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ガバナンスとは?意味や背景、強化のためのアプローチを解説

公開日:2025年12月

ガバナンスとは、企業が健全に組織を運営するために、自ら監督・管理を行う仕組みのことです。

近年、企業活動はグローバルに広がり、持株会社制の導入や海外子会社の増加といった動きが加速している傾向にあります。このような環境下において、組織全体を適切に統制するガバナンスの必要性が高まっています。

本記事では、ガバナンスの意味や注目される背景、ガバナンス強化によって得られるメリット、具体的な取り組み、実効性を高めるためのアプローチなどについてわかりやすく解説します。

1. ガバナンスとは

ガバナンスとは、企業が健全な経営と持続的な成長を実現するために、自らを統治・管理する仕組みのことです。この言葉は、英語で「統治」「支配」「管理」を意味する「governance」に由来しています。

企業が目標を達成し、持続的に成長していくためには、ガバナンスを強化することが不可欠です。

ガバナンスが機能している企業では、経営状況の透明性が高く、社内外からの信頼を得やすくなります。また、実効性の高い内部統制により、経営陣や従業員による不正や不祥事が起きにくい環境が整っています。

日本企業がグローバル市場で競争力を維持・向上させていくためにも、グループ企業全体でのガバナンス強化がますます重要となっているのです。

1-1. ガバナンスと混同されやすい用語

ガバナンスについて深く理解する上で、いくつかの用語の意味を整理しておく必要があります。

以下の表で、ガバナンスと混同されやすい用語として「コンプライアンス」「内部統制」「リスクマネジメント」の意味を確認しておきましょう。

用語 意味
コンプライアンス 「法令遵守」を意味し、企業や組織が法律、規範、社会倫理などを守り、公正に活動すること。
内部統制 健全な事業運営のために、組織が自律的に業務を適切に管理・監督する仕組みのこと。
リスクマネジメント 事業活動における潜在的な危険や損失を事前に特定し、それらを回避したり軽減したりするための対策を講じること。

2. ガバナンスの必要性が高まる背景

日本の上場企業では、持株会社体制への移行や海外子会社の増加が進んでおり、グループ全体を対象とした経営管理が不可欠になっています。

また、変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高いVUCA時代を迎え、ビジネス環境が急速に変化していることも、従来の経営管理体制では対応が難しくなっている一因です。

このような状況下で、連結決算や内部統制、グローバルガバナンスの観点から、単一の企業ではなく、グループ全体を対象とした経営管理体制の整備が求められています。これには、企業グループ全体でのガバナンス強化が重要となります。

ここでは、ガバナンスの必要性が高まる背景について、4つの観点から解説します。

2-1. VUCA時代の到来

ガバナンスが求められる大きな理由の一つに、VUCA時代の到来が挙げられます。

VUCAとは、不安定(Volatility)、不確実(Uncertainty)、複雑(Complexity)、曖昧(Ambiguity)の頭文字をとった言葉で、予測が困難なほど変化が速い時代のことです。

このような時代では、従来の経営手法や組織体制では競争力を維持することが難しくなる可能性があります。また、社会の常識も目まぐるしく変わる中で、企業はこれまで以上に厳しく評価されることも想定されます。

そのため、企業は経営環境の変化に素早く対応し、リスクを管理する体制を整えることが重要です。透明で健全なガバナンス体制を構築することで、変化に柔軟に対応し、企業価値を高めていくことが求められています。

2-2. グループ経営の複雑化

持株会社体制や海外子会社の増加に伴い、日本企業の経営管理は複雑さを増しています。そこでリスクを最小限に抑え、透明性を高めるために、ガバナンスの強化がますます重要になっています。

具体的には、1997年の独占禁止法改正で持株会社の設立が解禁されて以来、事業再編やグループ経営を強化する目的で、多くの企業が持株会社体制へ移行しました。持株会社は他社の株式を保有することで、その事業活動を実質的に支配・管理できるようになります。

また、経済産業省の調査によると、2023年末時点での海外にある日本企業の現地法人は約2万4千社にのぼります。海外子会社が増えるほど、連結決算や国際会計基準(IFRS)への対応など、グループ全体を一元的に管理できるガバナンス体制が不可欠となるでしょう。

