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サントリービジネスエキスパート株式会社様

脱メインフレーム
~サントリー様「受注出荷システム」200万ステップを如何にダウンサイジングしたか~

社名 サントリービジネスエキスパート株式会社
設立 2009年2月16日
事業内容 サントリーグループの各事業会社に共通する品質保証、技術開発、SCM、CRM、宣伝、デザイン、情報システム、経理・給与計算などの業務・機能を集約し、サントリーグループ全体の競争力を強化して、価値の創出や向上に貢献するとともに、お客様へのよりよい商品・サービスの提供を目指す。
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1. はじめに

サントリー様の受注出荷システムは1986年から約20年間メインフレーム(以下「MF」という)で度重なる機能拡充を受けながら安定的に運用されてきた。これを約3年間かけてMF併用型で段階的にUNIX機にダウンサイジング(脱MF)することにより、大規模開発になればなるほど発生する生産性の低下、納期遅延のリスク、一斉本番導入に伴うシステムトラブルによる経営リスクをヘッジし、2006年1月に「脱MFプロジェクト」を完遂した。本稿では、サントリー様受注出荷システム200万ステップをどのような手順でダウンサイジングしたか、そのポイントについてご説明する。

2. 脱メインフレームの目的

受注出荷システム「脱MF」の目的は以下のとおりである。

  • MF及び全国の物流拠点を結ぶ専用回線、MF専用端末、MF専用プリンタ等を撤去してシステム運用費用を削減する。
  • リアルタイム処理化を推進し、営業部門、生産部門、グループ会社をはじめ、お得意先様、倉庫、運送会社等の社内外のユーザに対してサービス向上を図る。
  • 倉庫、運送会社等の要望に応え、24時間365日稼働を実現する。
  • オブジェクト指向、J2EEコンポーネントベースの開発により開発運用生産性の向上を図る。

3. 脱メインフレームのロードマップ

3.1 第1ステップ

第1ステップの対象システムは「受注システム」、「売掛請求入金システム」、「営業仕訳システム」及び「需給DB(注1)」と「営業ベーシック(注2)」のステージング(注3)である(図1参照)。ここでのポイントは脱MFの第1ステップとして受注出荷システム全体の入口「受注システム」と出口「営業ベーシック」を押さえることにより、後続システムのダウンサイジングを可能としたことにある。

図1. 脱MFのロードマップ:第1ステップ
  • (注1) 需給DB:実在庫だけでなく受払の予定も管理する在庫DBのこと
  • (注2) 営業ベーシック:いわゆる出荷売上ジャーナルのこと
  • (注3) ステージング: MFのデータをUNIX機に転送してデータベースを構築すること

3.2 第2ステップ

第2ステップの対象システムは「出荷システム」、「倉庫受払システム」、「取引確定システム(営業ベーシック作成)」、「在庫システム(需給DB作成)」である(図2参照)。受注システムと営業ベーシックの中間に位置する出荷システム、倉庫受払システムを構築し、さらに取引確定システム、在庫システムを並行本番運用することで新旧システム処理結果の突合(以下「白黒突合」という、サントリー様はMFを黒画面、Webを白画面と呼ばれている)を行い、システム品質の確保を図った。

図2. 脱MFのロードマップ:第2ステップ

3.3 第3ステップ

第3ステップの対象システムは「社内移動計画システム」、「パレット需給システム」、「出荷ご案内書システム」、「既存保証システム」及び脱MFの仕上げとしての「営業ベーシック」、「需給DB」の本番切替とMF連携の停止である(図3参照)。
なお脱MFプロジェクトの3年間の開発スケジュールは図4のとおりである。最後の半年間は第2ステップと第3ステップの開発、導入展開、本番フォロー、リリース済み機能のトラブル対応が集中し、さらにハード障害によるMF停止事故等も発生して、極めて高負荷で納期必達の厳しいプロジェクトであった。

図3. 脱MFのロードマップ:第3ステップ
図4. 脱MFのスケジュール(実績)

4. 各システムのポイント

4.1 受注システム

お得意先様からの受注を受け付け、在庫を引き当て出荷倉庫等の物流要件を決定し、後続の出荷システムにつなぐシステム。非同期疎結合を合言葉にリアルタイム処理を推進し、受注受付処理と在庫引当処理とを非同期にして受注入力レスポンスを向上させることにより業務の効率化を図った。またMFと受注データ、受払データをリアルタイム連携することで、MF受注システムとUNIX受注システムの同時使用を可能とし、品質リスクを回避しながら全国各地のサントリー、サントリーフーズの受注センターに段階的にシステム導入していった。しかしながらWebでの受注入力の操作性はMFのタッチペン入力には到底かなわず、操作性の改良やパフォーマンス改善を何度も加えながら、初回導入から全国展開完了までに約10ヶ月を要した。

