サプライチェーンマネジメント高度化とは？SCMの課題と解決策を解説

「サプライチェーンマネジメント高度化」とは、従来のサプライチェーンマネジメント（以降、SCM）をさらに進化させ、ERPとSCP（Supply Chain Planning）の連携やAIの活用などによって、レジリエンス（回復力）を高める取り組みを指します。
昨今のSCMは、経営環境の変化やサプライチェーンリスクの増大など、大きな変化に直面しています。そうした中で、企業が競争力を維持するためには、SCM高度化が不可欠です。
この記事では、SCMの目的や導入メリット、従来のSCMの課題を整理したうえで、変化する経営環境におけるリスク、そして今求められるSCM高度化とAI活用を含めた具体的な解決策についてわかりやすく解説します。

サプライチェーンマネジメント（SCM）とは？

SCM高度化を理解するのに、まず押さえておきたいのは、SCMの概要です。SCMとは、原材料の調達から生産、物流、販売に至るまで、サプライチェーン全体の流れを統合的に管理・連携する経営手法で、企業の競争力を支える基盤ともいえます。
ここでは、SCMの目的や導入メリット、そして従来のSCMが抱えている課題について解説します。

SCMの目的

SCMの目的は、モノ・お金・情報の流れを企業内外で共有し、調達から販売までの全体最適を図り、売上の最大化や機会損失の防止を実現することです。調達管理や生産管理、在庫管理、物流管理といった各プロセスを連携させ、全体を統合管理します。

SCMの導入メリット

SCMを導入することで、企業は経営基盤を整え、持続的な成長につなげることができます。SCMの主なメリットは以下のとおりです。

＜SCMの主な導入メリット＞

従来のSCMの課題

これまで多くの企業がSCMを導入してきましたが、従来のSCMは比較的安定した経営環境を背景に、短期的な需給調整にフォーカスしていました。そのため、変化の激しい経営環境下では、サプライチェーン上の中長期的なリスクや問題への対応に遅れが生じやすくなります。その結果、時間の経過とともに問題が大きくかつ顕在化してから対応を迫られるケースが増えてきました。

SCMが直面する経営環境の変化とサプライチェーンリスク

先述のとおり、近年のSCMはかつてないほど不確実で複雑な環境に直面しています。ここでは、SCMを取り巻く経営環境の変化とサプライチェーンリスクの増大について解説します。

経営環境の変化

近年の経営環境は大きく様変わりしています。デジタル技術の進展で情報共有は容易になった一方で、技術革新の加速により競争は激化しました。新興国の経済成長で生産・販売拠点は世界に広がり、サプライチェーン管理は一層複雑になっています。さらに労務費や物流費の高騰、人材確保の難しさがコスト上昇を招き、拠点戦略の見直しを余儀なくされています。
こうした環境変化を背景に、サプライチェーンの構造そのものも変化してきました。従来のように「国際分業」を前提とした構造では対応が難しくなり、複数の拠点やパートナーが相互に結びつく「ネットワーク型サプライチェーン」へと移行しています。この構造転換によって、マネジメントする対象が複雑化している現状もあります。

サプライチェーンリスクの増大

さらに、サプライチェーンを取り巻くリスクも深刻化しています。地震や洪水、パンデミックといった自然災害に加え、戦争やテロ、貿易摩擦などの地政学的リスクも安定的な調達・供給を脅かしています。
実際に、パンデミックの際には国境を越える輸送網が分断され、部品や原材料が入ってこないことで生産ラインが止まった企業も数多くありました。こうした突発的なリスクは、従来のSCMが前提としてきた「比較的安定した環境」では想定しにくいものでした。
加えて、コンプライアンスリスクも増大しており、サプライチェーン全体のガバナンスを強化する必要性が高まっています。

今求められるSCM高度化と具体的な解決策

激変する経営環境やサプライチェーンリスクに対応するには、従来のSCMから一歩進んだ取り組みが必要です。特に重要なのが、問題が発生した際に迅速に対処し、顧客や自社への影響を最小限に抑えながら供給体制を回復させる「レジリエンス強化」です。

