#3 どうやって使う?「UiPath Autopilot for Everyone」
最近、「生成AI」という言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。簡単にテキスト、画像、音声、動画を自動的に生成できる技術は、私たちの生活やビジネスシーンに欠かせない存在となりつつあります。こうした中で、RPAをはじめとするソフトウェアを提供するUiPath社は、「Autopilot for Everyone」という生成AIサービスの提供を行っています。
本コラムでは、「Autopilot for Everyone」の主な特徴やAIとRPAが融合した活用事例、実際に利用してみて分かったことをご紹介します。「Autopilot for Everyoneってどんな風に使うのだろう・・・」本コラムはそんな疑問を抱えている方の一助になると幸いです。
目次
1. Autopilot for Everyoneとは? その特徴について
先述の通り、「Autopilot for Everyone」とはUiPath社が提供する生成AIサービスです。「Everyone」という単語の通り、全てのビジネスユーザーに向けて提供されており、我々の日常業務を支援してくれます。ここではAutopilot for Everyoneの特徴についてご紹介します。
直感的な操作性と高度な機能
Autopilot for Everyoneは「UiPath Assistant」というデスクトップアプリケーションを介して利用することができます。ビジネスシーンでも利用しやすいアプリ形式での提供は、魅力の一つではないでしょうか。またインターフェースも一目で分かりやすい設計となっています。実際に起動した画面イメージは図1をご確認ください。
画面中央にあるチャットスペースにプロンプトを入力し、送信ボタンを押すことで生成AIを活用できるチャット形式のサービスになっています。またチャットスペースには、画像やファイルも添付可能です。Autopilot for Everyoneはプロンプトへの回答に加え、画像解析やデータ解析という高度な要求にも対応することができます。
コンテキストグラウンディング
Autopilot for Everyoneには「コンテキストグラウンディング」、いわゆるRAG(Retrieval-Augmented Generation)と呼ばれる組織固有の情報や知識を活用して回答を生成する機能が存在します。RAGと聞くと、構築が大変なのではと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、コンテキストグラウンディングはAutomation Cloud上にあるOrchestrator内で完結させることができ、構築に必要な作業も非常に簡易化されているため、実施する際のハードルは低いと感じます。また取り込むファイルもExcelやPDF、テキストといった様々な形式に対応しているため、コンテキストグラウンディングに取り込むために資料の形式変更が必要、といったケースもほとんど無いでしょう。
このように簡単にRAGのような機能を利用できることも、Autopilot for Everyoneの強みの一つと言えます。
<RAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)とは?>
RAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)は、自然言語処理(NLP)における技術のひとつです。主に質問応答やチャットボットなどの応用で使われています。
RAGは、外部データベースやドキュメントから情報を検索し、その情報をもとに回答や文章を生成する仕組みです。従来の生成モデル(例えばGPTなど)は、学習済みの知識だけで応答を作りますが、RAGは必要に応じて追加の情報を検索するため、より正確で最新の情報を含んだ応答が可能になります。
オートメーションの実行
もう一つ、Autopilot for Everyoneの特徴として「オートメーションの実行」が挙げられます。これはUiPath社が提供する生成AIサービスならではの機能になっており、事前定義されたオートメーション(RPA)について自然言語を介して実行することができるというものです。例えば、勤怠登録のRPAに対し、事前にAutopilot for Everyoneが実行できるように設定をしておきます。すると、担当者が一言、「勤怠登録をしてください。」と伝えるだけで、Autopilot for Everyoneは勤怠登録のRPAを実行してくれるのです。
従来、個人のタイミングでRPAを実行するには、起動のためのデータ準備など事前作業が必要でした。そのため、RPAの仕様を詳しく知らない人にとっては、ややハードルの高い作業となっていました。本機能はそんな課題を解決し、誰もが簡単にRPAを実行できる環境を提供しています。