4.2 売掛請求入金システム

営業ベーシックから売掛金、空容器回収手数料、消費税等を計算し、お得意先様への請求書発行、振込・現金・小切手・手形・口座振替等による入金消込、手形管理、滞留管理、債権残高管理を行うシステム。サントリー、サントリーフーズ、ペプシ各販社の共通システムとして構築。各社各様の請求書様式を卸向けと小売向けの2種類に統一し、印刷、封入封緘、発送業務をアウトソーシング。さらに各拠点で行っていた入金消し込み業務をグループ経理センターに集中化した。

4.3 営業仕訳システム

営業ベーシックから製品販売、空容器、ギフト券等の会計仕訳を作成し、会計システムにインターフェースするシステム。プロコン(プログラムコンスタント値)を排除し、完全パラメータ化して仕訳処理の見える化を実現。ここでは高速Javaバッチ処理に挑戦し、試行錯誤の結果、20万件のトランザクションの仕訳処理を20分以内で実行できるように実装できた。高速Javaバッチ処理の秘訣は、主に処理の並列化と従来の1件ごとに処理をループさせるプログラム構造をやめて、ポイントごとに複数件をまとめて処理するプログラム構造にすることにある。

4.4 出荷システム

受注及び社内移動計画を元に出荷指図を行い、運送会社による配車、得意先出荷伝票、社内移動出荷伝票の出力、倉庫、運送会社との各種伝送データ送受信を行うシステム。エクストラネットを利用してWeb化することにより全国各地に点在する物流拠点を結ぶ専用回線、MF専用端末を廃止し、出荷伝票はPDF出力することによりMF専用プリンタを廃止した。伝送データ送受信については物流協力会社の要望に応え、既存フォーマットと新フォーマット(csv)の2種類を用意。クロスドッキング等の新しいニーズに対応した。
受注と営業ベーシックの中間に位置する重要なシステムだけにシステム導入計画の検討には相当な時間を要した。一部の倉庫、運送会社に先行リリースすることも検討されたが、お得意先様に新旧の出荷伝票が混在して届けられることを避けるため、最終的には機能別に全国展開リリースすることとなった(出荷指図→配車及び伝送データ受信→伝送データ送信→社内移動伝票出力→得意先出荷伝票出力の5段階に分割して本番リリース)。
MF連携については、システム導入スケジュールや接続相手先システムの切替時期にできるだけ制約を受けないようにMFとUNIXの双方向リアルタイム連携方式とした。このMF連携処理は非常に複雑でトラブルも多数発生したが、MF撤去までたった5ヶ月間のために複雑なMF連携機能を構築した目的は、機能別に段階リリースすることによるリスク回避と、本番データで白黒突合することで、MFプログラムの解析不足、新システムの不具合等による品質不良をあぶり出すことにあった。これによって伝送処理、出荷伝票作成等の重要機能を本番データで白黒突合することが可能となり、各機能のリリース前に品質向上することができた。突合しアンマッチの分析をして、あらためて先人が構築、運用してきたMF受注出荷システムの奥深さを思い知ることになる。

4.5 倉庫受払システム

出荷事後、返品、持ち戻り、空容器回収、ギフト券回収、破損、廃棄、セット品分解、製造予定、製造実績、品質区分変更、棚卸など製品の受払に関わるあらゆる業務のインプットを行うシステム。倉庫受払システムも出荷システム同様にMF連携を双方向リアルタイム化し、MFとUNIXの同時利用を可能として、段階リリースを行いながら品質向上を図った。

4.6 取引確定

出荷、空容器回収、社内移動、製造、廃棄、破損などの各トランザクションを元に帳合決定、単価決定などを行い、商取引を確定してジャーナルを作成するシステム。まずサントリーフーズ版をバッチ処理で構築し、処理方式、処理時間等を検証。サントリー版構築時にリアルタイム処理化して後続システムへのサービス向上を図った。
営業ベーシックはお得意先様への請求や販売予実等の重要業務に影響を与える絶対に誤りの許されないデータであるため、システム構築後は毎日並行本番し、白黒突合を行ったが、上流システムである出荷システム、倉庫受払システムのシステム導入スケジュールやMF連携処理の不具合の影響をまともに受け、アンマッチの解消までに約5ヶ月を要した。

