国土交通省関東地方整備局の一組織、荒川下流河川事務所である。「首都圏を大規模水害から守るため、ハードとソフトの両面で、堤防の整備・強化、震災対策などに取り組んでいます」(副所長 渡辺健一氏)。
同事務所の小名木川出張所は、河川のパトロールや工事の監督などの業務を受け持ち、全国初の“河川系DX出張所”としても知られている。「ウエアラブルカメラで映像を伝送する河川巡視や、3Dデジタル河川管内図を利用した工事進捗管理など、全国に先駆けたIT活用で、業務効率化を図っています」(小名木川出張所 専門調査官 志賀久枝氏)。
同出張所の取り組みをはじめとするDX施策のひとつに、住民などからの問い合わせに応対する窓口業務の効率化がある。2023年に、公式ホームページ上にチャットボットを公開し、PCやスマホからの問い合わせの自動対応を開始した。「テキストを入力して質問すると、回答が表示されたり、河川のライブカメラ映像や水位情報へのリンクを表示されたりと、ほしい情報を素早く入手できます」(渡辺氏)。
同事務所はこれに続き、問い合わせ電話に対し音声AIが回答する、ボイスボットの導入を計画した。「インターネットを使わない方からの問い合わせにも、24時間365日、音声で回答することが目標です。住民サービスの質の向上と、職員の電話応対の負荷を減らし働き方改革に役立てたいと考えました」(河川情報課長 山谷明氏)。
計画
TISの「Dialog Play®」に「Amazon Connect」を組み合わせてAIコールセンターを構築
音声回答の仕組みとして、ボイスボットを選んだ理由を山谷氏はこう説明する。「多くのコールセンターがIVR(音声自動応答システム)を採用していますが、会話の途中で電話機のボタンを押す必要があります。ボイスボットなら、より気軽にご利用が可能。また、新しい技術に挑戦し、全国の河川系事務所のDXモデルになればという思いもありました」。
今回導入を計画した、ボイスボットによるAIコールセンターは、運用中のチャットボット構築でも使われているTISの「Dialog Play®」に、クラウド型CTI(コールセンターサービス)「Amazon Connect」を組み合わせて構成されている。
まず代表番号にかかってきた電話をクラウドのAmazon Connectへ転送し、AIの自然言語処理技術で会話をテキストデータ化する。Dialog Play®は、これを受け取ってAIで文脈を解析し、用意された回答の中から最適なものを音声合成技術で読み上げる。Dialog Play®は柔軟なAPI連携ができる高い拡張性を持っているため、今回目指したボイスボットを容易に実現できる。
ボイスボットへ電話を転送する仕組みは、新しく取得した外線番号を「Amazon Connect」に割り当て、代表番号への着信をボイスワープで転送することとした。既存の内線電話網との親和性を山谷氏はこう説明する。「国土交通省の全国組織では、災害に備えて堅牢な独自の電話網が構築されています。今回、ボイスボット用の新しい外線番号をクラウド上に割り当てることで、内線電話網に影響なく計画を進められました」。
導入
会話シナリオのチューニングでスムーズかつ分かりやすい受け答えを目指す
今回、ボイスボットでの回答を想定したのは、問い合わせの中で頻度が高い約50項目。「たとえば、『河川敷を利用したいのですが』『花火をしてもいいですか?』といった定型的に回答できる項目が中心です。加えて、『総務課につないでください』のような取次依頼に答えるシナリオも準備することとしました」(山谷氏)。
この会話シナリオは、既存のチャットボットで使用されているFAQを流用することで、準備にかかる期間や手間の削減を目指した。「ただし、もとのFAQの文章内に括弧書きの補足があるような場合、音声AIがそのまま『カッコ』と読み上げてしまい、意味が通りにくくなります。自然な回答となるよう、十分な時間と人手をかけて調整しました」(山谷氏)。FAQ文書のチェックと修正は、所内の各部署が手分けをして実施。この作業を10回程繰り返し、回答の精度を高めていった。
なお、災害時等に備えて、電話の内容が“緊急コールセンターにつないでほしい”のような場合は、担当者に電話を転送する有人対応のフローを組み合わせて運用することとした。
TISは並行して、発信者の音声を正確に聞き取るためのチューニングに取り組んだ。「特に、河川敷など屋外からの電話は、風の音などで認識しにくいため、ボリュームの最適化を行っています。また、『はい』『えーっと』のような発声が拾われて誤認識が起きないよう、TISには音程調整などで精度を可能な限り高めていただきました」(山谷氏)。
目標
ボイスボットの導入経験を横展開することで全国の事務所のDXを支援
ボイスボットを利用したAIコールセンターは2024年5月初旬に正式稼働を開始した。同事務所の公式キャラクター「ガンブッチ君」が質問に声で答えるというコンセプトを設けることで、住民に親しまれるサービスを目指している。「河川系事務所として初のボイスボットが提供できたことは、とても有意義だと感じます。今後はご利用になった方の意見を取り入れながら、よりよいものにしていきます」(渡辺氏)。
当面の目標は、より多くの質問にボイスボットが回答できるよう、会話シナリオを充実させること。「先に導入したチャットボットでは既にFAQを追加する作業を内製化しています。同じように、ボイスボットへ会話シナリオを追加する作業も、事務所内で完結できるようにしたいと考えています」(山谷氏)。
今回得たボイスボットの知見は、他の河川系事務所とも共有していきたいと、渡辺氏は意欲を見せる。「当事務所のDX施策は、全国組織の参考となる先行モデルと位置づけられます。報告会議などでボイスボットの導入経験を紹介し、情報を横展開していくことが非常に重要だと考えています」。
最後に山谷氏はこう締め括る。「DXはツールを“入れて終わり”ではなく、継続的に使いやすさを改善していくことが大切です。TISには、運用支援フェーズを通じて、さらに高い精度で応対できるようチューニングなどをお手伝いいただきたいと思います」。
お客様の声

