旭化成株式会社様
旭化成「SAP HANA」導入支援で、大規模ERPとBIのリアルタイム連携を実現
グループ内に13あったSAP ERPの集約を進める旭化成株式会社(以下、旭化成)は、これを機に、BIツール用の情報基盤刷新に着手した。ITホールディングスグループのAJSとTISは、まだ国内で導入例が少ないインメモリ型データベース「SAP HANA」によるDWH構築を支援し、稼働へと導いた。
- ※BI:企業内に蓄積された情報を分析し、意思決定に役立つ情報を導き出すこと。ビジネスインテリジェンスの略。
- ※DWH:膨大な業務データを集積した情報基盤。データウェアハウスの略。
社名 | 旭化成株式会社 |
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設立 | 1931年 |
事業内容 | ケミカル・繊維、住宅・建材、エレクトロニクス、ヘルスケア |
URL |
課題
SAP ERP集約でビジネスのアジリティ向上を目指す
日本を代表する大手総合化学メーカーである旭化成グループは、持ち株会社と9つの事業会社でビジネスを手がけている。この旭化成グループを支える基幹情報システムの中心に位置するのが、SAP ERPだ。同社は2000年代前半にSAP ERPを大々的に導入し、財務会計から物流管理、在庫管理、生産管理に至るまで、あらゆる基幹業務で活用してきた。
2011年当時、グループ全体には事業ごとに13のSAP ERPが稼働していたが、同社はこれを2015年4月までに1つに集約することを計画。旭化成 情報システム部の藤本聡担当部長は、その背景をこう説明する。「事業分野ごとにSAP ERPが個別に存在する状態では、事業再編に伴うシステム移行・統合に多大な時間とコストがかかります。目まぐるしく変化する企業の環境に素早く対応できるよう、ERPの集約を決定しました」。
こうして2011年からスタートしたSAP ERP集約プロジェクトにSIerとして参画し、要件定義から設計、構築、運用までを担っているのが、ITホールディングスグループのAJSとTISだ。藤本氏は、両社を選択した理由について「AJSの前身は旭化成情報システムであり、弊社のシステムの実情を最もよく知るSIerです。TISは、SAP ERPの構築経験が豊富で技術対応力に期待しました」と語る。
現場から求められるBIの即時性
ERP集約と並ぶ、プロジェクトのもう1つの目的が、ERPのデータをもとに業務データの分析やレポート作成を行う、BIツール用のデータベースの統合であった。「ERPそれぞれにデータベースがぶら下がっていたため、ERPの集約に伴い、これらを1つのDWHに統合する必要がありました」(藤本氏)。
また、従来のBIツール用のデータベースは、日次もしくは1日に数回、SAP ERPからデータロードを行っていたが、情報の鮮度に課題があったという。「会計業務の場合、通常時は日次の夜間バッチによるデータロードで事足りますが、決算期や会計処理の締め日の間際では、よりリアルタイム性が求められます。たとえば、経費の勘定科目等を誤って入力してしまった場合、日次のデータロードでは、翌朝にならないとミスが分かりません。しかも、その時点でERPの情報を修正しても、本当に正しく訂正できているかをBIツールで確認するには、さらにその翌日まで待つ必要がありました」(同氏)。
また、これまで1日に数回のデータロードを行っていた、在庫・受注残などサプライチェーン系情報についても、より情報の鮮度を高めるために、ERPからのロードスピードを高速化することが求められていた。
選択
ERPとリアルタイム同期が可能な「SAP HANA」
旭化成は2010年の時点で、既にBIツール用の情報系統合基盤となるDWH製品の選定を行い、検索の高速性で定評のあるデータベース製品の採用を決めていた。しかし、2011年に開発に着手する直前になって、予期しない転機が訪れた。SAPジャパンから、インメモリ型データベース製品「SAP HANA」の提案を受けたのだ。
「SAP HANA」は、データをハードディスクでなく、すべてメモリ上に保持するインメモリ型アーキテクチャを採用したデータベース製品。大量のデータ検索の際にボトルネックとなるディスクアクセスを排し、かつ圧縮効率が高いカラムストア形式でデータを管理するため、大容量データに対する非定型アクセスや全件検索などで高パフォーマンスを発揮する。
SAPジャパンから説明を受けた藤本氏は、同製品に大きな可能性を見いだしたという。「『SAP HANA』が備える『SLT』という機能を利用することで、SAP ERPとのリアルタイム同期ができる。BIの情報の鮮度を左右するのは、検索スピードよりもERPからのデータロードの高速性であり、『SAP HANA』は弊社の業務課題を解決する上で、極めて有効だと感じました」。
なお、この「SLT」(SAP Landscape Transformation)は、ERPの情報が変更される都度データ複製を行うことで、「SAP HANA」とのリアルタイム連携を可能にする機能。データロードの高速化という、旭化成が求める条件に、まさに合致するものであった。
AJSとTIS の支援で評価作業を実施
そこで旭化成は、2011年6月から8月にかけて「SAP HANA」の評価作業を行う。実際の作業はAJSとTISが担当し、SAPジャパンの全面協力を得ながら動作検証に当たった。データロードのテストを行うため、実際の会計データを増幅させて作成した、本番環境とほぼ同等の容量のデータを用意し、パフォーマンスの検証が行われた。
