#2 TISエンジニアが読み解くUiPath Agent Builder
RPAの導入が一巡し、多くの企業で定型業務の自動化や業務効率化が進んでいます。私たちエンジニアも多くのRPA開発に携わってきましたが、近年は「これ以上は自動化できない」「現場が望む柔軟さに応えきれない」といった壁に直面することが増えてきました。特に業務の属人性、頻繁なルール変更、ユーザー主導での運用ニーズといった、従来のRPA設計では難しい領域への対応が課題となっています。こうした背景のもと、注目を集めているのがUiPathの新製品「Agent Builder」です。
今回のコラムでは、TISのエンジニア視点で、Agent Builderの技術的特徴、導入のポイント、現場での活用の可能性について解説します。
目次
1.RPAの限界を超える?Agent Builderの登場
RPA導入における壁
RPAの導入は多くの企業で一定の成果を上げており、定型業務の自動化という観点では成熟期に入っています。しかし、現場では業務ルールが日々変化し、例外も多く、堅牢なルール設計にするほど条件分岐が増え、小さな変更にも修正が必要です。RPAは指示通りの処理に強い一方、状況に応じた判断は苦手で、この特性が現場の期待とのギャップを生んでいます。
判断もこなす自動化へ
従来の自動化は「決まった入力に対して決まったルールで実行する」ことが得意です。しかし、現場の業務には、文書のニュアンスから意図を汲み取ったり、複数の条件を比較して最適な順序を決めたりするなど、単純なルールでは表現しづらく、人間の判断力に頼らざるを得ない部分が多くありました。
しかし、近年のAIの急激な進化により、この「判断」の領域にも自動化が進み始めています。
Agent Builderという選択肢
UiPathが提供するAIエージェントを開発できる「Agent Builder」はまさにこのような課題を解決する新たな選択肢です。人工知能を活用することで、従来のRPAでは表現できなかった「判断」をAIエージェントに担わせることを可能とします。自然言語でプロンプトを設計するだけで実現できるのが大きな特徴です。
また、Agent BuilderはUiPathの他製品とシームレスに連携できるため、AIエージェントが判断した結果をRPAが確実な操作で実行する、といったハイブリッドな自動化を可能とします。
2.Agent Builderの技術的特徴
主に以下の内容で構成されています。
全般(プロンプト) | システムプロンプト: エージェントの役割・目的・ルールなどを自然言語(プロンプト)で定義。 ユーザープロンプト: 入力情報をどのようにしてエージェントに渡すかを定義。 ※プロンプトとはAIへの指示や条件を自然言語で記述する仕組みです。 |
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ツール | エージェントが呼び出すアクション。 データ取得や更新処理など、UiPathのアクティビティやプロセスを実行。 |
コンテキスト | エージェントが判断に利用する情報。 ストレージバケットや外部ストレージサービスに格納された業務マニュアルやナレッジなどを利用。 |
エスカレーション | エージェント処理に人間の判断を組み込む仕組み。 Appsで作成したアプリケーションをAction Centerを活用してAgent×人間を実現化。 |
表 1:Agent Builderの構成
図1は実際に作成したAgent Builderの構成となっています。一般的なプログラムはもちろん、従来のRPAとも異なり、基本的には自然言語(プロンプト)で構成されていることが分かります。複雑な画面構成でもないため、RPA開発に慣れていない方でも、ハードルはかなり低いと感じられるでしょう。

3.TISエンジニアが試してみたAgent Builderの実力とは?
コラムを執筆するにあたって実際にAgent Builderを検証する機会を得ました。
ここでは、その体験をもとにエンジニア目線で感じたメリットや可能性についてご紹介します。
導入による現場メリット
まず、Agent Builderの特徴として感じたのは「非エンジニアでも扱いやすい」という点です。従来のRPA開発もローコード開発となっていますが、より良い効果を得るためには細かな条件分岐の設計や変数の利用が必要であり、どうしても専門的な知識が求められました。
しかし、Agent BuilderはWebベースのインターフェース上でテキストボックスにプロンプト(指示文)を設定するだけで、Agentに判断処理を組み込めます。プロンプト作成には多少の工夫が必要ですが、他の生成AIサービスと大きな違いはないため、現場担当者でも十分に習得可能だと感じました。

