いまを読み解く Column

アパレル業界の「在庫の分散」をDX+現場の意識改革で解決する

ビジネス&ITコンサルタント
中小企業診断士
城内 仁(しろうち ひとし)

1958年東京生まれ。ビジネス&ITコンサルタントとして、大手SIerにおいて多くの新規事業の企画コンサルティングを実施。IT領域では様々な業種において業務管理指標のデザインを手掛け、特に在庫の適正化指標に関しては独自の理論を考案、推進している。

1.他業界に比べて遅かったアパレル業界のEC化


私が近年、アパレル業界の案件に携わって気づいたのが、店舗とECの在庫の分断が起きているケースの多さです。特に中堅アパレルでは、他の物販業に比べて、在庫をシームレスに統合管理する仕組みづくりが遅れ気味であると感じます。

この現在の状況は、国内のEC黎明期に端を発していると私は見ています。1990年代後半、アパレル業界では「試着もせずネットで服を買う人なんて、まずいないだろう」という声が多く、ECに対して非常に懐疑的でした。その流れが変わったのは、2000年頃に伊藤忠商事が始めたファッション専用ECモール「マガシーク」、続いて2004年の「ZOZO TOWN」の登場。若年層を中心とする消費者からの反響は思いのほか大きく、セレクトショップ系のアパレル事業者は、これらECサイトに自社商品を預けるかたちでECに参入していきました。その際、リアル店舗用とEC用、それぞれ在庫を用意したことが、後の在庫の分散へとつながっていきます。

2010年代に入ると、スマホの普及とともにセレクトショップやアパレルブランドは、社外のECモール任せにせず、ネット販売を自ら手がけるようになりました。この背景には、外部ECサイトで値引き販売されることで、ブランドイメージが低下するのを防ぎたいという意図もあったと思います。

このように、中堅アパレルが自社ECに本格的に取り組むようになった歴史は、実はそれほど長くありません。これまでの経緯もあって、「リアル店舗とECは別のチャネル」という意識が残り、在庫の統合管理が進まない現状につながっていると見ています。

2.販売チャネルごとの在庫の分散が招く弊害


大手のアパレル、セレクトショップ系の会社では、この3〜4年で店舗在庫とEC在庫を共通化する仕組みがかなり進んだ印象があります。一方で、中堅のアパレル会社は、在庫管理の一元化に至っていないケースが多く、いくつかの弊害に直面しています。

まず、店舗を管理する部署と、ECを管理する部署の間での商品の取り合い。お互いが在庫を抱えて売上目標の達成を目指すとなると、人気商品の取り合いが起きがちです。両方のチャネルで欠品が起きないように生産数を増やしても、今度は過剰在庫になるリスクが発生します。

もう一つの弊害は、部署の壁を超えて在庫情報を知る手段がなく、商品を融通し合えないこと。ECは売り切れているのに、リアル店舗には商品が残っているというケースもよく目にします。このことは結果的に、顧客がほしいときにモノが手に入らないという満足度の低下を招いてしまいます。

TISでは、リアル店舗とECで、在庫情報や購買行動情報を連携させて一元管理する、“ユニファイドコマース”の仕組みづくりにより、このような課題解決に取り組んでいます。中堅アパレルが、ITの取り組みで先行する大手アパレルとの競争を勝ち抜くためにも、情報基盤の一元化は、「やるかどうか」ではなく「いつ着手するか」という段階に入ってきたと感じます。

3.システム化だけでなく、重要なのは現場の意識改革


実際にユニファイドコマースのシステムづくりをお手伝いして感じるのは、実はITの仕組みを用意するだけでは十分ではなく、「人の意識の壁」をいかに取り払うかが重要ということです。

まず、店舗とECを管理する各部署が、限られた商品の確保で競い合うのではなく、「在庫はお客様のもの」を共通の価値観とし、必要な時は商品を融通し合う関係になることです。会社の中で長年をかけて醸成された意識を変えるには、経営層・マネジメント層からトップダウンで、積極的に変化を促していくことが大切だと思います。

そして、さらに重要なのが、店舗における販売員の役割と意識の改革です。以前は、販売員の役割はあくまでも、店舗が在庫として持つ商品を来店客に販売することでした。しかし、ユニファイドコマースにおいては、お店に在庫がない場合、販売員がECでの購入へと誘導する役割を担います。店頭では商品受け渡しは発生せず、販売員がECに注文を入れて初めて、来店客の購買が成立することになります。

この時、ECへのオーダー投入が販売員個人の実績として評価されないとなると、どれほど経営層が呼びかけても現場からの協力は得られないでしょう。一般的に、アパレル業界の報酬体系は、どれだけ商品を販売したかの歩合制ですから、「誰がその商品を売ったのか」は非常にこだわりが強いポイントになります。

ユニファイドコマースの導入を成功させているお客様の中には、販売員は店舗での物販以外に、ECへの誘導、アプリのインストール勧奨、来店客からの評価点など、歩合の対象をいろいろと増やしているケースもあります。このように、アパレルのユニファイドコマース化は、ITの力と評価制度の両輪から進めていくことが成功への道だと思います。

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