参考:e-Stat|第54回海外事業活動基本調査の概要

2-3. 規制強化

財務報告の正確性と信頼性を確保するための規制が厳しくなっているため、企業にとってガバナンスの強化は欠かせません。

たとえば、2008年に施行された金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(J-SOX法)では、企業に適切な内部統制の整備と運用が義務付けられています。また、国際会計基準(IFRS)の適用が広がり、海外に多くの事業拠点を持つ企業では、会計処理のルールを統一し、透明性を確保することが不可欠となりました。

さらに近年では、企業の持続可能性やESG(環境・社会・ガバナンス)に関する情報開示を求める規制も強化されています。欧州のCSRD※1や国内のサステナビリティに関する開示基準などに対応するため、財務情報だけでなく、非財務データも統合的な管理・開示が求められています。

こうした流れに加え、金融庁や東京証券取引所もコーポレートガバナンス・コードを通じて企業統治の強化を促しており、上場企業では「グループ全体での経営管理」が必須となりました。

※1 CSRD:「企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive)」の略称で、EU域内の大企業および上場企業にESG(環境・社会・ガバナンス)に関する詳細な情報開示を義務付けるもの。

2-4. 監査対応の厳格化

監査対応が厳格化するにつれて、企業にはガバナンスの徹底的な強化が求められるようになりました。デジタル化と透明性を前提とした新しい規制が次々と導入されているのが、その具体的な背景です。

たとえば、2022年に改正された電子帳簿保存法により、電子取引データの電子保存が猶予措置期間を経て義務化されました。これにより、帳票と取引記録の照合や、データの検索性、改ざん防止機能を備えたシステムの導入が不可欠になっています。

また、2023年に始まったインボイス制度では、請求書の発行・受領データと会計処理の整合性が厳しく問われるようになりました。これに伴い、業務システムと会計システムの連携がさらに重要視されています。

加えて、監査法人からの要求事項は精緻化しており、取引の記録がどこから来て、誰が承認したかといったデータのトレーサビリティが厳しくチェックされるようになっています。

3. ガバナンス強化に取り組むメリット

ガバナンスが効いている企業では、組織の監視・管理体制が適切に機能し、内部体制が整っている状態にあるといえます。

ここでは、企業がガバナンス強化に取り組むメリットや効果について解説していきます。

3-1. 不祥事や不正行為が抑制される

ガバナンス体制が整っている企業は、透明性や公平性が保たれるため、不祥事や不正行為が起きにくくなります。監視体制を強化したり、内部通報の仕組みを作ったりすることで、不正行為を未然に防ぎ、発見する上でも役立つと考えられます。

不祥事や不正行為が発生しにくい企業は、ステークホルダーからの信頼が高まるだけでなく、ブランドイメージや企業価値の向上も期待できます。

3-2. 労働環境の健全化を図ることができる

ガバナンスが強化されると、組織内の労働環境の健全化が期待できます。

従来、日本の企業では閉鎖的な風土が問題視されてきました。たとえば、自身の昇進を重視するあまり、逸脱した行動につながったり、不透明な評価制度によって上司の独断で人事が行われたりするなど、ルールが形骸化しているケースが見られます。

そこで、透明性や公平性が保証された制度を導入することで、労働環境が改善すると考えられます。その結果、従業員が本来の能力を発揮できる、風通しの良い組織へと変わっていくでしょう。

3-3. 企業価値や競争力の向上につながる

ガバナンスを強化するための取り組みを社外に積極的に発信することは、企業価値を高めることにつながるといえます。自社の経営状況やガバナンス体制を公開することで、投資家や消費者といった関係者からの評価が得られ、優良企業として認知される可能性が高まるでしょう。

その結果、企業の競争力も向上し、持続的な経営が実現すると考えられます。

4. ガバナンスを強化するための取り組み

ガバナンスを強化するには、具体的にどういったことに取り組めばよいのでしょうか。ここでは、ガバナンス強化に向けた取り組みについて解説します。

4-1. コンプライアンスの遵守

コンプライアンスとは、企業が法律を守るだけでなく、企業理念や倫理観、社会のルールに従って行動することです。

コンプライアンスを遵守するには、まず企業理念や行動規範、倫理憲章などを作成し、周知する必要があります。経営者や従業員一人ひとりがこの意識を高く持つことで、日々の業務を通じて健全な経営が実現し、ガバナンスの強化につながると考えられます。

