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ショップに在庫がなくても「来店客に安心して買ってもらえる」販売改革を【後編】

古井戸 一郎(こいど いちろう)
TIS株式会社
・DXビジネスユニット DX営業企画ユニット
・DXペイメントコンサルティング部 エキスパート
2021年7月TIS株式会社に入社。前職の大手スポーツメーカーではEC事業構造の変革を推進。ECに関わる倉庫・物流業務、オペレーション、システム基盤、および組織体制のあり方の刷新などに取り組む。また、前々職の黒物家電メーカーの情報システム子会社所属の時代には、Owned Mediaの構築・運営、スマホアプリを活用したプロモーション施策、WebサイトのUX/UI改善などに従事。


前回、リアル店舗とECの両チャネルを持つ事業者にとって、消費者が「欠品を気にせず安心して買える」環境づくりが重要というテーマでお話ししました。今回は、すべての販売チャネルが、最新の在庫情報をリアルタイムで共有することで、販売機会を逃さないための仕組みづくりについて考えてみます。

1.広く使われている夜間バッチによる在庫情報連携の課題


前回、リアル店舗の在庫情報をEC上に反映させるために、アパレルなどの事業者の多くが、夜間バッチによる連携を行っていることについてお話ししました。この際に課題となるのが、翌日にならないとECサイト上に商品の残数が反映されず、しかもその情報が実際の在庫数とギャップが生じている可能性がある点です。

このように、オンラインとオフラインで在庫管理が分断されている状況は、日本市場固有の事情も影響していると考えられます。ECに参入した事業者のかなりの割合が、オールインワンでECを構築・運用できるECパッケージ製品を採用しています。代表的製品に共通するのは、ネットショップとUIを提供するフロントエンドの機能と、バックエンド側のカート機能や在庫管理機能をセットで提供し、容易にECを始められるという特徴です。この結果、「ECの在庫はECパッケージの機能で管理」「リアル店舗の在庫はPOS情報に基づくシステムで管理」という、2本立ての状況につながっていると考えられます。

すべてのチャネルで「ほしい商品の欠品がなく、安心して買える」状況を実現するには、両者を融合したシステムのかたちが理想と言えるでしょう。

2.ECからフロントエンドを切り離す
「ヘッドレスコマース」


数年前からECの世界で「ヘッドレスコマース」という考え方が注目されています。

“ヘッド”とは、消費者から見たECサイトであり、フロントエンドの部分を意味しています。 “ヘッドレス”は、フロントエンド機能を受注管理や在庫管理、決済といったバックエンド機能から分離することで、一枚板(モノリシック)構造であったECのシステムから脱却し柔軟性を高めようという発想です。国内で広く使われているオールインワン型のECパッケージ製品とは、正反対の考え方と言えるでしょう。

ヘッドレスコマースの概念はECサイトだけでなく、店舗やスマホアプリといった他の販売チャネルにおいても適用することができます。受注や在庫、決済といったバックエンドの機能群を分離して共通化し「OMS」(オーダー・マネージメント・システム)として整理。各販売チャネルのシステムはAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)連携によりOMSとリアルタイムに情報をやり取りすることで、常に最新の在庫情報をお客様に提示することができるようになります。

3.次世代の購買体験の提供にも柔軟に対応


このように、バックエンドを管理するシステムを共通化することで、今後、新しいテクノロジーを利用した販売チャネルを設ける際、同じ考え方と仕組みで販売・在庫を管理できるメリットもあります。

たとえば最近は、WebブラウザからのECサイト利用だけではなく、スマホアプリやSNSからでも直接ショッピングができるようになり、販売チャネルの多様化は急速に進んでいます。さらには、VRゴーグルを装着しバーチャルショッピングモールで商品を手にとって確かめられるといった、SF映画のような購買体験も夢ではなくなるかも知れません。

このように、販路が増えていった時も、共通化されたOMSに、API連携するチャネルがひとつ加わるだけなので、システム構築は従来よりもはるかにシンプルです。フロントエンドとOMSが分離した構造であれば、機能拡張の面での自由度を飛躍的に向上させることができます。

これまでにない購買体験の提供にチャレンジしたいと考えている事業者にとって、ECプラットフォームのヘッドレスコマース化は大きな武器になると思います。

4.OMSを土台とするヘッドレスコマース化に向けて


ヘッドレスコマース化によって、あらゆる販売チャネルの在庫情報を、共通化したOMSで一元管理可能となり、“チャネルを問わず消費者に心地よい購買体験を提供する”ユニファイド・コマースの実現に大きく近づくことになります。

TISでは、現在ECのパッケージ製品をご利用中のお客様に向けて、ヘッドレスコマース化をご提案しています。代表例として、フロントエンドにクラウド型ECプラットフォーム(例:Salesforce Commerce Cloud)、バックエンドにTISのサービス「オムニチャネルOMS」を組み合わせることで、柔軟性の高いECプラットフォームを実現します。

これにより、リアル店舗とECの販売・在庫情報を共通化して管理できるようになり、店舗においては“来店客に、欠品の不安なく買ってもらえる”環境が実現。販売機会を逃さず、確実な売上向上が大いに期待できます。


現行のECプラットフォームのシステムの旧態化・サポート切れなどは、ヘッドレスコマース化に踏み切る好機ではないでしょうか。OMSの導入にあたっては、既存の在庫管理システムをはじめとした他システムとのAPI連携など、高度なシステム設計が必要になるケースがあります。TISでは、豊富なECプラットフォーム構築のノウハウを活用し、ユニファイド・コマースの実現をお手伝いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。



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