企業は単なる効率化にとどまらず、変化に柔軟に対応できる強靭な体制を築くことが求められています。そのためには、より高度なSCMの構築が欠かせません。ここでは、SCM高度化にあたって必要な解決策として「垂直統合と水平連携」「ERPとSCPの連携」を解説します。

業務の「垂直統合」と「水平連携」

SCM高度化は、業務の「垂直統合」と「水平連携」によって実現されます。
垂直統合とは、サプライチェーン計画とサプライチェーン実行を情報でつなぎ、整合性をもって進めることです。調達計画と調達、供給計画と生産・物流などが分断されず、同期して機能する状態を実現します。

一方、水平連携は、企業内の各部門や外部パートナーとの協働を強化することです。組織の壁を越えてデータや意思決定を共有できるため、一体的かつ迅速な対応が可能になります。

垂直統合と水平連携の両輪がそろうことで、変化やリスクに応じて需要や供給計画を見直す必要が生じても、調達から販売までのプロセスがスムーズに連動し、迅速かつ確実な実行ができます。結果として、変化に強いサプライチェーンを構築できるのです。

■SCMにおける垂直統合と水平連携

実行系システムERPと計画系システムSCPの連携

垂直統合と水平連携を実現するには、実行系システムであるERPと、計画系システムであるSCPの密接な連携が欠かせません。両者は異なる役割を担いながらも、サプライチェーン全体の精度と柔軟性を高める基盤となります。

ERPは、在庫や受発注、購買、生産、販売といった基幹業務を支えるシステムであり、現場の実績データをリアルタイムに収集・管理。これにより、企業は現状を正確に把握し、迅速な意思決定が可能となります。

一方、SCPは需要予測や生産・在庫・供給計画といった計画業務を担い、市場環境の変化を見越した将来の計画を立案。ERPから提供される最新データを活用することで、問題を早期に検知・分析し、的確な解決策を計画に反映できます。

このように、実績を正確に把握するERPと、将来を見据えた計画立案を担うSCPの両者が連携することで、リアルタイムデータに基づく高精度な計画と、その計画に沿った確実な実行が可能になります。結果として、短期的な調整に追われる悪循環を回避し、レジリエンス強化が実現されるのです。

期待されるSCM高度化のためのAI活用

今後、SCM高度化をさらに推進するうえで、大きな役割を果たすと期待されているのがAIです。AIは、担当者の作業を支援し、複雑化するサプライチェーンの整合性確保や適応力向上に寄与します。

まず、計画系システムと実行系システムは異なるデジタルモデルを使っているため、整合性を保つには継続的な差異分析とパラメータ調整が欠かせません。従来は膨大な工数を要していましたが、AIが担当者を対話的に支援することで作業を効率化し、精度を高めることができます。
次に、経営環境やサプライチェーンには多様な要素が絡み合っており、従来の統計モデルによる予測には限界があります。AIは因果関係に基づいた仮説をデータで検証し、変化を先読みする仕組みづくりを後押しすることが可能です。
さらに、最適な対応策を検討する場面でもAIが力を発揮します。サプライチェーンモデルやパラメータを変えながら繰り返しシミュレーションを行う際、膨大な計算処理や分析をAIが担うことで、人は意思決定に集中し、短期間で多様なシナリオを評価できるようになります。

このようにAI活用は、変化に応じて対応する「調整型のSCM」から、変化を先取りして備える「適応型のSCM」への進化を実現し、レジリエンスと適応力の双方を強化するカギとなるのです。

変化に強いサプライチェーンマネジメントの構築へ

不確実性が高まる時代において、SCMには効率性だけでなく柔軟性と即応力が求められます。従来のSCMを超え、変化を先読みしてレジリエンスを備えた「SCM高度化」によって、問題を早期発見し、経営資源の最適活用を実現する仕組みを備えることが重要です。

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※ 記載されている情報は、2025年10月時点のものです。また、TISの見解・解釈を含んでおりますので、詳細・最新の情報は公式サイトをご参照ください。