国土交通省関東地方整備局
荒川下流河川事務所
副所長
渡辺 健一氏

国土交通省関東地方整備局
荒川下流河川事務所
河川情報課長
山谷 明氏

国土交通省関東地方整備局
荒川下流河川事務所
小名木川出張所専門調査官
志賀 久枝氏
初のボイスボット導入にあたり、TISが親身にレスポンスよく対応してくれたことをありがたく思います。
現状はシナリオ型での音声回答ですが、より多くの問いに柔軟に答えられる生成AIの技術の可能性にも注目しています。TISによれば、Dialog Play®は既に生成AIと連携させるシステム構築の実績があるとのこと。将来的に当事務所のボイスボットが目指す最終形態として、生成AIをどのように活用できるのか慎重に考えていきたいと思います。
TIS担当者から

TIS株式会社
ビジネスイノベーション事業部
ビジネスイノベーションM&S部 マネージャー
鈴田 高之進
今回、Dialog Play®がお客様の新たな挑戦であるボイスボットシステム実現に寄与し、DX推進に貢献できたことに満足しています。
住民の発話音声認識や会話シナリオ作成では、荒川下流河川事務所の山谷様にご協力いただき、音声認識の精度向上に努めました。運用支援フェーズでは、音声認識の精度向上や対話シナリオの精査、内製化支援を行っています。
この経験をもとに、一般企業・団体のお客様に向け、短期間でDialog Play®を用いて音声ボットを導入できるメリットをアピールしていきます。また、生成AIを連携させ、さらに利便性を高めたハイブリッドチャットボットもご提案していきたいと考えています。

TIS株式会社
デジタルイノベーション事業本部
デジタルイノベーション営業統括部
デジタルイノベーション第2営業部 チーフ
仁科 宏昭
今回構築したAIコールセンターは、Dialog Play®とAmazon Connectを組み合わせることで実現しています。これまでAmazon Connectは、本格的なコールセンター向けCTIサービスとして、単体で導入されるお客様がほとんどでした。Dialog Play®との連携によって、応対業務負荷削減に役立つAIコールセンターの短期構築という、従来のCTIの枠組みを超える新たな可能性が広がりました。この経験を生かし、今後もさまざまなお客様へ、Amazon Connectを組み合わせた応対業務効率化のソリューションをご提案していきたいと思います。
今回の取り組みで、荒川下流河川事務所様ならびにTISは、AIコールセンターの最初の一歩を踏み出すことができました。今後もお客様とディスカッションを重ね、生成AIとの連携など最新技術の組み合わせも検討しつつ、より住民の方が使いやすいサービスへと進化させていきたいと思います。
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