JFEスチール株式会社様/JFEシステムズ株式会社様
JFEスチール東日本製鉄所(京浜地区)、基幹システム3,400万ステップを29カ月でオープン化。
成功を支えたリライト技術×現場主導のPJ推進。
Summary
- 自社開発のリライトツールで業務ロジックの変換精度100%を実現。
- 大規模モダナイゼーションを29カ月で完遂。
- PL/Iの「方言」を独自ツールで解析し、変換精度を追求。
- JFEスチールによる一般企業のモダナイゼーション支援もTISが技術協力。
背景
――全国の製鉄所・製造所のシステムをオープン化する構想に至った背景をお聞かせください。
西:
全国の製造拠点※を支える基幹システムは、1970年代にメインフレーム上に構築し、現場が知恵と工夫で磨き上げてきました。受注から製造設計、出荷、品質管理に至るまで、製鉄所のあらゆる業務を支える心臓部そのものです。
しかし、DXの必要性が叫ばれる昨今、レガシーシステムでは新しい技術を導入しようとすると、どうしても限界がある。我々製造業が成長を続けていくため、モダナイゼーションは必然的な選択でした。
※仙台、千葉、京浜、知多、倉敷、福山の6拠点
――レガシーシステムへの依存が続くことで、どんな影響が想定されましたか?
西:
まず、遠からずベンダーによるメインフレームの保守が終わることが予想され、インフラ移行が遅れると事業継続に影響が及ぶリスクがありました。
さらに深刻だったのは「人」の課題です。PL/IやCOBOLといったレガシー言語に精通したエンジニアは高齢化し、次々と現場からいなくなっていきます。このままでは、複雑な業務ロジックを理解する人間が現場から消えてシステムがブラックボックス化し、手が出せなくなってしまう。
このように眼の前に迫る“インフラの崖”を突破し、持続可能なシステム基盤を維持することは製造業として避けて通れない経営課題でした。
――東日本製鉄所(京浜地区)のプロジェクトは、全体構想の中でどのような位置付けだったのでしょうか。
西:
東日本製鉄所(京浜地区)は、全拠点のモダナイゼーション計画の中で、仙台、倉敷に続く3番目のプロジェクトです。基幹システムは、3,400万ステップという膨大なもの。業務ロジックを知り尽くしたベテランが現場に残っている時こそが、ブラックボックス化を阻止できるデッドラインだと捉えていました。
仙台と同じくIBM製のメインフレームで、ほぼ同じアーキテクチャ。先頭を切った仙台の成功体験をフルに活かして効率的に進めたいという思いがありました。
――東日本製鉄所(京浜地区)は2023年に、構造改革の一環として高炉休止が発表されています。その状況下であえて大きなIT投資を決断した理由は何でしたか?
西:
おっしゃるとおり、製鉄所のシンボルである高炉が止まり、将来への不安から現場の士気も下がりかねない時期でした。収益が減少する拠点への新規投資は見送る考え方もあるでしょうが、私は逆に「今こそ改革が必要だ」という思いを強くしていました。
メインフレームという古い足かせを外すことは、新しい姿に生まれ変わるための希望そのものです。あえてアクセルを踏むことで、会社は京浜地区に期待している、ここから新しい京浜の歴史をつくるんだというメッセージを現場に伝えたかったのです。
山下: 実際、投資計画を聞いた現場から大きな反応がありました。「自分たちの拠点に、これほどの投資をしてくれるのか」と、感謝の声が上がったほどです。現場には、自分たちの力でプロジェクトを成功させ未来を切り拓こうという、非常に前向きなエネルギーが生まれました。このモチベーションが、現場が一丸となってプロジェクト推進を主導する、最大の原動力になったと感じます。
選択
――最初はリビルド(再構築)を検討されたそうですが、方針を転換した理由をお聞かせください。
西:
最初は6拠点すべてでシステムをリビルドする構想を掲げていました。これは、業務フローそのものを見直したうえで新しい機能を追加し、Javaでつくり変えるというアプローチです。
しかし、製鉄所の業務はあまりに巨大かつ複雑であり、現場が数十年かけて積み上げてきた数十万本のプログラムには、膨大な暗黙知が凝縮されています。時間とお金が有限である中、これらをすべて解き明かして設計書に書き起こし、Javaで開発し直す作業は困難であるという結論に達しました。
――そこでリライト手法に切り替えたわけですね。
西:
はい。PL/IやCOBOLで書かれたプログラムをそのまま、ロジックを変えることなくJavaに変換するリライト手法に方針を転換しました。
基幹システムが止まってしまうと、工場は動きませんし、ビジネスがまったく継続できません。数十年蓄積してきた業務ノウハウの結晶であるシステム資産を確実に継承するには、リライトが最も成功の可能性が高いと考えての選択でした。
――大規模リライトのパートナーとして、TISを選定した決め手は何でしたか?
