いまを読み解く Column

「幸せなDX」をめざして 
~第2回~ 自店の商売の特性をとらえなおす

小松浩一(こまつ ひろかず)
・1961年東京生まれ。流通ビジネスコンサルタント
・中小企業診断士、1級販売士、東京販売士協会副会長
・三越伊勢丹勤務を経て、現在、文化学園大学非常勤講師、
 青山ファッションカレッジ講師
・現場での豊富な経験を活かし、マーケティング、店づくり、
 店舗の活性化、マーチャンダイジング、業務改革など、現場に寄り添った提言を行う。
・著書 8/26発刊『アフターコロナの「最強の販売脳」のつくり方』
・『みるだけで頭に入る!!「売る力」が身につく最強マーケティング図鑑』
 『人を動かすファシリテーション思考』など多数

1.はじめに


“スーパー、データで七変化”
“曜日・時間ごとの客層解析 「今・ここで売れる」並ぶ”

 

 日経MJ新聞で、スーパー「ヤオコー」の取り組みが紹介されていました。(日経MJ2021年8月9日)

 同社では購買客のポイントカードから顧客の購買内容を分析し、「時短ですぐに食べられる食事を好むタイプ」「素材から手料理することを好むタイプ」など、顧客を20タイプに分け、それぞれのタイプの来店日や時間帯に合わせて、店頭の品ぞろえや陳列を変えています。たとえば「食にこだわる顧客」が多く来店する休日の午前中にはこだわりの食材(甘長とうがらし、飛騨牛、マグロなど)を前面に打ち出し、午後になると手料理をする顧客が多くなるので、買いやすい単価で料理しやすい商品を拡充するなど、データに基づいて店頭展開を変化させ、売上を上げているのです。

 おそらくお店で働くスタッフは、「休日の午前中には、こだわっている感じのお客様が多いな~」ということは感じていたかもしれませんが、これがデータで裏付けられることでお店全体の施策へと転換することができたのです。購買内容で顧客をタイプ分けしているということは、ポイントカードによってお客様一人ひとりの買物内容がデータ化され、それをもとに顧客ごとの購買アイテムの買い合わせパターン(これをバスケット分析といいます)を、システムを用いて分析していることが推察されます。

 カジュアル衣料の「しまむら」と並んで、埼玉県小川町に生まれた「ヤオコー」ですが、1890年に八百屋として創業以来、セルフサービスなど革新的な経営手法をとりいれることで発展し、DXの分野でも成果を上げています。それも、やみくもに取り組むのではなく、スーパーマーケットという自らの業態にとって“ちょうどよい勘所”をもって取り組んでいる点がポイントです。

 本稿2回目の今回は、DXの中心テーマともなる「データ」について、どうすれば自店の顧客の購買を増やし、売上拡大につながるのかという観点から取り上げます。お伝えしたいことは、幸せなDX実現のためには、自分の店の業態特性を正しく理解し、顧客利用と売上を高めるための「データ活用の“粒感”」をどうやって見つけるか、そのための発想とアプローチ方法です。

2.売上の構成要素とは


 小売業に携わる皆様は、売上が悪いとき、何が原因だと考えるでしょうか? 様々な原因がありますが、多くの場合、以下のようなことが挙げられます。

 ①商品が悪い・・売れる商品がない。入らない(入荷しない)。売り切れた。
 ②顧客が悪い・・人が(店の前を)通らない。店に入ってこない。入ってきても買わない。
 ③スタッフが悪い・・人が足りない、売れる人材がいない・・など

 売上悪化の理由を語る商人は「言い訳の天才」とも言えますが、果たしてこれだけで足りているでしょうか? たとえば①のように売上=商品軸でしかとらえなければ、対策も商品でしか打てません。売上の構成要素を様々な軸で考えれば、打てる対策も多くなります。そして、何をデータ化し、どこにDXの重点を置くべきかも見えてくるのです。

 以下、「売上の構成要素は何か」という観点から、売上を「モノ」「ヒト」「場所」「トキ」「コト」の5つの切り口からとらえる公式を示します。

(1) モノ軸

売上=商品単価×売上点数 
・・・何が、何個売れたか

 店の売上を考えるとき、最初に浮かぶのがモノ=商品を基軸とした分析です。売れる商品があれば売れる、なければ売れない。きわめて単純な商売の論理ですが、何が売れたのかを単品アイテム単位で細かく把握することで動向がわかり、仕入も売上も在庫も改善します。この段階では顧客データは登場しませんが、商品データによる商品管理だけでも、きちんと行えば行うほど売上が上がることは、エクセル分析だけで売上を伸ばした「ワークマン」の例をはじめ、今でも商売の王道です。

 

