#1 UiPathの端末をWindows10から11へ移行してみた
近年、Microsoft社は新たなオペレーティングシステムであるWindows 11をリリースしました。
これに伴い、従来多くの企業や組織で利用されてきたWindows 10のサポートが2025年10月14日をもって終了することが公式に発表されています。
現在、業務自動化(RPA)をはじめとする各種業務システムにおいてもWindows 10端末が広く利用されており、サポート期限切れによるセキュリティリスクやシステムの安定性への影響に対応するため、Windows 11への計画的な移行が急務となっています。
今回のコラムでは、私たちが携わったUiPathのWindows 11からの移行について、実態をお届けします。
対象プロジェクトのプロフィール
プロジェクト概要 | 基幹システム支援RPAの保守開発プロジェクト |
---|---|
プロセス(業務シナリオ)数 | 15プロセス |
端末数 | 本番環境:15台 テスト環境:2台 |
UiPathバージョン | 2023.10.4 |
プラットフォーム | 移行前:Windows10(仮想端末) 移行後:Windows11(物理端末) |
1.事前調査
はじめに、Windows11への移行時に発生した主な問題事例を、メーカーサポート問合せおよびWebから調査した結果、複数の問題を確認しました。一つ一つの事象に対し、原因を特定し対策方法を検証しました。以下はその一例です。
具体的な事象・内容 | 発生例・補足 | 具体的な対策例・詳細解説 |
---|---|---|
メール操作ができない | 端末のOutlookが新バージョンに変わったことへの影響 | Outlookを旧バージョンへ戻す 新バージョンで対応可能なアクティビティへ置き換える |
UiPath Studio/Robotや拡張機能が正常動作しない | 一部の旧バージョンで起動不可、新バージョン導入で解決 | UiPathや拡張機能を最新バージョンにアップデートする。 |
自動ログイン設定・Windows資格情報の移行でエラー | Credentialの再設定が必要になるケース | 資格情報マネージャー・UiPath OrchestratorのCredentialでの設定確認と再登録。 |
画面解像度の違いやUI要素の変更で画像認識・クリック箇所がずれる | 画像認識アクティビティで誤動作、座標指定の再調整必要 | 画面解像度設定の統一。UI要素の再キャプチャ・画像認識パラメータの見直し。 |
プロキシ設定やファイアウォール例外がリセット・変更され通信できなくなる | Orchestrator接続不可、外部サイトアクセス失敗 | ネットワーク設定の事前控え、移行後の再設定。 |
UiPathライセンスや関連ソフトの認証・アクティベーション再申請が必要 | デバイスID変更等で再認証が求められる | ライセンス情報の事前確認、UiPath公式手順に従い再認証・再アクティベートを行う。 |
セキュリティ強化により自動化処理がブロックされる | UACやウイルス対策ソフトの仕様変更でプロセス停止 | UACやウイルス対策ソフトの設定確認・調整。必要に応じて例外ルールを追加。 |
表.1:Windows11移行で発生する主な問題
2.方針検討
方針を検討するにあたり、以下の観点を重視しました。
A)1.事前調査の結果を踏まえ、注意すべき点があるかを確認すること
B)品質を保証できるテストシナリオを策定すること
まずA)については、「表1 Windows11移行で発生する主な問題」より注意すべき点を以下の表にまとめました。
# | 注意すべき点 |
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1 | 通信 |
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2 | セキュリティ |
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3 | 認証 |
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4 | メール |
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5 | UiPathアクティビティ |
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表.2-1:A)における注意すべき点
今回の対象プロジェクトでは、表2-1の注意すべき点はB)で策定するテストシナリオの中で確認できるため、合わせて実施することにしました。
なお、メール(Outlook)は旧バージョンを継続利用する方針としました。
続いてB)については、品質の保証=業務処理が適切に行われることを保証するという観点から、下表の再テストが必要であると判断しました。
# | 注意すべき点 |
---|---|
1 |
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2 |