また、最大の特徴として感じたのは既存のUiPath製品との連携もスムーズに行えることです。前章で紹介したようにAgentから「ツール」を使ってRPAやアクティビティを実行することはもちろん、既存のワークフローから一つのアクティビティでAgentを実行できます。RPAがデータを取得してAIによる判断結果をもって次の処理へ進める――こうしたハイブリッドな自動化フローを、特別な追加開発なしで実現できるのは大きな強みです。
UiPathを含め、多くのAgent製品が市場に存在しますが、RPAとシームレスに連携できる製品は多くありません。RPAにおける豊富な実績と専門知識を持つUiPathだからこそ、他社製品との差別化を図り、より効果的な自動化ソリューションを提供することができると感じました。
このようなAgentとRPAの連携により、従来のRPAでは自動化が難しかった「判断が必要な業務」や「ルールが頻繁に変わる業務」にも、柔軟に対応できる可能性が広がります。これまで多くのRPA開発に携わる中で、条件分岐が複雑になりすぎて、保守や引継ぎが大変になったケースや、複雑さのためにRPA化を断念したケースを数多く経験してきました。Agent Builderはそういった課題に対する有効な解決策になると感じました。

人とAgentの協働
Agent Builderの導入によって「人とエージェントが一緒に働く」新しい業務スタイルも見えてきました。例えば、問い合わせメールの分類結果を人が確認し、適切なカテゴリーに修正することで、AIの判断精度を向上させる運用も可能です。このような協働モデルは、現場の自走力を高めるだけでなく、業務の標準化や属人化解消にも寄与します。
今後は、業務ごとに最適なプロンプトテンプレートを作成し、現場で共有することで、プロンプト設計ノウハウの蓄積が進むと考えられます。これにより、現場担当者がより効率的にAIを活用できる環境が整い、Agent Builderの適用範囲はさらに広がっていくと考えています。
RPAとAI、それぞれの強みを活かしたハイブリッドな自動化が進むことで、日常的な問い合わせ対応や文書処理が自動化され、現場担当者はより高度な意思決定や顧客対応に集中できる環境が整うでしょう。こうした状態が、次世代の業務標準となる日も遠くないかもしれません。

4.どう使う?現場適用のリアルと課題
Agent Builderは、従来のRPAだけでは対応できなかった「判断を伴う業務」に対する新たな選択肢です。ただし、実際の現場にどのように活用できるのか、導入するにあたってどのような課題があるのかを考えておくことが重要となります。
ここでは、活用シーンの具体例と導入時に注意すべきポイントについて解説します。
Agent Builderの活用シーン
Agentの効果が特に発揮されるのは、曖昧さや判断が求められる業務です。以下は適用が期待されるシーンの一例です。
- 問い合わせの一次対応
社内ヘルプデスクや顧客窓口などにおける一次対応をAgentで実施します。問合せ内容をAIが読み取り、「ITサポート」「人事関連」などカテゴリー分類や優先度判定を実施します。さらに、マニュアルや過去の対応事例をもとに回答の下書きを自動生成することで、担当者は確認や微修正のみで対応可能となり、対応スピードと品質が向上します。 - 経費精算の内容チェック
提出された経費精算をAgentが分析し、規定に合致しているか確認します。不備があれば申請者に不備内容を通知し、不備がなければ承認者に承認フローを実行するよう依頼します。経費精算の確認作業を効率化し、不備の早期発見で処理スピードを向上させます。 - 文書の要点抽出と分類
長文の文書から重要な情報を抽出し、次のアクションを提案します。例えば議事録から決定事項を抽出して関係者に通知する、営業日報や報告書からリスク要因を抽出して管理者にアラートを送るなど抽出した情報によって行うアクションを切り替えるといった使い方が考えられます。