(2) ヒト軸

①売上=客数×客単価
ア)客数=人数×購買回数 
・・誰が、何回購買したか
イ)客単価=商品単価×購買点数 
・・いくらのものを、何個買ったか

 売上分解の公式として最もよく言われるのが、この客数×客単価です。「何人のお客様が」「1人あたりいくら買って下さったか」ということでヒトを軸とした公式ですが、これはさらに2つに分解できます。

 ア)は客数の分解です。そもそも自店の利用実績者は何人居て、1人当たり平均何回買ってくれているのかという、お客様の来店行動を示します。
 イ)は客単価の分解です。店に来たお客様が、1品いくらの商品を、何個買ってくれたのかという、お客様の購買行動を示します。

 同じ100万円の売上でも、100人が1万円づつ買うような商売(食品マーケット)なのか、1人の客が100万円買うような商売(宝石店)なのかで、商売の特性は全く違います。また客数・客単価の動きを継続的に追うことで、価格設定と客数の関係から自分の商売の形を把握し、コントロールすることが重要です。

②売上=従業員1人当たり売上×従業員数
・・誰が、どれだけ売ったのか?

 ヒトの指標はもうひとつあります。ここでのヒトは従業員や販売スタッフを指し、「人頭効率」などともいわれます。高級ブティックではあたかも営業セールスと同じように一人ひとりに売上目標があり、売上をセールスの実績との関係でとらえます。セールス一人ひとりの販売実績管理が必須です。反対にスーパーマーケットでは、「何人でその店の売上を作ったか」をもとに過不足のない最適な従業員数を算出することが必要です。

 

(3) 場所軸

①売上=商圏エリアごとの売上
・・商圏内のどの地域の人は、どれだけ買ったか?

 売上は「場所」にもとづくとらえ方もあります。1つ目は店舗の売上を形成する地域=商圏のエリアごとにどれだけの売上が上がったのかということです。これはたとえば、お店の周りが海だったとして、どの海域(=地域)からどれだけ魚の水揚げ(=売上)があったのかという感覚です。1次商圏、2次商圏といった商圏設定の問題や、近隣地域と広域地域のバランスをもとに、チラシ広告の配布エリアの設定などを通じて、自店にとっての最適な商圏施策を行うためのベースになります。何もしていないのに特定地域の利用者数や売上が減っていたら、来店動線の変化や競合の出現など、店をとりまく環境に変化があったのかもしれません。

②売上=店内ゾーン、棚・什器ごとの売上
・・店内のどのゾーンはどれだけ売れたか?

 「場所」の2つ目は、店内のゾーンや什器・棚ごとの売上や効率の指標です。ゾーンごとの売上平米効率からもわかりますが、店舗という空間資源をどれだけ最大活用しているか、死に場所はないか、といったことから店内レイアウトの最適化をはかるための指標になります。店内に展開した商品は、大きさや単価、集客力や利益率など様々ですが、顧客の店内回遊動線の設計や、「見せるゾーン」「売るゾーン」「儲けるゾーン」など、店内の各ゾーンごとの役割を明確にしていくためのベースです。

(4) 時間軸

売上=月別・週別・日別・時間帯別売上

 いつ、どれだけの売上を上げているのか、その変動幅はどんな状況なのかをとらえる軸です。年間、月間、週間、そして1日の中の時間帯別など時間のピッチは様々ですが、売上の変動をみながら様々な対策を打っていきます。たとえばスーパーマーケットの「5時の市」は、高齢化によって顧客の来店時間のピークが早まれば、「4時の市」「3時の市」などに変えていくことが必要になります。

(5) コト軸

売上=催事・プロモーションごとの売上

 店舗で行う催事や売出など、「売上のヤマ」をいくつ作ったか、という観点からのとらえ方です。売出や催事ごとの売上データをもとに、その時々の「商売のヤマ」を最大限確保していく、それには(4)の時間軸と合わせて、いつの時点からどんな仕込みをしていくか、ヤマの成長やピークの見極めをもとにどうやって在庫を売り切るかなど、タイムリーな手を打ちます。キャンペーンごとの詳細な売上データが必要です。

 このように様々な売上公式を挙げたのは、あなたのお店はどの軸をもとに「データ」をとり、DX化していけばいいのかということを考えてほしいからです。そして、データの先にあるお客様一人ひとりの「行動」に対して、想像力をもっていただきたいのです。

 業種や業態、またお店の立地や商売のやり方によって、店舗活性化の対策は異なります。当然、こだわるべきデータも違います。やみくもにデータを集めてシステム化しても意味ある活用はできません。(1)から(5)の、どのやり方で売上=商売をコントロールするのがあなたのお店にとって最も有効なのか、どのデータをどの単位で、どんな時間軸でとらえ、分析活用することが自店の商売にとって最も有効なのか、その戦略があって、はじめて「幸せなDX」への道が開かれます。

