いまを読み解く Column

【第1回】情報銀行のブレイクスルーはいつ起こる?

パーソナルデータを利活用したビジネスを活性化する、トリガーとして期待が高まる「情報銀行」。この日本発のモデルに対して、諸外国からも視線が注がれている。今回、情報銀行の通常認定第1号となった株式会社DataSignの太田祐一社長をお招きし、情報銀行の今、そして今後の可能性についてお話を伺う。

【写真左】
TIS株式会社
サービス事業統括本部 デジタルトランスフォーメーション
営業企画ユニット
デジタルトランスフォーメーション企画部 フェロー
岡部 耕一郎

パーソナルデータを軸に、情報銀行やデジタルマーケティングをテーマとした事業企画に従事。

【写真右】
株式会社DataSign


代表取締役社長
太田 祐一

データ活用の透明性確保と、個人を中心とした公正なデータ流通を実現するため、DataSignを設立。
初の通常認定情報銀行「paspit」を運営。一般社団法人MyDataJapan 常務理事。
総務省・経産省 情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会 委員。
内閣官房デジタル市場競争本部 Trusted Web推進協議会 委員。

パーソナルデータ流通を加速させる情報銀行


岡部情報銀行は日本で生まれたコンセプトだと伺っていますが、いつ頃できたのでしょうか?

太田日本で初めて情報銀行という言葉が使われるようになったのは2009年頃と記憶しています。当時、海外でフェイスブックやグーグルなど、パーソナルデータを活用してマネタイズに成功する企業が出てきていました。一方、日本の企業は個人情報保護法もあって、そのようなビジネスが実現できていなかった。そのため、パーソナルデータの流通を活性化する目的で、情報銀行をつくろうという気運が官民の双方で高まったのが、出発点だと理解しています。

岡部パーソナルデータを「守る」ためではなく、あくまで「活用する」ことが出発点だったわけですね。情報銀行は、データ流通において、どういった役割を持ちますか?

太田個人が何かサービスを使いたい時、プライバシーポリシーや規約など膨大な情報に目を通し同意する必要があり、判断が難しいのが実情です。そこで情報銀行が、個人からパーソナルデータを預かり、サービスを提供する企業の利用規約やプライバシーポリシーを確認、審査し、データ提供の可否を判断する。そして、許容された企業にのみデータを提供し、安全を確保したうえで流通させようというのが最初のコンセプトでした。

個人はどんなベネフィットを受けられるのか


岡部そもそも“銀行”は、預けたお金を運用し、利益を還元する仕組みです。情報銀行の場合は、個人が預けたデータに対して、どんなベネフィットがありますか?

太田ポイント付与やキャッシュバックのようなものを連想しがちですが、IT団体連盟や総務省ではそうした金銭的なフィードバックを推奨していません。自分のデータをお金で切り売りするのではなく、企業側にデータを活用してもらうことで自分がエンパワーメントされるようなかたちが必要ではないかと考えています。

岡部具体的には、どういった例が考えられますか?

太田たとえば個人の病歴であったり、フィットネスアプリで計測した心拍数のデータを情報銀行に預ける。そのデータを医療サービスの企業が利用することで、個人は病気を予防したり改善につながるアドバイスをもらうことができます。
(注)病歴等の要配慮個人情報は、現行の情報銀行認定スキームでは対象外となっている。

岡部そのデータを製薬会社が利用すれば、新薬の開発にも役立つかも知れませんね。

太田そうですね。その場合、ベネフィットは個人に直接返ってくるというより、“将来的に自分がそれを使えるかも知れない”という便益になり、社会貢献的な意味合いが強くなってきます。その点、直接的な金銭のフィードバックとの大きな違いです。

個人情報を流通させることへの不安を
どう解消するか


岡部日本で、パーソナルデータを流通させる仕組みがなかなか広がらないのは、個人情報を悪用されることへの不安心理が大きいと思います。

太田おっしゃるとおり。1年程前には、Cookieで集めた情報を希望する企業に提供した行為がバッシングを受けるという出来事もありました。たとえ個人に直接紐付かない情報であっても、利用の仕方によっては不利益につながる恐れがあり、データを集める側も利用する側も、より慎重な姿勢が求められます。今後予定されている改正個人情報保護法でも、Cookieで取得したデータの利用に一定の制限が加えられる予定です。

岡部EU圏では2018年からGDPR(一般データ保護規則)が適用され、Cookieに対しても厳しい制限を受けるようになっています。世界的に見ても、個人の情報をプライバシーに配慮しつつ活用していかなければいけない動きが出てきていますね。

太田「保護」と「活用」を対立構造として捉えるのではなく、両立していくことが重要です。情報銀行が個人情報をしっかり守りつつ、個人をエンパワーメントすることができれば、データ流通の印象をポジティブなものに変えていけると考えています。

