生成AI×システム開発――活用メリット・工程別活用法・導入成功のコツを解説
公開日:2026年4月
「生成AIをシステム開発に活用したいが、具体的にどう始めればいいのか」──この問いは、今や多くの開発現場に共通する悩みです。生成AIの急速な進化にともなって、要件定義・設計・テスト・運用に至るまで、システム開発の全工程の在り方や進め方が大きく変化しつつあります。
本記事では、生成AIがシステム開発にもたらすメリット、工程別の活用方法、そして導入を成功させるためのポイントを解説します。
なお、本記事では、AI全般を指す場合は「AI」、その中でも文章やコードなどを生成する技術を「生成AI」と表記します。また、人間が示した目的に向かって自律的に判断・行動し、タスクを実行する技術を「AIエージェント」と表記します。
■目次
生成AIとは?システム開発における位置づけ
生成AIとは、ユーザーからの指示(プロンプト)に応じて、文章やコード、画像などの新しいコンテンツを作り出す人工知能の一種です。従来のAIは、学習済みのデータを「分類」し、適切な答えを「予測して出力」することを強みとしていたのに対し、生成AIはプロンプトを理解し、新しいコンテンツを自動で「生成」する点が特徴です。
現在、生成AIは単なるトレンドではなく、企業が競争優位性を確立する上で欠かせない技術として注目されています。システム開発においては、生成AIを複数の開発プロセスに適用することで、生産性向上に寄与すると考えられています。
具体的には、以下のような活用が可能です。
- コード生成
- 設計書ドラフト作成
- テスト工程の効率化・自動化
- 既存のソフトウェアを解析するリバースエンジニアリング
このように、生成AIの活用は個別業務の効率化にとどまらず、開発プロセス全体へと広がりを見せています。
1. システム開発に生成AIを活用する4つのメリット
システム開発における生成AIの導入は、開発スピードや品質、コスト、ナレッジ継承の4つの側面に効果をもたらします。ここでは、生成AIを活用する4つのメリットを紹介します。
1-1. 開発スピードの向上|「たたき台」の高速生成でリードタイムを短縮
生成AIの活用により、開発スピードの向上が期待できます。
設計書やモックアップの自動生成、ひな形コードの出力といった「0→1」の工程を大幅に効率化し、リードタイム短縮に寄与します。生成AIがたたき台を作成することで、エンジニアは本質的な設計判断や付加価値の高い業務に集中できる環境が整います。また、生成された設計書やコードをもとに関係者間で議論が深まり、合意形成を円滑に進めることが可能です。
1-2. 品質の標準化|属人化解消とレビュー品質の安定化
生成AIの導入は、システム開発における品質の標準化(属人化解消、レビュー品質安定化)にもつながります。
テスト設計や仕様レビューは担当者の経験やスキルに依存しやすく、品質や網羅性にばらつきが生じるケースも少なくありません。生成AIによるレビュー観点のチェックリスト化により、要件の曖昧さや矛盾点を自動検出でき、誰が担当しても一定の基準に基づいたレビューが実現できます。これにより、特定担当者への依存リスクを低減し、レビュー工程の効率化と品質向上が期待されます。
1-3. コスト削減|人的リソースの最適配置
定型的な業務を生成AIに委ねることで、人的リソースの最適配置が可能になります。
コーディングやテストケース作成、ヒアリング項目の作成といった反復性の高い作業を自動化することで、エンジニアは仕様設計や顧客課題の抽出など、より付加価値の高い業務に注力できます。業務効率化によるコスト削減はもちろん、事業成長につながるプロダクト開発や新たな価値創出への体制強化が可能となります。
1-4. ナレッジの継承|IT人材不足時代の持続可能な開発体制
生成AIはエンジニアが培ってきたナレッジの形式知化と継承を支援します。
システム開発現場では、設計判断や障害対応のノウハウが特定の担当者に依存し、ブラックボックス化することが課題となっています。この課題に対し、生成AIを活用して、長期運用システムの解析による仕様の可視化やFAQ・マニュアルの自動作成を進めることで、知見を体系的に文書化できます。こうしたナレッジの形式知化により、IT人材の不足が懸念される局面でも、持続可能な開発体制の構築が可能となります。
2. 工程別に見る生成AIの活用領域
要件定義から運用・保守までの開発プロセス全体で、生成AIの活用が可能です。ここでは、生成AIの活用方法を工程別に紹介します。
2-1. 要件定義・基本設計
要件定義・基本設計の工程では、以下の場面で生成AIの活用が期待できます。
- リバースエンジニアリング
- Fit & Gap分析支援
- 業務フロー図・設計書ドラフトの自動生成
- 画面モックアップ作成
特に、既存システムのソースコードや構成を解析し、仕様を可視化するリバースエンジニアリングは、ドキュメントが十分に整備されていないレガシー環境において有効です。また、新しいシステムが自社の既存業務に適合するかどうかを判断する「Fit & Gap分析」といった場面でも、生成AIを活用できます。
2-2. 開発(製造)
開発(製造)工程では、設計書をもとにしたコード生成や、帳票・バッチ処理などのパターン化しやすい領域で、生成AIが大いに活躍します。