懸念点:導入時に注意すべきポイント
導入するにあたっては注意すべきポイントがいくつかあります。これらを事前にしっかりと把握しておき、適切な対処をすることが導入成功のカギとなります。
- 精度と信頼性
AIの判断結果は100%正しいとは限りません。
例えば、問い合わせを誤って低優先度に分類してしまう、いわゆる「偽陰性」のリスクがありえます。こうした誤判定は業務効率化を損ない、顧客や取引先との信頼関係を損なう可能性があります。対策として、誤判定の影響を事前に評価し、エスカレーションフロー(AIの判断に不確かさがある場合や特定条件を満たす場合に、人間の判断を仰ぐ仕組み)を設けることが重要です。低優先度と判定した問い合わせでも、特定キーワードを含む場合は担当者に自動通知し、優先度を修正できるようにします。これにより、重要案件の見落としを防ぎ、迅速な対応が可能となり、顧客満足度を高め、取引先との信頼関係を維持できます。Agent Builderなら、このエスカレーション機能を容易に実装できます。 - ガバナンスと適用ルール
AIを活用する際は、「いつ・誰が・どのようなことをしたのか」を記録することが不可欠です。
AIの判断はブラックボックス化しやすく、誤判定や不正利用があった場合に原因特定や責任所在が曖昧になる恐れがあります。加えて、ガバナンスが不十分だとトラブル発生時の対応が遅れ、法的・契約的なリスクにも発展しかねません。プロンプトやルールの変更履歴を記録し、定期的にレビューする仕組みを構築することで、AIの判断結果を可視化し、トラブルの原因特定や迅速な対応が可能になり、業務全体の信頼性を高めることができます。UiPathにはOrchestratorに加え、Automation OpsやAI Trust Layerを用いることでポリシー管理や生成AIの利用監査ログ取得が可能になり、コンプライアンス要件を満たした安全運用が実現できます。 - 段階的な導入アプローチ
AIエージェントの導入は「まずは小さく始める」のが重要です。
いきなり全社展開すると、初期の誤判定や想定外の動作が広範囲に影響し、現場担当者の負担増加や業務混乱、対応コスト増を招く危険があります。また、ユーザー側の運用習熟度や現場の受け入れ体制が整わないまま導入すると、せっかくの仕組みが形骸化してしまう恐れもあります。そのため、まずは特定業務や小規模な業務で概念実証(PoC)を行い、精度や効果を検証します。例えば、問い合わせ分類や定型承認フローなど、影響範囲が限定的で成果が測りやすい業務を選びます。単に「動くかどうか」だけでなく、誤判定のパターン分析、処理時間短縮効果、ユーザー満足度といった複数の観点で評価します。その結果を基に、現場担当者からフィードバックを得ながら運用ノウハウを蓄積します。こうして段階的に改善を重ねることで、現場の理解と協力を得つつ、導入効果を最大化できます。
5.まとめ
本コラムでは、UiPathの新製品「Agent Builder」についてTISエンジニアの視点からその技術的特徴や導入メリット、現場での活用可能性、そして導入時の注意点について解説しました。
RPAの導入が進む中で従来のルールベースの自動化では対応が難しかった「判断を伴う業務」に対する新たな選択肢として、Agent Builderは非常に大きな可能性を秘めています。AIの柔軟な判断力とRPAの実行力を組み合わせることで、これまで自動化が難しかった領域にも踏み込めます。ただし、AIの判断結果が100%正確ではないことを前提に、エスカレーションフローやガバナンス体制を整備し、段階的に導入を進めることが重要です。
今後、Agent Builderの活用が進むことで、現場の業務効率化はもちろん、業務の標準化や属人化の解消、さらには現場担当者がより高度な意思決定や顧客対応に集中できる環境が整うことが期待されます。RPAとAI、それぞれの強みを活かしたハイブリッドな自動化により、より高度な業務改革が実現する日も近いでしょう。
さいごに
TISでは、UiPathの導入から運用後の課題解決まで、現場に寄り添ったサポートを行っています。今回ご紹介した内容以外にも、実際の現場で得られた知見が多数ございますので、ご関心があればぜひご相談ください。
執筆者:藤澤 拓也
※本コラムはTISエンジニアの実体験・知見に基づく内容を記載していますが、記載された情報や手順が全ての環境で同様に動作することを保証するものではありません。万が一、本コラム内容を参考にしたことによる損害等が生じた場合、当社は責任を負いかねますのでご了承ください。また、記載されている情報はコラム公開時点のものであり、予告なく変更される場合があります。