岡部そのためにも、パーソナルデータの流通が活発化することで、個人にメリットがあることをもっと知ってもらう必要がありますね。

太田日常の中でも、恩恵が受けられるシーンは増えていくと思います。たとえば、銀行に本人確認書類を提出して口座を開設する際、個人がそのデータにパーミッションを与えて、別の金融会社でも使えるようにする。そうすれば、証券会社で口座を開設する際は確認書類を提出する手間が不要になります。こうした身近なケースが今後いろいろなところで起きてくると思っています。

個人がパーソナルデータを
一元管理できる情報銀行


岡部個人が情報銀行に預けるデータをどのようにコントロールできるのかを伺います。基本的な仕組みは、情報銀行に対して包括的同意を与えて、データを提供する企業の選別までを一任する方法になりますか?

太田情報銀行のコンセプトが立ち上がった当初は、おっしゃるように包括的同意が前提でした。つまり、個人が情報銀行に対し「広告目的で使われるのは困るが、健康のためになるならデータを提供していい」といったような合意を行い、情報銀行がデータ提供先を選ぶ仕組みでした。しかし、この場合、個人が想定していない企業にデータが流通してしまうリスクがあり、利用を希望する企業に対し、個人が一社ごとにパーミッションを与える「個別同意」の仕組みが必要だという意見が検討会の中で徐々に増えてきました。

岡部では、今の情報銀行は「包括的同意」と「個別同意」の両方に対応しているわけですね。個人と情報銀行をつなぐ接点はスマートフォンのアプリが主体になると思いますが、個別同意はどのような手順で行うことになりますか?

太田DataSignの「paspit for X」の場合、企業が個人のデータを利用したいというオファーを出すと、それが画面に一覧表示されます。個人はそのオファーに対し、個別に承諾を行います。既に利用権限を与えていてもチェックを外すだけで許諾を取り消しでき、ユーザー自身がデータ提供先を自由にコントロールできます。

情報銀行のブレイクスルーの鍵を握る「地域」


岡部TISは、情報銀行のブレイクスルーは「地域」が鍵だと考えています。地域には少子高齢化や過疎化などさまざまな課題がある。こうした課題解決のために情報銀行に預けた地域住民のパーソナルデータを活用しようという動きが、自治体や地元企業の間で広がっていけば大きな流れにつながると見ています。

太田私もそう思います。地域において情報銀行に関心を持つ方、事業に参画する方は、自社のビジネスで直接利益をあげようというより、地域活性化を目標としている方がほとんどです。長期的な視点で見れば、地域の活性化が結果的に自らの利益につながるという考え方ですね。

岡部データを提供する地域住民にとっては、地域貢献にコミットすること自体がベネフィットになるという考え方もできそうですね。

太田社会貢献のためのデータ提供という考え方は、「情報銀行」という言葉の生みの親とも言える東大の柴崎教授のコンセプトにも通じます。たとえば、災害時に大勢の人が自分が移動した位置情報を提供することで、進もうとしている道路が通行可能かどうかが分かるといった災害対応のケースも想定されています。このコンセプトは、地域における情報銀行の可能性を示していると思います。

岡部地域で情報銀行の情報を利活用するのは自治体だけでなく、事業者の関わりが大きくなってきますから、いかに地域社会に軸足を起きつつ、ビジネス的に成立させるかが重要テーマになりますね。

太田これまで、企業は「データを囲い込む」ことがマネタイズにつながるという意識を持っていました。これからは、パーソナルデータを個人の意思で複数の会社に流通させて、地域全体、社会全体の利益を目指す方がビジネス成長につながるという発想も必要かと思います。

岡部長年、企業に根付いてきた意識を変えてもらうのは、かなり難しい挑戦テーマになりますね。

太田ヨーロッパで個人の権利として認められている「データポータビリティ」のような考え方が日本にもあるべきだと思います。たとえばプラットフォーマーA社が保有している自分のパーソナルデータを、簡単な手続きで同業のB社へ移行できるようになる。このように “個人起点”でのデータ流通が活発になっていけば、「データは囲い込むもの」という企業の意識も変わっていくのではないでしょうか。

TIS株式会社
デジタルトランスフォーメーション企画部 フェロー
岡部 耕一郎

株式会社DataSign
代表取締役社長
太田 祐一


TISは、2019年のPDS(パーソナルデータストア)を利用した個人情報管理・活用の実証実験を皮切りに、「情報銀行」プラットフォーム構築を支援するソリューション群を提供しています。
「情報銀行」ビジネスへの参画に興味のあるお客様、パーソナルデータを利活用したビジネスモデルを検討中のお客様は、お気軽にTISにご相談ください。


・社名、製品名、ロゴは各社の商標または登録商標です。

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