2. TISではこんな風に使った!実際の活用事例
ここまではAutopilot for Everyoneの特徴や強みをお伝えしてきましたが、「実際、どんな風に使うの?」と悩まれている方も多いのではないでしょうか。ここからは、弊社での実際の活用事例をご紹介いたします。
社内独自の質問にも対応
最初にご紹介するのは「社内QA対応の自動化」事例です。
当社では特定の社内業務を進めるうえで必要になる関連資料(マニュアルや手順書等)が複数存在し、一つひとつの情報量も多くなっていました。そのため業務担当者は不明点が発生した際、必要な情報を探すことに時間がかかるという課題を抱えていました。
この状況を解消するために役立ったのがAutopilot for Everyoneの「コンテキストグラウンディング」機能です。関連資料一式をコンテキストグラウンディングに取り込むことで、Autopilot for Everyoneが社内業務に関する質問にも対応できるようになりました。その結果、業務担当者は各種資料が膨大ゆえに作業に支障が出るという状況を回避し、以前よりもスムーズに業務を進められる環境が整いました。
この事例でコンテキストグラウンディングを利用してみて私が感じたことを記載します。一番にお伝えしたいのは前述の通り構築の容易さです。今回、各種資料の形式はバラバラでしたが、コンテキストグラウンディングは様々なファイル形式に対応しているため時間もかからず取り込むことができました。 また取り込み作業も難しいものではなく、回答の精度向上のため資料を更新し回答結果を確認するという検証作業も大きな負担なく繰り返し実施することができました。一点注意点を挙げるとすると、コンテキストグラウンディングでは資料内のテキストのみ情報として認識します(注:検証時点での情報となります)。画像や図といったテキスト以外の情報は認識しないため、取り込む前にテキストで情報を補完する必要がありました。皆さんも取り込む際には、資料の内容が適切か確認するようにしてみてくださいね。
AI×RPAの実現
続いてご紹介するのは、「経費精算の自動化」事例です。
今回の事例はRPAを組み合わせた内容になっています。支払先から発行される領収書をもとに経費精算システムを通して経費精算を行う、というような一般的な経費精算の作業を、Autopilot for Everyoneを利用して自動化しました。では実際の流れについてご説明します。まず担当者はAutopilot for Everyoneへ領収書を添付したうえで「経費精算をしてください」とプロンプトを送信します。
するとAutopilot for Everyoneは領収書の内容を解析し、必要な情報を取得します。解析完了後、結果を引数として渡したうえで、事前定義された「経費精算」RPAを実行します。RPAは引数の内容をもとに経費精算システムにて申請内容を作成し、一時保存して終了します。
Autopilot for Everyone からRPA終了の通知を受けた担当者は、経費精算システムにて一時保存された内容を確認し、問題がなければ申請を行うという流れになります。
このような事例をRPAのみで実現しようとすると、OCR (Optical Character Recognition、光学文字認識)と呼ばれる、画像や紙の書類に書かれた文字を編集可能なテキストデータに変換する技術を利用する必要があり、実装にはやや専門的な知識が求められます。しかし、Autopilot for Everyoneを組み合わせることで、AIの作業に代替することができました。領収書から正しく情報を読み取ってくれるのか少し不安もありましたが、その精度は高く、領収書のレイアウトを理解したうえで情報を取得してくれました。
また企業によっては、「領収書の宛名に個人名はNG」、「経費精算は平日の9:00~18:00まで」等、経費精算をするうえでの社内規則が設けられていることもあるのではないでしょうか。その場合、担当者が経費精算を依頼したタイミングで、社内規則に則っているかをAutopilot for Everyoneがチェックしてくれると嬉しいですよね。実はこのチェック機能も実装可能です。方法としては、社内規則を記載した資料をコンテキストグラウンディングへ取り込んだうえで、経費精算RPAを事前定義する際に「実行前に社内規則をチェックすること。違反している場合は実行しないこと。」と設定します。そうすることで、Autopilot for Everyoneにて社内規則を確認のうえ、経費精算RPAの実行有無を適切に判断させることができます。
3. Autopilot for Everyoneを利用してみて
実際にAutopilot for Everyoneを検証する中で感じた魅力や注意点についてご紹介します。