例えば、生成AIが出力したコードを人がレビューすることで、ゼロから実装する場合と比較して効率化が期待できます。また、既存コードの改善提案やパフォーマンスの最適化など、品質向上にも貢献します。
2-3. テスト
テスト工程では、以下の業務に生成AIを活用できます。
- テストケース・テストコードの自動生成
- テスト実行の自動化支援
従来、仕様書に基づき手作業で行われてきたテストケースの設計を自動化することで、新たなテスト観点の発見や効率化につながる可能性があります。また、主要なテストフレームワークに適合したコードも自動生成できるほか、テストの実行や分析まで生成AIが支援します。これにより、テスト項目の重複や抜け漏れが減り、受け入れテスト(UAT)での手戻りリスクの低減につながります。
2-4. 運用・保守
運用・保守の工程においても、生成AIが役立ちます。例えば、クラウド製品のアップデート影響調査や技術情報の整理、品質保証(QA)対応、障害の切り分け支援などに活用可能です。また、マニュアルやFAQの作成・更新を自動化することで、ドキュメントの最新版を効率的に運用できます。
3. 生成AI活用を成功させるためのポイント
ここでは、生成AI活用を成功させるために押さえておきたい2つのポイントを紹介します。
3-1. 生成AIは「魔法の杖」ではない──現場での試行錯誤が前提
近年、対話型AIの進化によりコードや設計書を瞬時に作成できるようになりました。しかし、生成AIは「魔法の杖」ではありません。ハルシネーションと呼ばれる誤情報を出力するリスクがあるためです。システム開発の現場では、生成AIを使って試行錯誤や検証を重ねる姿勢が求められます。
また、セキュリティや知的財産リスクにも注意が必要です。社外の生成AIサービスへ機密情報を入力した場合、利用環境によっては情報漏洩につながる可能性があります。さらに、生成AIは大量の既存データを学習してアウトプットを作成するため、著作権やライセンス条件に抵触する内容が含まれたコードが出力されるリスクも否定できません。
こうしたリスクを回避するため、プロンプトの適切な設計やインプットデータの整備による品質担保や、出力された内容を検証するプロセスの整備、および法務部門との連携体制の構築が重要です。
3-2.「業務知識 × AI理解」の両輪が不可欠
生成AIの効果を最大化するには、業務知識と生成AIへの理解が欠かせません。例えばERP(企業の統合基幹業務システム)を導入する場合、会計や購買、在庫管理など各業務の流れやルールを正しく理解していなければ、生成AIが出力した設計案が自社の業務に適しているかどうかの判断が難しくなるためです。
また、生成AIの得意領域と限界を十分に理解しないまま活用すると、出力結果を過信するリスクもあります。そこで、業務の全体像を踏まえたうえで生成AIを取り入れ、出力内容を検証・改善していくための活用設計が不可欠です。
4. 生成AIを開発プロセスに導入するステップ
生成AIの導入は、構想から全社展開までを段階的に進めることが大切です。ここでは、開発プロセスに導入するロードマップを3つのステップで紹介します。
4-1. ステップ1|構想・目的の明確化
まずは、「どの工程の、どの課題を解決するのか」を定義します。漠然とAI導入そのものを目的にするのではなく、「テスト設計の属人化を解消したい」「業務フロー図の作成を効率化し、リードタイムを短縮したい」など、具体的な業務課題と効果を整理します。
4-2. ステップ2|PoC(概念実証)で小さく始める
方向性の決定後、PoC(概念実証)を通じて効果を検証します。テストケースの生成やコードレビュー支援、ドキュメント作成など、比較的リスクの低い領域から始めることが大切です。生成AIの出力結果を用いて、期待する精度や機能が実現できるかを検証しましょう。
4-3. ステップ3|段階的展開と開発標準への組み込み
PoCで有効性が確認できた領域から、段階的に適用範囲を拡大します。個人やチーム単位の活用にとどめず、開発標準やガイドラインへ組み込むことが重要です。成功事例を組織としての仕組みに昇華させることで、再現性のある基盤を構築できます。
5. TISの「AI中心開発」──全社推進で生産性50%向上を目指す
2025年10月、TISは「AI中心開発」を掲げた全社推進プロジェクトを発足しました。ここでは、4つのポイントを紹介します。
5-1. 「AI中心開発」とは何か
TISの「AI中心開発」とは、既存の開発プロセスに生成AIを組み込むだけでなく、要件定義から設計、開発、テストに至るまで、生成AIの活用を前提に開発基盤を再構築する取り組みです。全社推進で、2029年度までにシステム開発の生産性を50%※向上させることを目標としています。
※TIS単体。2024年度比。対象とするシステム開発は新プロセスが適用可能なプロジェクト。
参考記事:TIS、システム開発への生成AI活用を前提とした「AI中心開発」を掲げ、全社推進プロジェクトを発足
5-2. 3つの推進テーマ|開発プロセス、文化の改革、リスク管理
TISは、次の3つのテーマに沿って全社的に取り組みを進めています。
| 「AI中心開発」全社推進プロジェクトの概要 | |