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表.2-2:B)における再テストの観点
表.2-1および表.2-2の内容を組み合わせたテストを実施することに決定しました。
なお、対象プロジェクトにおいて表.2-2の判断に至った理由は、クリティカルな業務内容であるため、業務処理はデータパターンも含めて全て網羅する必要があったためです。
3.検証と発生した問題
検証を実施したところ、下表のエラーが発生しました。
# | 発生した問題 | 原因 | 対処 |
---|---|---|---|
1 |
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|
|
2 |
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|
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表.2-2:B)における再テストの観点
4 原因と対応
調査
エラー発生箇所を追跡した結果、「UiPath.Excel.Activities」でエラーが多発していることが判明しました。本プロジェクトは、UiPath.Excel.Activities v2.11.4を使用していますが、バージョンやご使用状況が異なる場合は、同様の事象が発生するかどうかは保証できません。

仮説
更なる調査のため、Studioでデバッグ実行を行ったところ、エラーは発生しませんでした。
この結果から、処理スピードが速すぎるため、Excelの操作が追いつかずエラーが発生している可能性があると考えました。
試行
仮説に基づき、Excel操作の前後でDelay処理を追加して動作確認を実施したところ、エラーは解消しました。本プロジェクトでは遅延時間を15秒で設定していますが、適切な設定値はご使用状況によって異なります。
真因を調査するため、移行前後の各プラットフォームでの処理時間を計測したところ、結果は以下の通りでした。
移行前:約10分
移行後:約8分 ※Delayを含む
結論
得られた結果から、物理端末の性能が仮想端末よりも優れていたため、処理速度が速くなり、今回の事象が発生したと判断しました。
5. まとめ
今回は、結果的にWindows11への移行が原因となる障害は発生しませんでした。
一方で、プラットフォーム変更(物理端末への変更)に伴う障害を検知・解消することができました。
このような意味で2.方針検討で再テスト実施までを検討したことが、結果としてエラーの適切な発見につながりました。
また、テスト実施方法については、プロジェクトごとの状況に応じた検討が重要です。
(ア)テストのパターンを限定可能
・対象業務の重要度に応じて、代表パターンのみに限定するなど
※個々のプロジェクトで、テスト方針の設定が重要
(イ)テスト自動化を適用済
・Test Suite等でテスト自動化を適用済であり、再テストにコストがかからない場合、全ての再テストを実行するなど
6. 補足:Outlookについて
Windows11を利用する際、Outlookの新バージョンを利用するかを選ばれる方も多いかと思いますが、UiPathでは、新旧それぞれ異なるOutlookアクティビティで対応する必要があります。
そのため、Windows11への移行とは別に、Outlookの新バージョン対応を個別に進めることを推奨します。
例えば、以下のデスクトップ版Outlookアクティビティを使用している場合、新しいOutlookを使用することはできません。旧Outlookを使用し続けるか、Microsoft365アクティビティに変更する必要があります。
- Outlook Desktop メール メッセージを削除
- Outlook Desktop メール メッセージを取得
- Outlook Desktop メールを既読/未読にする
- Outlook Desktop メール メッセージを移動
- Outlook Desktop メール メッセージ トリガー
- Outlook Desktop メール メッセージに返信
- Outlook Desktop メール メッセージを保存
- Outlook Desktop メール メッセージを送信
- Outlook Desktop メール メッセージを設定
詳しいメーカー見解については、以下のサイトから確認いただけます。
アクティビティ - 新しい Outlook が UiPath デスクトップ版 Outlook アクティビティに与える影響
さいごに
TISでは、UiPathの導入から運用後の課題解決まで、現場に寄り添ったサポートを行っています。今回ご紹介した内容以外にも、実際の現場で得られた知見が多数ございますので、ご関心があればぜひご相談ください。
執筆者:藤生 貴司
※本コラムはTISエンジニアの実体験・知見に基づく内容を記載していますが、記載された情報や手順が全ての環境で同様に動作することを保証するものではありません。万が一、本コラム内容を参考にしたことによる損害等が生じた場合、当社は責任を負いかねますのでご了承ください。また、記載されている情報はコラム公開時点のものであり、予告なく変更される場合があります。