魅力①:柔軟なカスタマイズ性
まず、私がAutopilot for Everyone最大の魅力と考えているのは、「容易にカスタマイズが可能」という点です。これまで、他の生成AIサービスで例えばRAGを構築するとなると、専門的な知識が必要になり簡単には導入することができませんでした。しかし、本コラムでご紹介した、コンテキストグラウンディングやオートメーションの実行という機能を利用するにあたり必要な設定はAutomation Cloud上で完結します。また設定の手順に関しても比較的容易なため、日頃からAutomation Cloudを利用する方はもちろん、利用しない方でも大きな抵抗なく実施できるのではないでしょうか。このように単なる生成AI利用にとどまらず、プラスアルファの機能を比較的簡単に取り入れることができる点がAutopilot for Everyoneの大きな強みだと感じます。
魅力②:AI×RPAを実現できる
次に、「AI×RPA」を簡単に実現できることもAutopilot for Everyoneならではの魅力と考えます。今回ご紹介した活用事例では、Autopilot for Everyoneによって取得した情報をRPAの実行に利用しました。このように、従来RPAのみでは実装できなかった、もしくは実装が難しかった処理に関しても、生成AIを取り入れることで実現できる可能性があります。Autopilot for Everyoneは「AI×RPA」を簡単に体験できる手段の一つではないでしょうか。今回ご紹介した事例以外にも「AI×RPA」の恩恵を受けるビジネスシーンは数多くあります。私自身もRPA開発者として、「AI×RPA」の可能性について考え、実現の手段としてAutopilot for Everyoneを有効活用していきたいと考えています。
注意点①:管理者の必要性
まず運用上の注意点として、Autopilot for Everyoneの管理者を決めておく必要があります。Autopilot for EveryoneはAutomation Cloud上でコンテキストグラウンディングやオートメーション実行などの追加機能を簡単に設定できますが、不特定多数の人がそれらの機能を設定できる状態であると、予期せぬアクシデントが発生する可能性も考えられます。例えばコンテキストグラウンディング内の資料更新を誰でも実施できる状態にすると、誰かが誤って関係のない資料をアップロードしてしまい、結果的にコンテキストグラウンディングの精度が下がる、また資料によっては最悪の場合インシデントに繋がることも考えられます。このような事態を回避するためにも、管理者をあらかじめ決めておき、設定変更が必要になった場合には管理者に変更を依頼するというオペレーションを実施できるとよいでしょう。これはAutomation Cloudを利用するうえで基本的な考え方ですが、Autopilot for Everyone利用にあたっても例外ではないと考えます。
注意点②:単純な生成AI利用に留めない姿勢の必要性
次に、単純な生成AI利用に留めないということが重要です。単なる生成AI利用に留めてしまうとAutopilot for Everyoneならではの強みが活かされず、他の生成AIサービスと比較して優位性を感じにくいです。繰り返しにはなりますが、Autopilot for Everyoneは独自の機能を比較的容易にカスタマイズできる点が最大の魅力と考えています。是非、本コラムでご紹介した機能を積極的にご活用いただき、他の生成AIサービスにはない価値を体験してみてください。
4. まとめ
本コラムでは、UiPathの新製品「Autopilot for Everyone」についてその特徴や活用事例、利用して感じた魅力と注意点について解説しました。
数ある生成AIサービスの中でも、便利な追加機能を比較的簡単に利用できるAutopilot for Everyoneは、ビジネスシーンで利用する生成AIサービスとして有力な選択肢となるのではないでしょうか。皆さんの職場ではAutopilot for Everyoneをどのように活用できそうか、是非一度考えてみていただけると嬉しいです。
さいごに
TISでは、UiPathの導入から運用後の課題解決まで、現場に寄り添ったサポートを行っています。今回ご紹介した内容以外にも、実際の現場で得られた知見が多数ございますので、ご関心があればぜひご相談ください。
執筆者:大谷 瑞花
※本コラムはTISエンジニアの実体験・知見に基づく内容を記載していますが、記載された情報や手順が全ての環境で同様に動作することを保証するものではありません。万が一、本コラム内容を参考にしたことによる損害等が生じた場合、当社は責任を負いかねますのでご了承ください。また、記載されている情報はコラム公開時点のものであり、予告なく変更される場合があります。