MARKETING CANVAS LAB(ラボ)

未来を考える情報発信・コラム

【第2回】パーソナルデータ活用の主導権をGAFAから取り戻すために

 

パーソナルデータ

世界的にパーソナルデータを保護する流れが強まる中、自社で膨大な1st Party Dataを取得してマーケティングに活用できる大手プラットフォーマーの優位性が高まっている。前回に引き続き、株式会社DataSignの太田祐一社長をお招きし、「情報銀行」に期待されるマーケティング領域におけるゲームチェンジャーとしての可能性を伺う。

1. Cookie規制の強化で、高まるプラットフォーマーの優位性

岡部:前回、日本で情報銀行の概念が誕生した背景には、GAFA対抗の目的ががあったと伺いました。そのあたりを改めてお話しいただけますか。

大田:日本では過去10年ほどGAFAのようなパーソナルデータを活用したマネタイズが、ほとんど進んでいませんでした。そこで、さまざまな企業がデータ活用ビジネスに参画できるよう、個人からパーソナルデータを預かり、それを流通させる役割を担う情報銀行のコンセプトが考案されたという経緯があります。言ってみれば、GAFAと同じ土俵で戦える仕組みを国が認定し、データ利活用の産業を盛り上げようというものです。

岡部:2018年にEU圏でGDPR(一般データ保護規則)が施行されて、3rd Party Cookieでデータを取得する場合、匿名データであっても同意を得ることが義務付けられました。この出来事は、データ利活用ビジネスにどんな影響があったとお考えですか。

大田:GDPR を契機としてパーソナルデータを保護する方向へと大きく流れが変わり、データを利活用したビジネスに参入しにくくなっている状況だと思います。さらに、スマホのOSやブラウザを握っているアップル、グーグルも、パーソナルデータ保護の流れを受け、ターゲティング広告に必要な3rd Party CookieやIDFA(iOSの広告用端末識別子)を使えなくしようとしています。

岡部:これは日本のマーケターにとっても影響がありますか?

大田:国内では、個人情報と紐付けさえしなければ、個人の同意を得なくても3rd Party Cookieで取得したデータをターゲティング広告に使うことは認められています。ただし、法律による規制ではなく、OSやブラウザによる制限は日本国内にも大きな影響を与えると考えられます。


2. ゲームチェンジャーとなり得る情報銀行

岡部:情報保護の動きが強まるほど、マーケターが活用できるパーソナルデータの入手手段は狭まっていくわけですね。

大田:おっしゃるとおり。極論すれば、OSやアプリで高シェアを持つ1st Partyだけが、利用者の属性にあわせたターゲティング/リターゲティング広告を実施できることになります。大手プラットフォーマーの囲い込み戦略が、さらに加速するかも知れません。

岡部:国内企業にとって、ビジネス機会の減少になると思われますが、この状況を打開するには、どうすればいいとお考えですか。

大田:大手プラットフォーマーに代わって、自身のパーソナルデータを自分の意思で流通させる仕組みが必要だと思います。世界でまだ誰もその答えを見つけられていませんが、情報銀行は状況をひっくり返すゲームチェンジャーになれる可能性があります。これまでを「企業中心」の情報活用とすれば、情報銀行では個人がデータ活用の主導権を握りベンダー側をコントロールしていく「個人中心」へとパラダイムシフトが起きることになります。

岡部:個人データをマネタイズする領域はGAFAの独壇場でしたが、そこに切り込むチャンスが生まれるわけですね。

大田:日本で考案された情報銀行の認定は、世界からも注目され、ヨーロッパも同様の仕組みを始めようとしています。いきなりGAFAと互角なものをつくるのは難しいでしょうが、私の会社DataSignも、情報銀行の仕組みをいろいろな人に使ってもらおうと、チャレンジしている1社です。

岡部:TISもまさに同じ考えです。チャレンジしなければ勝つチャンスはありませんからね。


3. プラットフォーマーとの違いは「個別同意」 の有無

岡部:たとえば、ECモールを運営する事業者が、会員の購買動向データを外部提供する代償として、会員へポイントを付与する。このような、従来からよく見られるモデルも情報銀行の一種と考えることはできますか?