評価作業の結果、検索パフォーマンスもデータロードのパフォーマンスも、満足のいく性能を発揮することを確認。この結果を受けて旭化成は、2011年9月、情報系統合基盤として「SAP HANA」の採用を決定した。当時、リリースされたばかりの製品で、国内での導入事例はまだほとんどなかったが「長期的な視点で見た場合、従来の仕組みの延長線上で構築したDWH基盤では限界が見えていました。新しい製品でしたが、チャレンジする価値が大きいと判断し、導入を決定しました」(同氏)。
導入
現場の声を聞きBIの要件定義を実施
こうして、2011年9月、先行するSAP ERP統合プロジェクトの一環として「SAP HANA」の導入が正式にスタートした。まずインフラ面では、AJSとTISが「SAP HANA」を組み込んだアプライアンスサーバの設置・導入・設計を実施。続いて行われた要件定義フェーズでは、AJSが長年培ってきた旭化成グループの業務知識と、TISのノウハウが活用できたと藤本氏は振り返る。
「BIの要件定義は、エンドユーザーが、どんな切り口のレポートを閲覧したいのか、どんなデータをどの程度の頻度で分析したいのかといった要望を聞くことに尽きます。そのため、製品スキルだけでなく弊社の業務に関する知識がないと現場ユーザーと話が通じませんが、AJSとTISのおかげで今回は極めてスムーズに作業を進められました。また、SAP ERPのデータ構造を熟知した両社の働きで、『SAP HANA』を介したマッピング作業に関しても貢献してくれました。」(同氏)。
想定外のトラブルに技術力で対処
「SAP HANA」をプラットフォームとして新たに開発されたアプリケーションの総合テストは、2012年8月からAJSとTISを中心に着手された。このフェーズでは、市場に出たばかりの製品に付きものの想定外のトラブルへの対処で、苦労させられた面もあったという。
「たとえば、膨大なデータの検索時にパフォーマンスが低下する現象に対しては、プロジェクトチームがSAPジャパンと協力して、原因調査と解決に尽力してくれました。こうした問題を1つずつクリアしていった結果、無事カットオーバーまでこぎ着けることができました」(同氏)。
なお、レポーティングを行う際のBIツールとしては、定型レポート用途にはAJSが開発したREPOPA、定型レポートに加えて詳細分析(ドリルダウン)を必要とする用途向けにはSAP BusinessObjectsの2種類が採用されている。レポーティング業務の中でも、明細データまでを参照する詳細分析においては、インメモリデータベースならではの高速性が有効に働いている。
効果
ERPの情報を即時抽出可能に
こうして2013年1月、「SAP HANA」を用いた新DWH基盤は稼働を開始した。まずは1月から、グループ全体の予算策定のための標準原価データの入力を開始。同年4月には、ERP集約プロジェクトの第一期カットオーバーと合わせて、SAP ERPからの実績データのロードも始まり、BIツールによる閲覧が可能となった。
「これまで、BIツールのデータ更新頻度は日次または日に数回を基準に考えていましたが、『SAP HANA』導入後はタイムラグが解消され、より正確なレポートを即時出力できるようになりました」(同氏)。
また、業務現場やシステム運用現場でも、システムパフォーマンス向上の効果が既に表れ始めているという。「以前の仕組みでは、SAP ERPから在庫データの差分をロードするのに30分ほどかかっていたのが、『SLT』機能により、ほぼリアルタイムにデータが反映されるようになりました。また、バッチ処理で数十万件の会計伝票を転送するのにかかる時間は、約4時間から約6分にまで短縮されました」。
ITパートナーとしてAJSとTISに期待
同社のSAP ERP集約プロジェクトは、2015年4月に全フェーズをカットオーバーする予定で進行中だが、それに伴い、ERPにぶら下がるBI用データベースの「SAP HANA」への統合も、順次進めていく予定だ。「AJSとTISには、今回得た経験を活かしながら、SAP ERPの集約・保守および『SAP HANA』の開発・運用面で強力な支援をお願いできればと考えています」(同氏)。
旭化成グループでは、ERP集約/DWH統合プロジェクトを、今後のビジネス成長のための重要な施策と位置付けているという。それだけに、藤本氏が本プロジェクトに懸ける思いも熱い。「システムが足かせになって、事業再編や新規事業展開のスピードに遅れが出てしまうのは、絶対に避けなければなりません。今回のプロジェクトが完了した暁には、旭化成グループの競争力強化と収益拡大を支えるシステムになると期待しています」。
お客さまの声
旭化成株式会社
情報システム部 担当部長
藤本聡氏
「SAP HANA」はリリースされたばかりで国内の導入事例はほとんどありませんでしたが、10年先を見据えた将来性のあるアーキテクチャを評価し、導入を決断しました。大きな挑戦でしたが、AJSとTISの支援で、無事カットオーバーを迎えることができ感謝しています。今後、両社にはERPと「SAP HANA」の開発・運用面はもちろんのこと、業務に役立つソリューションも積極的に提案いただければと思います。
担当者から
AJS株式会社、TIS株式会社担当者
旭化成様の基幹業務を支えるSAP ERP集約とともに、国内で前例の少ない「SAP HANA」導入という重要なプロジェクトを担当させていただき、感謝いたします。本プロジェクトは、ITホールディングスグループで取り組んでいる事案ですが、AJS、TISそれぞれの得意分野・専門技術を活かし、予定どおり「SAP HANA」導入のサービスインを迎えることができました。今回得た経験を活かし、DWH統合プロジェクトを確実な遂行と、安定した運用保守の実施、今後も旭化成様により良いソリューションを提供していきたいと思います。
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