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人事施策を評価する:(2) KPI・コストのモニタリング

1. はじめに

TIS株式会社の西村友貴です。人的資本データ利活用に関するコンサルティングサービスを提供しています。

本コラムでは、人事施策を評価し、施策の改善や社内外への開示に活かすための方法について解説します。

次の通り、全5回のコラムを公開する予定です。

人事施策を評価する:(1) 重要となる4つのアプローチ
人事施策を評価する:(2) KPI・コストのモニタリング
人事施策を評価する:(3) 因果推論的アプローチ
人事施策を評価する:(4) 応用行動分析学的アプローチ
人事施策を評価する:(5) 予測妥当性検証

今回は「(2) KPI・コストのモニタリング」の内容になります。

2. 人事施策KPIを捉えるための4つのポイント

人事は、採用や研修、配置転換、キャリア支援、人事制度の変更などの様々な施策を担っています。

そして、各施策について「どれだけ実施が進んだのか」「実施した結果、何が変化したのか」「昨年と比べて、効果が上がったのか、コストをおさえることができたのか」といった疑問に答えていかなくてはなりません。

その際に、各施策に設定したKPIをモニタリングしながら、意思決定していくことが重要になります。

本コラムでは、人事施策KPIを捉えるためのポイントをご紹介いたします。次の図は、その4つのポイントをまとめたものです。

4つのポイント、それぞれの内容について解説していきます。

人数比率・1人当たり平均・費用対効果を捉える

「そもそもどんなKPIを扱うべきか」という点について、ここでは人数比率・1人当たり平均・費用対効果の3パターンを紹介します。

  • 人数比率

1つ目のパターンは、人数をKPIにするのではなく、人数比率を扱うというものです。

「3年以内の早期離職者数」といったように人数をそのままモニタリングすることも重要ですが、「3年以内の早期離職率」など、全体人数における該当人数の割合を見ることで、規模の影響を受けなくなり、より施策の評価・意思決定に活用しやすくなります。

たとえば、ある事業部で早期離職防止のための施策を実施しており、早期離職者数が3年前は20人、現在は24人だったとします。一方で、早期離職率を見ると、3年前が25%、現在が18%だったとします。この場合、早期離職者数は3年前よりも現在の方が4人増えていますが、早期離職率で見ると7%も下がっており、離職防止施策の効果が表れている可能性が示唆されます。

このように人数ではなく人数比率をKPIとして扱った方が、施策をより適切に評価できるようになります。施策の定量的な目標を定める際も基本的には人数目標よりも人数比率目標の方が適切と言えます。

  • 1人当たり平均

2つ目のパターンは、施策の効果もしくはコストについて、1人当たりの平均を算出するというものです。

たとえば、新卒採用のコストを削減するために選考フローの効率化を図り、結果として採用コストを4000万円から3500万円に削減したとします。これだけを見ると、コスト削減に成功したように見えます。しかし、もし新卒採用者数が50人から35人に減っていたとすると、1人当たりの採用コストは80万円から100万円に増えており、むしろ採用全体の活動の効率性は下がっていることになります。1人当たりのコスト平均を捉えることで、効率性の観点から施策を評価できるわけです。

また、生産性の観点で施策の効果を評価したい場合も同様です。人材戦略の財務的インパクトを確認するために売上や利益を指標とすることがありますが、「1人当たりの売上」や「1人当たりの利益」をKPIとして設定した方が、人数規模の影響を受けずに生産性の観点で施策を評価することができます。

このように、生産性や効率性の向上を目的に施策を実施する場合において、1人当たりの平均を捉えることが重要です

  • 費用対効果

3つ目のパターンは、費用対効果です。「効果÷コスト」で計算します。

よく費用対効果が重要視される場面として、人事施策の効率化に向けたシステム導入などが挙げられます。

また、分子の効果に関する要素には、財務データだけでなく、エンゲージメントスコアや採用応募者数のような非財務指標も当てはめることができます。どれだけの費用・工数をかけてどれだけスコアが向上したのか、どれだけ応募者が増加したのかなどを捉えることで、有効性の高い施策は何かを見極めるヒントを得ることができます。

