世界的にパーソナルデータを保護する流れが強まる中、自社で膨大な1st Party Dataを取得してマーケティングに活用できる大手プラットフォーマーの優位性が高まっている。前回に引き続き、株式会社DataSignの太田祐一社長をお招きし、「情報銀行」に期待されるマーケティング領域におけるゲームチェンジャーとしての可能性を伺う。
【写真左】
TIS株式会社
サービス事業統括本部 デジタルトランスフォーメーション
営業企画ユニット
デジタルトランスフォーメーション企画部 フェロー
岡部 耕一郎
パーソナルデータを軸に、情報銀行やデジタルマーケティングをテーマとした事業企画に従事。
【写真右】
株式会社DataSign
代表取締役社長
太田 祐一
データ活用の透明性確保と、個人を中心とした公正なデータ流通を実現するため、DataSignを設立。
初の通常認定情報銀行「paspit」を運営。一般社団法人MyDataJapan 常務理事。
総務省・経産省 情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会 委員。
内閣官房デジタル市場競争本部 Trusted Web推進協議会 委員。
Cookie規制の強化で、
高まるプラットフォーマーの優位性
岡部前回、日本で情報銀行の概念が誕生した背景には、GAFA対抗の目的ががあったと伺いました。そのあたりを改めてお話しいただけますか。
太田日本では過去10年ほどGAFAのようなパーソナルデータを活用したマネタイズが、ほとんど進んでいませんでした。そこで、さまざまな企業がデータ活用ビジネスに参画できるよう、個人からパーソナルデータを預かり、それを流通させる役割を担う情報銀行のコンセプトが考案されたという経緯があります。言ってみれば、GAFAと同じ土俵で戦える仕組みを国が認定し、データ利活用の産業を盛り上げようというものです。
岡部2018年にEU圏でGDPR(一般データ保護規則)が施行されて、3rd Party Cookieでデータを取得する場合、匿名データであっても同意を得ることが義務付けられました。この出来事は、データ利活用ビジネスにどんな影響があったとお考えですか。
太田GDPR を契機としてパーソナルデータを保護する方向へと大きく流れが変わり、データを利活用したビジネスに参入しにくくなっている状況だと思います。さらに、スマホのOSやブラウザを握っているアップル、グーグルも、パーソナルデータ保護の流れを受け、ターゲティング広告に必要な3rd Party CookieやIDFA(iOSの広告用端末識別子)を使えなくしようとしています。
岡部これは日本のマーケターにとっても影響がありますか?
太田国内では、個人情報と紐付けさえしなければ、個人の同意を得なくても3rd Party Cookieで取得したデータをターゲティング広告に使うことは認められています。ただし、法律による規制ではなく、OSやブラウザによる制限は日本国内にも大きな影響を与えると考えられます。
ゲームチェンジャーとなり得る情報銀行
岡部情報保護の動きが強まるほど、マーケターが活用できるパーソナルデータの入手手段は狭まっていくわけですね。
太田おっしゃるとおり。極論すれば、OSやアプリで高シェアを持つ1st Partyだけが、利用者の属性にあわせたターゲティング/リターゲティング広告を実施できることになります。大手プラットフォーマーの囲い込み戦略が、さらに加速するかも知れません。
岡部国内企業にとって、ビジネス機会の減少になると思われますが、この状況を打開するには、どうすればいいとお考えですか。
太田大手プラットフォーマーに代わって、自身のパーソナルデータを自分の意思で流通させる仕組みが必要だと思います。世界でまだ誰もその答えを見つけられていませんが、情報銀行は状況をひっくり返すゲームチェンジャーになれる可能性があります。これまでを「企業中心」の情報活用とすれば、情報銀行では個人がデータ活用の主導権を握りベンダー側をコントロールしていく「個人中心」へとパラダイムシフトが起きることになります。
岡部個人データをマネタイズする領域はGAFAの独壇場でしたが、そこに切り込むチャンスが生まれるわけですね。
太田日本で考案された情報銀行の認定は、世界からも注目され、ヨーロッパも同様の仕組みを始めようとしています。いきなりGAFAと互角なものをつくるのは難しいでしょうが、私の会社DataSignも、情報銀行の仕組みをいろいろな人に使ってもらおうと、チャレンジしている1社です。
岡部TISもまさに同じ考えです。チャレンジしなければ勝つチャンスはありませんからね。