#5 「UiPath モバイルオートメーション」でスマホアプリを自動化
公開日:2025年11月
近年、企業におけるモバイルアプリケーションの活用が急速に進む中、品質保証の重要性はますます高まっています。特にモバイルアプリケーションは、UX(ユーザーエクスペリエンス)向上のため頻繁なアップデートが求められており、その結果、継続的かつ迅速な品質検証が不可欠となっています。こうした頻繁なアップデートを実施するアプリケーションへのテストにおいて、多岐にわたるテスト項目を手作業で対応することは、効率・品質の両面で限界があります。したがって、RPAによるテスト工程の自動化が重要な役割を果たしています。
本コラムでは、スマートフォンなどのモバイル端末を対象とした業務・検証プロセスを自動化する「モバイルオートメーション」の主な特徴、導入に向けた環境構築の手順、そして実際に利用した際の所感についてご紹介します。
目次
1. モバイルオートメーションとは?
「UiPath モバイルオートメーション」とは、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末上での業務プロセスを自動化するためにUiPath社から提供されているソリューションです。従来のRPAは主にWebやPCのアプリケーションを対象としていましたが、このモバイルオートメーションではモバイル端末固有の操作やアプリケーションを対象としたRPAの構築・運用が可能となります。そのため、従来多大な工数を要していたモバイル端末におけるテストを、効率的かつ標準化された形で自動化できる点が大きなメリットとなります。
2. 開発環境と環境構築
モバイルオートメーション開発時の環境と環境構築の手順についてご説明します。
前提として、本コラムで取り上げる開発環境や構築手順は一例であり、実際の環境構成はプロジェクト要件や企業のITポリシーに応じて異なる場合があります。
また、モバイル端末のOSがAndroidかiOSかによって必要となる環境や構築手順は異なります。加えて、Android端末の場合でも機種によってはモバイルオートメーションの対象外となる場合があるため、事前の対応可否確認が重要です。
開発環境
RPAに利用するモバイル端末は実機もしくはエミュレーターのいずれかを選択可能ですが、本コラムでは実機端末を採用しています。以下に、環境の構成図(図1)、開発環境の詳細(表1)を記載します。
Androidの場合、図1における開発端末とAppiumサーバーは同一のPCで構築可能です。
また、表1における開発端末およびAppiumサーバーは、Windows11でも動作することを確認しています。
| 利用したモバイル端末 | Android |
|---|---|
| Appiumサーバー | Windows10 |
| 開発端末 | Windows10 |
| UiPath Studioのバージョン | 24.1 |
| Javaのバージョン | 1.8.0_392 |
| Node.jsのバージョン | 22.15.0 |
| Appiumサーバーのバージョン | 2.18.0 |
表1:開発環境
環境構築の手順
環境構築に際し、以下の6つのステップを実施しました。
これらの手順は、UiPath公式ドキュメントにて詳細に解説されています。
(参考: https://docs.uipath.com/ja/activities/other/latest/ui-automation/android-local-devices#configuring-local-physical-android-device)
| # | 実施内容 |
|---|---|
| 1 | Javaのインストール |
| 2 | Node.jsのインストール |
| 3 | Android Studioのインストール |
| 4 | Appiumサーバーのインストール |
| 5 | モバイル端末の設定 |
| 6 | UiPath Studioとモバイル端末の接続確認 |
手順1から3ではJava, Node.js, Android Studioの各ツールをインストールします。
手順4では、コマンドプロンプトを用いてAppium(※1)とuiautomator2(※2)をインストールします。AppiumはiOSやAndroidなど様々な環境に対応しており、Appiumサーバーを介してモバイル端末との接続が可能となります。
※1 モバイルアプリケーションのテスト実施ツール
※2 Google公式のAndroidアプリ操作の自動化ツール
手順5では、開発者向けオプションの有効化およびUSBデバッグの許可設定を実施します。端末ごとに設定方法が異なるため、利用端末には注意が必要です。
手順6では、実機のモバイル端末および対象アプリケーションをUiPath Studioの「モバイルデバイスマネージャー」機能へ登録します。