田村:
2020年当時、大規模なリライトに対応できる会社は、世界を探してもごくわずか。そのような中、仙台製造所のリライトのパートナーとなったTISは、期待に応えてプロジェクトを成功へと導いてくれました。
今回TISを選んだのも、仙台の実績が一番の決め手でした。そのとき確立した手法や蓄積した知見をそのまま展開できる安心感は、代えがたいものでした。
――TISのリライト技術に対する期待はいかがでしたか?
大坪: 仙台で実績をあげたTIS開発のリライトツール「Xenlon~神龍(シェンロン)Migrator」の高い精度に、今回も期待しました。PL/IやCOBOLをJavaへ自動変換する精度は、ビジネスロジックにおいてほぼ100%であることは仙台のプロジェクトで実証済みでした。
西: ツールだけでなく、TISという会社の“粘り強さ”にも期待しました。大規模なモダナイゼーションでは、必ずと言っていいほど想定外の事態が起こります。そんな時、契約の範囲内・外で線を引くのではなく、最後まで寄り添ってくれる会社。『JFEスチール、JFEシステムズ、TISの3社がワンチームになって成功を目指す』という強い意志表示もいただき、命運をともにすることを決めました。
移行
――リライトに先立ち、対象プログラムの約6割を削減したそうですが、これほど大胆に移行資産を絞り込んだ狙いは?
西:
作業工数を減らすことでコストを抑える目的もありましたが、それより大きな理由は、スケジュールを1日でも縮めて、我々が早く“移行後の世界”へ行きたかったからです。
レガシーシステムの制約から解放されれば、新しい製造プロセスにあわせた新機能の追加や、蓄積されたデータを利活用するDXなど、攻めのIT投資が可能になります。
工期短縮の影響でたとえ小さな不具合が起きたとしても、早く次の世界に入った会社ほど有利になるはず。ですから、プロジェクトの期間短縮には徹底的にこだわりました。
――どの機能を移行し、どの機能を捨てるかで、現場の判断が割れることはありませんでしたか?
西:
本プロジェクトは、現場メンバーを抜擢した「製鉄所業務プロセス改革班」主導で進めたことで、円滑な合意形成ができたと思います。
通常の進め方で、もしシステム部門から「この機能を削っても構わないか?」と質問されたら、現場は使い勝手が低下する不安からまず間違いなく「必要だ」と答えるでしょう。しかし、現場の人間同士であれば「この帳票は誰も見ていないから削れますよね」と、実態に即して判断を仰ぐことが可能です。
山下: 現場のキーパーソンがプロジェクトの“仲間”として一緒に考えるとともに、彼ら自身に現場内の周知や説得を託したことも功を奏しました。結果として、3,400万ステップあった資産の約6割にあたる2,000万ステップを削減するという、通常では考えられない規模の削減に成功したのです。
――技術面では、特にPL/I特有の記述の「曖昧さ」が難所だったと伺っています。
田村: はい。PL/Iは自由度が高く、本来の規約から外れた記述も、メインフレームのコンパイラが都合よく解釈して動いてしまうことがあります。こうした「方言」のような書き方が各所にあり、そのまま厳格なJavaへ自動変換すると、予期せぬ挙動を引き起こす恐れがありました。TISは、この記述ルール違反を見つけ出す独自のツールを使って、プログラムを解析してくれました。そして、見つかったパターンをXenlon~神龍 Migratorの変換ロジックとして逐次追加し、自動変換後の品質を極限まで高めていったのです。
――データベースの構造が変わることも移行の障壁になったそうですね。
大坪: 階層型からリレーショナルデータベースへの移行も大きな壁でした。単にかたちを変えるだけでなく、ロジックを維持しつつ正しくデータを読み込めるよう、中身を紐解いて理解していく作業が不可欠でした。
田村: 前回の仙台のプロジェクトでは、このデータベース移行で予想以上に時間を要しました。その経験を踏まえ、TISが専用の移行ツールを開発したことで、データベース変換のスピードは前回の8倍に高速化できました。
品質
――当初の33カ月の計画を、29カ月で達成しました。4カ月も短縮できた要因はどこにありましたか?
山下:
鍵となったのは、テスト工程における“大胆な割り切り”です。仙台では、初のリライトの挑戦ということで、すべてのプログラムを対象に新旧の実行結果を突合する現新一致テストを実施しました。
しかし今回、Xenlon~神龍 Migratorの変換精度を信頼し、仙台で既に実績のある技術要素についてはテストを大幅に省略しました。
――全件テストしない方針は、勇気のいる決断ではありませんでしたか?