 ・・たとえば冒頭のヤオコーの例では、(2)の詳細データ(購買実績データ)と(4)を掛け合わせて、(3)をもって施策に転換した、ということができます・・

3.データの「取得」と「活用」の
“粒感”マッピング
  ~あなたのお店の“幸福なDX”の勘所をみつけよう~  


 筆者はかつて、百貨店の様々な「売場」ごとにデータベースマーケティングに取り組みました。幸いなことにその百貨店では、商品売上情報は単品アイテム単位で捕捉され、顧客購買情報についても、ハウスカードを持ったお客様の個人別の購買内容を、詳細に把握できる仕組みが整っていました。いつ、だれが、何を買ったかが全部わかるデータをもとに、どうやって実際の商売の活性化につなげ、自社としてのCRMを構築するかということが課題でした。

 百貨店には、食品からファッションアパレル・雑貨・家具・家庭用品・宝飾品など、実に様々な特性をもった売場がありますが、取り組んでわかったのは、各商品群やショップにとって商売の決め手になるデータは全く異なるということでした。たとえば、大量の客数を背景に商売する食品マーケットで、お客様個人ごとに「誰が何を買ったか」の詳細な購買データをとって顧客一人ひとりにアプローチしても効果はありません。逆に、富裕層のお客様がそれぞれの事情で来店する宝石売場で「時間帯別売上」をとっても意味はなく、顧客一人ひとりの購買内容に則したマンツーマンのCRMが必要です。ショップ=業種や業態が持っている商売上の「特性」によって、構築すべきCRMの形も、活用効果のあるデータの種類や単位、いわばデータの”粒感“も、全く違うのです。

 図2では、顧客データと商品データの2つについて、どこまで細かい単位でデータを取得・活用するかということから、3つのレベルを示しました。

レベルA

顧客の購買データが存在しない、売上と客数だけしかわからない状態です。いわゆる「マス顧客」を対象に勘と経験でやっている商売ですが、それでも売上と客数・客単価の関係を細かくみることで、商売上多くの手が打てます。生鮮マーケットなど、最寄品を提供する業態の多くがこの段階です。

レベルB

顧客の購買データが整備され、性別・年齢別・住所などの属性や、購買実績にもとづく顧客のグループ別分析やタイプ化ができている段階です。冒頭のヤオコーの例はこれに該当しますが、アパレルファッションなど買回品を売る業態がここに入ります。筆者がかつて行った例として「ワインショップ」の取り組みがあります。

 ワインショップの実績客の購買データを「1人当たり購買金額」と「1人あたり購買回数」で分析し、4つのセルの顧客群としてとらえます。そして、それぞれのセルの「顧客像」について店頭販売スタッフとディスカッションしながら、どんなお客様なのか、その顧客像をイメージ化しました。すると、金額も回数も多い顧客は「ワインマニア」、金額が少なく回数が多い顧客は「ワイン好き」、金額が多く回数の少ない顧客は「オケージョン購買客」、金額も回数も少ない顧客は「ワイン入門客」という4つの顧客像ができました。ワインマニアの顧客は、ヨーロッパのワインの産地に詳しく、シーズンに先駆けていち早くその年のワインを予約購入する方が多い、オケージョンで買う方はパーティのために一度に高額の買物をする、など販売スタッフの店頭接客を通じた感覚とも一致したのです。今ではこうした分析はAIを用いて様々な顧客のタイプ分けが可能ですが、このようにデータで現れた数字を「商売の実感」とマッチングさせることが、情報を知恵に転換する上ではとても重要です。

レベルC

顧客一人ひとりの購入商品を完全にデータとして把握できている状態で、高級品や専門品を扱う業態がここに入ります。百貨店の得意先・外商顧客など、富裕層で高額購入者がイメージされますが、化粧品のような「継続反復購買」があり、肌と化粧品のマッチングなど専門的でデリケートな問題を抱える分野でも、必須&有効な取組です。保険や車など、専門的なアドバイスをもとにマンツーマンで購入する業態も同様です。

 この3つはあくまで典型例を示したもので、実際の現場ではこのほかにも様々なデータのとらえ方・活用の仕方があります。さらに今後拡大していく「オンラインEC」では、自店のデータをどんな単位で、どんな時間軸で、いわばどんな“粒感(つぶかん)”でとらえれば、オンラインとオフラインの効果的な融合ができるか、自店の業態についての深い考察や洞察が必要です。一言でDXといっても、売上のとらえ方や商売のこだわり方によって、実に様々な取組手法が考えられます。

 DXを契機に、改めて自店の商売の基軸は何かをとらえ、業態として「再定義」していくこと、これが「幸せなDX」にとって不可欠といえます。

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