大田:広義での認定対象となり得る情報銀行と解釈することはできますが、私は個別同意の仕組みがなければ「個人中心」の情報銀行とは現時点では言えないという考えです。

岡部:個別同意とはつまり、自分の情報が誰に提供されるかを自分で選択でき、個別に提供をストップできる仕組みですね。

大田:そうです。私が情報銀行認定の検討会に加わって主張したのは、情報銀行は包括的同意だけではなく、個別同意の仕組みを備えていなければいけないという点でした。総務省・経産省の公表している「情報信託機能の認定に係る指針」では認定基準として“消費者個人を起点としたデータの流通、消費者からの信頼性確保に主眼を置く”とされていますが、特にパーソナルデータをマーケティングに活用する場面において、包括同意によって個人中心のデータ流通を実現することは難しいと考えています。

岡部:情報銀行の申請を行う企業・団体にとって、個人からこっそり情報を集めて外部へ提供するのではないという証にもなりますね。

大田:今、いろいろな企業や団体が、情報銀行の認定を得るためにチャレンジしていますが、”消費者個人を起点としたデータの流通、消費者からの信頼性確保に主眼を置く”という点で審査になかなか通らないと聞いています。個人が自分のパーソナルデータを個別にコントロールできる仕組みを持たせることが、認定取得への第一歩になると思います。


4. 登場が待たれる情報銀行のキラーアプリ

岡部:情報銀行の利用が一般化するためには、個人に「そんなにいいベネフィットがあるなら、パーソナルデータを預けたい」と思ってもらうことが重要でしょうね。

大田:そうですね。ただ単に、個人データを流通させるといいことがある、と訴求しただけでは共感は得られません。やはり、ブレイクスルーのためにはキラーアプリが必須だと思います。

岡部:太田さんは、情報銀行のアプリに、どのような魅力を付加すればよいとお考えですか?

大田:一つの方向として、さまざまなプラットフォーマーが保有する自分に関するあらゆる情報を手元に集め、AI秘書のような働きをするアプリをイメージしています。そのアプリが、たとえば冷蔵庫に足りない食材をオーダーしたり、Webミーティングの議事録をつくってくれたりと、生活や仕事をより快適にできるよう手助けしてくれるというものです。

岡部:自分のことをいちばん知っているから、指示をしなくても自分と同じ判断をして振る舞ってくれると。

大田:はい、例えばフェイスブックやグーグルがそのようなサービスを無償で始めたとしても、個人中心ではなく、企業に都合の良い判断をしてしまうAIになってしまうため、本当の信頼は得られません。ただ、現状、情報銀行にはフェイスブックやグーグルに並ぶような便利なアプリがないのが課題です。個人ユーザーに、便利さ・楽しさを提供して、かつパーソナルデータは自分自身でコントロールできるサービスを開発できれば、個人中心の情報銀行を社会に定着させていけると思います。

岡部:アプリを使ってマネタイズができれば、情報銀行のビジネスに参入する敷居が下がりそうです。

大田:私は、本当に便利なアプリができたなら、情報銀行は有償のサービスであるべきだと思っています。企業のマネタイズのために自分のパーソナルデータを使われるのではなく、個人がお金を払って、自分にとって本当に有益なサービスを受けられる。本来はこのように、個人がベンダー側を主導する関係へと向かうのが理想のかたちだと思っています。

岡部:TISとしても、キラーアプリを手掛けたいという想いはあります。個人ユーザーに直接アピールできるアプリも目指して行きたいとも考えていますが、まずは地域に特化したアプリなどからの展開を検討しています。このテーマは非常に重要なものであり、今後も引き続きご指導いただければと思います。本日はありがとうございました。


TISは、2019年のPDS(パーソナルデータストア)を利用した個人情報管理・活用の実証実験を皮切りに、「情報銀行」プラットフォーム構築を支援するソリューション群を提供しています。
「情報銀行」ビジネスへの参画に興味のあるお客様、パーソナルデータを利活用したビジネスモデルを検討中のお客様は、お気軽にTISにご相談ください。
・社名、製品名、ロゴは各社の商標または登録商標です。

太田 祐一

太田 祐一

株式会社DataSign

  • 代表取締役社長

データ活用の透明性確保と、個人を中心とした公正なデータ流通を実現するため、DataSignを設立。 初の通常認定情報銀行「paspit」を運営。一般社団法人MyDataJapan 常務理事。 総務省・経産省 情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会 委員。 内閣官房デジタル市場競争本部 Trusted Web推進協議会 委員。