西: もちろん、品質を担保することは重要ですが、100%完璧を目指せば、期間もコストも際限なく膨らみます。そこで我々は、テストに明確な「濃淡」を付けることにしました。
山下: 例えば、取引先へ提出するミルシート(検査証明書)のように、一箇所のミスも許されない重要機能は、徹底的に厳密なテストを行います。一方で、現場の限られたメンバーしか使わない補助的な帳票などは、「万が一不具合があったとしても、本稼働後に直せばいい」というスタンスで、100枚ある帳票のうち1枚だけを確認するといったように大幅な省力化を断行しました。
西: このようにリスクを取る最終決断は、ベンダーであるTISにはできません。ユーザーである我々自身が責任を持って「ここは省略していい」と決めたからこそ、日本最短記録とも言えるスピードで大規模リライトプロジェクトを完遂できたのだと思います。
効果
――移行後の品質と、現在の保守体制の状況についてはいかがでしょうか。
西: 本稼働後、小規模な不具合はいくつかありましたが、Xenlon~神龍 Migratorの変換に起因するものはほぼゼロでした。品質の高さに非常に満足しています。
大坪: プログラム構造自体はメインフレーム時代のままなので保守性が低下するのではと懸念していましたが、調査ツールなどのオープンな技術が使えるようになったことで、障害の原因特定も以前よりスピードアップしています。
田村: JFEシステムズにとっての大きな収穫は、レガシー言語で保守を担当していたエンジニアたちの適応力です。当初はベテランエンジニアが新環境に適合できず離職してしまうのではと心配していました。しかし、彼らは強い危機感を持ってJavaを習得し、新環境で保守にあたってくれています。業務に精通したベテランの知見を失うことなく、システムを若返らせることができたのは、当社にとって大きな収穫です。
――経営的な観点から、システムをモダナイゼーションした意義をどのように考えますか?
西:
高炉から電気炉へのシフトであったり、電磁鋼板を大量に製造できるラインの新設であったり、製鉄所の構造自体が大きく変化し続けています。そのような中、レガシー言語で固められたシステムでは即応できません。今回のモダナイゼーションによって、センサーデータを分析する故障予知やリアルタイム品質管理など、以前は実現できなかった技術の導入が視野に入ってきました。経営上のインパクトはとても大きいです。
なお、進行中の他拠点でのプロジェクトも完了間近で、2026年3月までに全6拠点のモダナイゼーションが完了します。
展望
――今回の成功体験を「外販サービス」として展開する構想があるとお聞きしました。
西:
日本の産業界において、困難に直面している多くの企業を支援したい、という想いが根底にあります。メインフレームという古い足かせによって、本来の力を発揮できていない企業は日本中にたくさんありますが、これは、国力低下にもつながる大きな問題だと捉えています。
当社の成功を耳にした他の製造業の方からは「本当にできたんですか?」という驚きの声もいただきました。どうやって実現したのか、その手法に高い関心を持たれています。そんな皆さんを製鉄メーカーである我々が支援し、古いアーキテクチャからの脱却をお手伝いするという新しい試みです。
――具体的な支援の内容をお聞かせください。
西:
たとえばリライトが適した企業には、Xenlon~神龍 モダナイゼーションサービスの活用ノウハウをご紹介する支援のかたちが考えられますが、必ずしもITツールの領域にはとどまりません。我々が最も価値があると考えているのは、プロジェクト推進の知恵そのものです。
製造の現場の合意をどう形成し、どのような体制を組み、どう移行対象資産を削減して短期移行を成功させるのか。そうした実体験に基づく、プロジェクト推進の知恵そのものを提供し、会社を変えたいという意志を持つ“やる気のあるリーダー”の力になりたいと思います。
――最後に、TISとのパートナーシップについてお聞かせください。
西:
Xenlon~神龍 Migratorという技術も最高ですが、それ以上にTISの“やりきる力”はすごい。最後まで粘り強く寄り添ってくれる姿勢に、本当に信頼できる会社であることを改めて確信しました。
今後もシナジーを創出するパートナーとして、日本の製造業全体のモダナイゼーション実現を目標に進んで行きたいと思います。今回のプロジェクトの成功が、日本の底力を引き出すきっかけになることを強く願っています。
Company Data
JFEスチール株式会社
本社:東京都千代田区内幸町二丁目2番3号
設立:2003年
事業内容:鉄鋼事業
URL:https://www.jfe-steel.co.jp/
JFEシステムズ株式会社
本社:東京都港区芝浦1丁目2-3シーバンスS館
設立:1983年
事業内容:ソリューション・プロダクト事業、ビジネスシステム事業、鉄鋼業界向け事業、基盤サービス事業、DX事業
URL:https://www.jfe-systems.com/
TIS担当者から
TIS株式会社
SRFビジネス部
部長
葛谷 憲彦
TIS株式会社
SRFビジネス部
副部長
水野 友太
JFEスチール様、JFEシステムズ様とともに、ワンチームになれたことが、大規模なマイグレーションプロジェクトを乗り切る最大の成功要因だったと思います。
現場の皆さんが主導する大胆な資産削減の決断や、効率化を追求したテスト工程など、お客様の強いリーダーシップには大きな刺激をいただきました。加えて、TISが培ってきたリライトの技術資産を最大限に活用し、おかげさまで当初33カ月の計画を、29カ月で達成することができました。当社がこれまで手がけた同程度の規模のリライトプロジェクトの中で、最短記録となりました。
今後は、オープン化された基盤を活かしたAIとの連携や品質データ分析など、攻めのITの領域でも、引き続き伴走させていただければと考えています。
※本文中の社名、製品名、ロゴは各社の商標または、登録商標です。