4.7 在庫システム

期首在庫と受払の予定、実績を管理するシステム。受注出荷システムのインフラ。MFは需給と受払は別管理で且つ日別に受、払、残高を持つ横持ち設計であったが、UNIXでは需給と受払を統合し、管理できる期間に制限を設けず且つデータベース更新パフォーマンスがより高くなる縦持ち設計とした。残高は在庫引当処理や在庫検索処理の都度計算して求めることになるが、アプリケーションサーバ、データベースサーバの性能向上とパフォーマンスを意識した設計により実用に耐える実装を実現した。

4.8 社内移動計画システム

社内移動入力、適正在庫配置計算及び社内移動計画の作成、受注時点での補充社内移動計画を作成するシステム。100人月超の大きなシステムで、しかも脱MFのアンカーとして納期遅延は絶対に許されない案件であり、出荷システム、倉庫受払システムが開発ピーク中にプロジェクトを立ち上げる必要があったため、他部門に支援を要請してエース級のSEを集めプロジェクト編成した。適正在庫配置計算は過去の出荷実績等と多種多様なパラメータ変数を元に最適な在庫配置を計算する非常に複雑なシステムで、構築にあたっては陳腐化した機能を取り除き、新しい機能も取り入れながら開発した。

4.9 MF連携停止

MF連携を停止するにあたり、脱MF後のシステムの全体品質を検証することを目的として、MF連携版受注出荷システムと脱MF後受注出荷システムの両方に本番データから任意に抽出した同一トランザクションデータを処理させ、処理結果を突合する全体テストを実施した。結果、アンマッチは、すべては解消しなかったが、MF撤去までの数日間で対処できうる内容であると判断し、期日通りにMF撤去することをサントリー様にご承認いただいた。
実際にMF連携を停止してみると、それまで毎日のように発生していたトラブルやアンマッチが嘘のように解消し、極めてスムーズに脱MF後の新受注出荷システムをスタートさせることができ、現在も安定的に運用されている。MF連携については最後までトラブルに悩まされ続けたが、それ以上にMFに救われ、教えられることが多く、新受注出荷システムが独り立ちするまでの必要な過程であったと確信している。

5. おわりに

受注出荷システムはサントリー様の日々の営業活動を握る基幹中の基幹システムであり、最高のシステム運用品質が求められる。20年前のMFシステムと大きく変わったことは「リアルタイム化」が進んだことであり、システム運用品質を保つための各種運用ツールもそれに伴いリアルタイム化することが要求されている。今後も新受注出荷システムをブラッシュアップしながら、最高のシステム運用品質を追求していく所存である。

お客様コメント

サントリービジネスエキスパート株式会社
ビジネスシステム本部 グループ情報システム部 課長
脱MFプロジェクトリーダー 上野 誠様

弊社では脱メインフレームということで、全システムのダウンサイジングを2003年より実施してきておりますが、TIS様にはその中で受注出荷システムというお得意先様からいただいた受注に関して確実に届け請求するというメーカーの最重要システムを担当いただいております。
これらシステムの特徴はトラブルが即、納品拒否や売上減といったビジネスへの悪影響に直結するというリスクを持っていることです。TIS様にはこれを考慮いただき、安全にかつ安定的にシステム稼働させるために様々な提案をいただきました。開発においては、リスクヘッジしながら順次移行していくための新旧連携システムや全体スルーテストの実施、また運用保守フェーズにおきましても、システム内外のデータ整合性チェック、問合せ窓口の設置等です。結果的に少々トラブルは発生しましたが、お得意先様へご迷惑をおかけするような事態は発生せず、TISさんの緻密な仕事に感謝しております。また緻密さだけではなく、納期通りに仕上げるという責任感に基づく昼夜徹した精力的な作業には頭が下がる思いですし、弊社からの改善要望に対するレスポンスの速さにも満足しております。
お陰様で、現在システムは安定稼働しており、当初目的どおり①コスト削減、②スピードアップ、③24時間・日曜稼働を実現し、社内ユーザー、物流協力会社様からも高い評価を得ています。今後もより良いロジスティックシステムを目指して活動していきますので、ご協力よろしくお願いします。またメンバーの方々も我々メンバーと同年代の方が多いということもありますので、お互いスキルアップできるように切磋琢磨していきましょう。
本当にありがとうございました。

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更新日時:2023年10月4日 23時7分