部門・属性ごとに捉える

KPIをモニタリングする上では、従業員全体で集計するだけでなく、部門や属性を切り口として可視化・分析することが重要です。

部門や属性ごとに切り分けて可視化・分析することで、良い状態/悪い状態の部門はどこか、どの属性の人に施策を講じるべきなのかを具体的に検討できるようになります。

たとえば、研修施策によってある資格の合格者を増やしたい場合に、「営業部は等級が上がるにつれて資格の合格率が低い」「企画部は主任の資格合格率が高いが、その他の等級は低い」といった傾向を捉えることができれば、「企画部の主任に対して実施していた研修が有効だったので、他部門にも実施しよう」「営業部では係長向けの研修に注力しよう」など、有効な施策の見極めや次のアクションに関する意思決定の具体性が増します。

時系列で推移・伸び率を捉える

KPIは定期的に測定し、時系列データとして扱うことが重要です。

目標に対して近づいているか、このままいけば目標を達成できるのかどうかは、時系列推移を可視化することで明確になります。推移を見てこのままでは目標達成が厳しいとわかったら、目標達成に向けたアクションを講じる必要があります。もし推移を可視化できていなければ、必要なアクションを講じることができず、気づいたときには目標達成が不可能な状況になってしまう恐れがあります。

先ほどのポイントに関連しますが、部門や属性ごとの推移を確認することも有効です。どの部門が高い水準、低い水準なのか、どの部門が目標値に近づいているかを明確にすることで、次のアクションをより具体的に検討できるようになります。また、ある一時点でのKPIの値を1と置いたときの値をモニタリングすれば、伸び率の観点で部門や属性の傾向を比較できます。

たとえば、エンゲージメント向上施策の効果を見るために部門別にエンゲージメントスコアを見たときに、部門Aと部門Cが目標値に近い高い水準で推移しており、部門Bと部門Dが低く推移しているとします。一方で、スコアの伸び率を見ると、部門Bの伸び率が他の部門と比べて高かったとします。このようなデータがあれば、「部門Aと部門Cの取り組みも評価できる可能性があるが、部門Bでの取り組みは低いスコアを改善するような効果が出ている可能性があるので、部門Bでの取り組みを部門Dにも取り入れよう」といったように、有効な取り組みの明確化、次の打ち手策定に活かすことができます。

このように、時系列での推移と伸び率の両方を捉えて、施策の評価や意思決定に活用することも重要なポイントです。

適切なベンチマークデータと比較する

最後のポイントは、ベンチマークデータとの比較です。自社の水準は他と比べて優れているのかどうかをモニタリングするということです。

ここで重要となるのは、適切なベンチマークデータの選定です。

たとえば、ストレスチェックなどのサーベイで算出される「高ストレス者割合」をベンチマーク比較したい場合には、「全国平均と比較する」「同じ業界の他社平均と比較する」「目標とする企業群の平均と比較する」などの方法が考えられます。

目指したいレベルを設定することで、それに適したベンチマークデータも決まってくるはずです。目標レベルを明確化し、ベンチマークデータを選定して比較分析を行い、その結果を意思決定に活用していきましょう。

3. さいごに

4つのポイントをまとめると、次の通りになります。

  • 人数比率・1人当たり平均・費用対効果を捉える
    人数比率や1人当たり平均、費用対効果など、施策の評価や意思決定への活用に適したKPIを算出してモニタリングする
  • 部門・属性ごとに捉える
    部門や属性を切り口として可視化・分析し、有効な施策や次に講じるべきアクションを具体的に明らかにする
  • 時系列で推移・伸び率を捉える
    KPIの時系列推移や伸び率を確認し、次の施策を講じるべきかを判断したり、施策の内容を見極めたりする
  • 適切なベンチマークデータと比較する
    自社が目標とするレベルを明確化し、ベンチマークデータを選定して比較・分析する

自社に適したKPIを見極め、適した可視化・分析によって有意義な洞察を見出すよう心がけましょう。

次回は、「(3) 因果推論的アプローチ」について解説します。

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更新日時:2024年12月19日 17時26分