4-2. 監査体制・内部統制の整備

監査体制や内部統制を整備することは、不正行為や不祥事のリスクを抑える効果が期待できます。

たとえば、社外取締役や社外監査役を置くことで、経営の透明性が高まりやすくなります。とくに上場企業では、2021年より社外取締役の設置が義務化されました。会社から独立性の高い人材が社外取締役に就くことで、取締役会の健全な運営につながることが期待されています。

また、社内で定められたルールに則って業務が適切に行われているかを管理する内部統制も、ガバナンス強化のための重要な取り組みの一つです。

4-3. リスクマネジメントの実施

リスクマネジメントとは、企業が事業活動で直面する可能性のあるリスクの全体像を洗い出し、分類・評価した上で、とくに対策すべきリスクを選び、管理することです。

グループ全体におけるリスクの全体像を洗い出して分類し、優先度が高いリスクに対して重点的に管理することが求められます。

この取り組みにより、予期せぬ事態が発生した場合でも、スムーズに対応し、損失を最小限に抑えやすくなります。

4-4. 統一したシステム環境の導入

グループ経営や海外に子会社を持つ企業では、システム環境がバラバラになっている点が、ガバナンスの弱点になることが多いと考えられます。

子会社や部門がそれぞれ異なるシステムを利用していると、業務プロセスや会計処理のルールが統一されず、データの比較や統合が困難になります。その結果、新たな規制に対応するための追加コストも膨らみやすくなる点も課題です。

経営層にとって、「グループ全体の状況が把握できない」「決算や予算管理が遅れる」といったリスクに直結するでしょう。

そこで、すべての事業体が同一のシステムを利用し、財務データや業務データを一元的に管理できる環境を整備することが重要です。これにより、情報の透明性と正確性を確保できると考えられます。

この際に理解すべき重要な概念が、ITガバナンスです。ITガバナンスについては、次章で解説します。

会計処理ルールの一元管理と透明性の確保によりガバナンス強化を実現。
「会計処理エンジン」について詳しく知る

5. ITガバナンスの重要性と課題

ITガバナンスとは、経営戦略とITを連携させ、企業価値の最大化を図るためのマネジメントの仕組みです。その実現には、データを活用できるIT基盤を整え、業務やサービスを継続的に改善していく力が欠かせません。

前述したように、グループ全体で統一したシステム環境を導入することで、ガバナンスが機能する体制を整えることができます。

たとえば、多くのグループ会社を持つ持株会社の場合、各社が異なるERP※2や会計基準を採用していると、グループ間でデータの整合性が取れず、データの追跡が追跡が難しくなる恐れがあります。

また、関係者が複数のグループ企業にまたがる場合、ワークフローが複雑化し、クラウドERPの標準機能だけでは十分に対応できないケースもあります。既存の業務プロセスを、クラウドERPの標準機能に合わせる「Fit to Standard」というアプローチだけでは限界が生じることもあるでしょう。

このような状況下では、ITガバナンスが機能しない状態に陥り、不正行為のリスクや企業価値の低下を招くおそれがあります。

そのため、次章でご紹介するITガバナンスを強化するための取り組みが不可欠です。

関連記事:クラウドERPとは?メリット・デメリット、おすすめのシステムを紹介

SaaS型ERP導入の新常識:Fit to Standardと“疎結合”が変える経営基盤の在り方について詳しく知る

※2 ERP:「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」といった企業の経営資源を統合的に管理し、業務の効率化と経営判断の迅速化を図るためのシステム。

6. ITガバナンスの強化に向けたアプローチ

グループ全体でITガバナンスを機能させるために、従来型のERPシステムを使い続けるのではなく、クラウドERPの導入を検討している企業も増えています。しかし、業務をシステムに合わせる「Fit to Standard」のアプローチには限界があると考えられます。

そこで重要になるのが、ERPの枠に業務を合わせるだけではなく、ガバナンスを効かせる仕組みを並行して構築することです。推奨される解決策の一つが、TIS株式会社の「会計処理エンジン」の導入と、システム間の疎結合というアプローチになります。

TIS株式会社の「会計処理エンジン」は、各システムから取引データを集約し、自動で仕訳を生成するシステムです。会計ルールの管理を一元化することで、企業ごとに異なるデータ形式や粒度の違いを解消します。これにより、仕訳ルールの透明性が高まり、内部統制の強化にもつながります。