|---|---|
| 開発プロセスの刷新 |
|
| 人・組織・文化の変革 |
|
| リスク管理 |
|
5-3.「ツール導入」にとどまらない、プロセス全体の再設計という思想
TISのアプローチは、生成AIを単なる業務効率化ツールとして既存プロセスに後付けする形で導入するのではありません。
生成AIの活用を前提に、開発プロセスそのものを再構築するものです。生成AIを品質・スピード・創造性を高める開発パートナーとして活用しながら、組織・チーム単位で戦略的に利用できる環境を整備することで、IT人材の高度化と開発現場の変革を同時に推進します。
5-4. 今後の展望──AIエージェント時代のシステム開発像
システム開発の現場でもAIエージェント時代を迎えるにあたり、TISは生成AIやAIエージェントの活用を前提とした開発プロセスの標準適用を進めていく方針です。要件定義から運用・保守までの全工程で活用し、人とAIの協働が開発の新しい標準となる未来を見据えています。
6. 【実践事例】TISの生成AI活用──クラウドERP導入プロジェクトでの取り組み
TISは、さまざまなクラウドERP導入プロジェクトにおいて、生成AIを前提とした開発に取り組んでいます。ここでは、2つの実践事例と各プロジェクトから得られた知見を含めて紹介します。
6-1. 事例1:帳票開発における「0→1」プロセスの変革
TISは、さまざまなクラウドERP導入プロジェクトにおいて、生成AIを前提とした開発に取り組んでいます。ここでは、2つの実践事例と各プロジェクトから得られた知見を含めて紹介します。
あるクラウドERP導入プロジェクトでは、帳票の設計・開発に生成AIを活用しました。従来、設計書をもとに担当者がゼロからコーディングを行う手法が採用されていましたが、作業の質が担当者ごとの経験やスキルに大きく左右される点が課題となっていました。そこで、帳票の初期コードや構造の「たたき台」を生成AIが自動生成し、担当者は最終調整や品質向上に専念する運用体制へと移行しました。生成AIが「0→1」の工程を担い、「1→完成」を人間が仕上げるアプローチです。
また、既存ソースコードのパフォーマンス改善にも生成AIが有効であることが確認できました。従来は改善箇所の特定に多くの調査工数を要していましたが、生成AIによるコード解析支援により、課題抽出フェーズの効率化が実現しています。
この手法は特定の業種に限定されるものではなく、幅広いプロジェクトで応用可能です。今回のプロジェクトでは、業種特有の複雑な要件が比較的少なかったこともあり、生成AI活用の導入がスムーズに進みました。
6-2. 事例2:全工程での生成AI活用と顧客との協働
別のプロジェクト事例をご紹介します。このプロジェクトでは、数十年来稼働しているレガシーシステムのリプレースにあたり、生成AIを活用しました。現行システムのドキュメント整備が不十分であり、全体像を把握するためには膨大なソースコードの解析が必要でしたが、人的リソースだけで対応するのは現実的ではありませんでした。
そこで、生成AIを利用したリバースエンジニアリングの手法を導入しました。ソースコードをもとに設計書を作成し、仕様書へ落とし込むプロセスを構築した結果、当初は期待した精度が得られず、プロンプト設計や出力検証方法の見直しを重ねるなど、試行錯誤を経て効果的な手法を確立することができました。
業務部門へのヒアリングと生成AIによる解析を組み合わせることで、ブラックボックス化していた仕様の可視化が可能となり、最終的には要件定義の作成を完了した事例です。
6-3. 事例から得られた知見
これら2つの事例を通じて得られるのは、生成AIは導入して終わりではなく、プロジェクトごとのノウハウや知見の蓄積が成果の鍵を握るという示唆です。
生成AIの出力精度は、プロンプト設計や検証プロセス、業務理解の深度によって大きく左右されます。事例として挙げたプロジェクトでは、いずれも初期段階では期待通りのアウトプットが得られないこともありましたが、継続的な試行錯誤を通じて有効な手法が整理され、チーム内で知見が共有されるようになりました。
TISでは、さまざまなプロジェクトで蓄積された実践知を社内で体系化し、他プロジェクトへの横展開を図っています。生成AI活用の取り組みは、個別の成功にとどまらず、再現性のあるナレッジとして展開されつつあります。
システム開発における生成AIの活用については、以下の記事もご覧ください。
参考記事:システム開発で生成AIは何ができるのか│クラウドERP導入を変革する生成AI駆動開発
7. まとめ
生成AIは、要件定義から開発、テスト、運用・保守に至るまで、システム開発のさまざまな工程に変革をもたらしつつあります。効果を最大化するには、生成AIを単なるツール導入にとどめず、生成AIの活用を前提に開発プロセスそのものを再構築する姿勢が必要です。その上で、試行錯誤を重ねながらノウハウを蓄積し、組織として再現性を高めることが成果創出の鍵となります。
TISは、ERP導入で培った豊富な実績と、生成AI活用の実践知を兼ね備えたパートナーとして、構想策定から要件定義、開発、運用までを一貫して支援します。生成AIの活用やERPの導入にご関心のある方は、ぜひ一度お問い合わせください。