3. モバイルオートメーションを利用した所感
モバイルオートメーションを利用した中で良かった点や注意が必要だと感じた点を紹介します。
良いところ
①PC向けのものと操作感は変わらず、簡単にRPA開発が可能
UiPath Studio上で自動化対象となるモバイル端末やアプリケーションを管理できる「モバイルデバイスマネージャー」の画面を図7に示します。接続中のモバイル端末の画面は、画面中央部にリアルタイムで表示されます。
モバイルデバイスマネージャー上の端末画面を直接操作することで、アプリ/Webレコーダー同様に画面操作の記録が可能です。また、UiPath Studioのワークフロー上にモバイルアクティビティを配置し、対象となる要素を指定する方法でも開発が可能です。
②モバイル端末の操作に利用できるアクティビティが豊富に存在
現在利用可能なモバイルアクティビティの一覧を以下の図8に示します。
モバイル端末の操作においては、従来のWebやデスクトップアプリケーション向けのクリックや文字入力等のアクティビティは使用できませんが、スワイプやタップ、テキストの入力・取得など、主要な操作に対応した専用アクティビティが提供されています。また、代入などのUIに依存しない汎用アクティビティもワークフローに組み込むことが可能で、用途に応じて柔軟な自動化設計が実現できます。
注意点
①環境構築でインストールするものが多く、バージョン管理も含め導入プロセスが複雑
本コラム第2章でご説明した通り、環境構築には複数の手順とツールの導入が求められます。
バージョンの不整合によって、インストール時にエラーが発生する場合もあります。開発作業自体は比較的容易ですが、開発開始前の準備段階が障壁となる点にご留意ください。
②アクティビティのターゲットとなるセレクターにおいてワイルドカードが利用不可
PC向けのRPAでは、セレクター設定時にワイルドカード(あいまいな文字列を指定するために使用される特殊文字。ここでは*) を用いることで柔軟な文字列指定が可能ですが、モバイルオートメーションではワイルドカードは対応していません。
動的なテキストをセレクターへ適用する際には、「属性を取得」アクティビティで対象属性を変数へ格納する等、追加の工夫が必要となります。
4. 事例紹介
これまでモバイルオートメーションの概要と利用した所感についてご説明してまいりました。
本章では、弊社が提供する経費精算サービス「Spendia」のモバイルアプリケーションに適用した事例をご紹介します。
Spendiaは、経費申請・承認・精算をオンラインで完結できるSaaS型のサービスです。PCだけでなくスマートフォンにも対応しており、年数回、機能追加を含む積極的なバージョンアップが行われています。そのため、バージョンアップのたびに実施するテスト業務の負荷が増大していました。
この負荷軽減を目指し、従来は手動で実施していたバージョンアップ毎での各機能のテストを、RPAによる自動化に切り替えることで、テスト工数の大幅な削減を実現しています。今回の事例で自動化した範囲については図9に示します。
精算内容の申請から、2人目の承認者による承認プロセスまでを自動化しました。申請の承認・差戻しを個別および一括で行うといったテスト観点があるため、申請フェーズでは複数の経費申請を作成・提出する必要があります。繰り返し作業も自動化することで、テストの一貫性を担保しつつ、作業負荷の軽減を実現しています。
<クラウド型経費精算システム Spendiaの詳細は こちら>
<Spendiaへのテスト自動化導入事例は こちら>
5. まとめ
本コラムでは、UiPathの「モバイルオートメーション」について、具体的な事例を交えながらご紹介しました。
従来はWebやPCアプリケーションの自動化が中心でしたが、スマートフォンの業務利用が拡大する中、より手軽にモバイル端末の自動化も実現可能となっています。モバイルオートメーションの導入により、モバイル端末を活用した現場業務の負担軽減だけでなく、テストプロセスの効率化や一貫性の向上を通じて、アプリケーション品質の向上にも寄与します。スマートフォンを利用した業務において、時間や工数を要する作業が存在する場合には、モバイルオートメーションが有効なソリューションとなりますため、導入をご検討ください。
さいごに
TISでは、UiPathの導入から運用後の課題解決まで、現場に寄り添ったサポートを行っています。今回ご紹介した内容以外にも、実際の現場で得られた知見が多数ございますので、ご関心があればぜひご相談ください。
執筆者:星 尚徹
※本コラムはTISエンジニアの実体験・知見に基づく内容を記載していますが、記載された情報や手順が全ての環境で同様に動作することを保証するものではありません。万が一、本コラム内容を参考にしたことによる損害等が生じた場合、当社は責任を負いかねますのでご了承ください。また、記載されている情報はコラム公開時点のものであり、予告なく変更される場合があります。