さらに、このシステムは財務会計と管理会計をスムーズに連携させるデータハブとしても機能します。経営者が迅速な意思決定に必要なデータを取り出すことができるため、経営判断のスピードと精度を高めることが期待できます。

TIS株式会社では、「Fit to Standard」の限界という課題に対し、「SaaS型ERP+疎結合」というアプローチを提案しています。

これは、すべての業務をクラウドERPに合わせるのではなく、標準化が難しいコア業務については、その業務に最適なサービスを導入し、クラウドERPと柔軟に組み合わせるという考え方です。疎結合とは、システム同士の依存関係を最小限に抑える設計のことです。

このアプローチにより、会計処理に関するガバナンスは「会計処理エンジン」に任せ、複雑なワークフローや企業独自のルールについては、既存システムとの「疎結合」によって共存させることが可能になります。

その結果、企業の競争力を損なうことなく、業務の大幅な効率化とガバナンスの強化を同時に実現できるでしょう。

経営環境の変化に合わせてシステムの追加や統合を柔軟に行えるため、将来的にグループの再編やクラウドERPのリプレイスが必要になった場合でも、スムーズに対応できます。

こうしたアプローチにより、VUCA時代のように変化の激しい状況でも、透明性を保ちながらガバナンス体制を維持できると考えられます。

会計処理ルールの一元管理と透明性の確保によりガバナンス強化を実現。
「会計処理エンジン」について詳しく知る

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6-1. 【導入事例】基幹システムと周辺システムとのデータ連携基盤に「会計処理エンジン」を採用

TIS株式会社による「会計処理エンジン」を導入した事例はこちらからご覧いただけます。

7. ガバナンスに関するよくある質問

ここでは、ガバナンスに関するよくある質問をご紹介します。

7-1. 内部統制とガバナンスの違いは何ですか?

内部統制は、主に経営者が従業員の不正行為や業務の不備を防ぐための仕組みです。一方、ガバナンスは、外部から経営者自身の不正や暴走を監視し、管理する制度を指します。

つまり、内部統制は社内の人間を対象とした具体的なルールやプロセスであり、ガバナンスは主に経営者を対象とした組織全体の監視体制であるという違いがあります。両者は、企業の健全な運営という共通の目的のもと、互いを補完し合うアプローチです。

7-2. ガバナンスとコンプライアンスの違いは何ですか?

ガバナンスは、健全な経営と企業価値の向上を目指すための管理体制全体を指します。具体的には、株主や外部取締役会などが経営者を監視・統制する仕組みのことです。

対して、コンプライアンスは、法令や企業倫理、社会規範などを遵守する行為そのものを指します。これは、ガバナンス体制の一部として、企業が社会的な信用を維持するための重要な要素です。

ガバナンスは「守らせるための体制」であり、コンプライアンスは「守るべき規範」と捉えられます。両者は相互に補完し合い、ガバナンスを強化することで、コンプライアンスが徹底されるようになります。

7-3. ITガバナンスとはどういう意味ですか?

ITガバナンスとは、ITを経営戦略の一部として捉え、企業全体の価値向上を目指すための仕組みです。

ITガバナンスでは、ITを単なる技術的な課題として専門部門に任せるのではなく、経営的な視点からITシステムの投資や運用、リスク管理の方針を定め、監督・実行することが求められます。

これにより、経営者が自ら株主や顧客などのステークホルダーに対して、ITに関する説明責任を果たせるようになります。

8. まとめ

本記事では、ガバナンスの基本や必要性、ガバナンス強化に取り組むメリットや具体的な取り組みなどを解説しました。

VUCA時代を迎え、グループ経営の複雑化や規制強化、監査の厳格化が進む中、従来の部門ごと・会社ごとのシステム運用では、ガバナンスを適切に機能させることは困難でしょう。しかし、ガバナンスの強化は、今や経営リスク対策の中心となっています。

こうした環境下におけるガバナンス強化の取り組みの一つとして、TIS株式会社の「会計処理エンジン」の導入が有効です。「会計処理エンジン」では、仕訳ルールを一元管理し、データの追跡可能性を確保する仕組みが実現できます。これにより、グループ全体でのガバナンスの実効性を高めることが可能です。

また、クラウドERPの標準機能に合わせることが難しいコア業務については、その業務に最適なサービスをシステムと疎結合させることで、ガバナンス強化につながると期待できます。

詳しくは、以下のリンクをチェックしてみてください。

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更新日時:2025年12月3日 15時22分