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いまを読み解く

「在庫がなくても売れるお店」への転換でアパレルの過剰在庫問題を打開

吉井 進一(よしい しんいち)
クオリカ株式会社
サービスクリエーション事業部
流通営業部 主査

オリンパス在籍中にファッション・アパレル業界向けのユーバス事業の立ち上げに従事。1990年代からアパレル企業のSPA業態転換の支援に着手し、以来約30年にわたりアパレル業界の課題解決に取り組む。2017年よりクオリカ株式会社サービスクリエーション事業部に在籍。

1.アパレル業界を悩ませてきた過剰在庫問題の背景


アパレルの過剰在庫は、改めて言うまでもなく、長年にわたり業界が取り組んできた重要課題の一つです。今回は、ECと店舗を連携させた、在庫削減の取り組みについてお話ししたいと思います。

私はアパレル業界のシステムに関わって30年近くになりますが、もともとアパレル商材は"腐らない生もの"という例えがあるほど売れる期間が短く、在庫を適正化し廃棄を減らすことは、どの時代においても最優先の挑戦テーマであったと感じます。

まず、この問題への対策として、1990年〜2000年頃にSPA※と呼ばれる業態の採用が一気に広がりました。これは従来の、展示会にバイヤーを集めて注文を受けるかたちではなく、自ら生産数を決めて在庫を持ち、自分のお店で販売するものです。店頭在庫は最小限とし、売れた時点ですぐに物流センターから補充。これにより店舗在庫の適正化は図れましたが、物流センターに備蓄する在庫を持つ必要があり、トータル的に見ると過剰在庫を解決するには至りませんでした。

この時代以降、アパレル商材の生産量は、プロパー消化率(値引きせず売れた販売率)、セールやアウトレットにおける価格を下げた販売率、最終的に売れ残った商品の廃棄率までを勘案したうえで最終残在庫を決めることにより決定していました。つまり、最初からプロパー販売で100%消化しない生産量が前提であることには変わりがなく、過剰在庫を改善する道筋が見えないままでした。

この数年、人口の減少、リユース(中古)市場の拡大、そしてコロナ禍と、アパレル業はさらなる逆風の中にあります。この状況を受け、生産量を減らす方向で調整は行われているものの、依然として販売計画に残在庫を見込んだ生産計画としており、過剰在庫はより避け難い課題となっているように見受けられます。

※SPA : Speciality store retailer of private label apparel

2.「在庫がなくても売れるお店」 への転換で、
店頭在庫を縮小


今、過剰在庫を減らすための対策の一つとして注目されているのが、各店舗への配分数を数分の一に減らせる、SKU(サイズや色)の新しい配分方式です。これを可能にするのが、店舗とECの連携に他なりません。

各店舗には、全SKUではなく、たとえば赤はS・白はM・茶はLに限定して配分。これだけでは、一見すると販売機会を逃してしまいそうですが、ECと連携することで来店客の需要を逃さずに購買へとつなげられます。具体的には、店頭に希望する商品のSKUがない場合でも、着心地やサイズ感を別の色の商品で試し、気に入ったらその場でECサイトでオーダー。後日、ECの物流センターから自宅へ商品が配送されるという流れです。

つまり、店舗とECを連携させることで、これまで「欠品」とみなされていた状況が、「たまたまお店には品物がないが、購入できる」という状況へと変化。来店客の満足度も満たすことができます。

アパレル業では長い間、店頭での販売機会を逃さないよう、各店舗に全SKU(サイズや色)を配分することが基本となっていました。しかし、実際には色やサイズで需要に偏りが出ますから、多くの売れ残り商品が出るリスクがあります。店舗とECの連携で配分する商品数を減らすことで、過剰在庫の解決に一歩近づくことになります。

3.店舗は「特別な接客経験」を受けるための
場所へと変化する


では、ECとの連携が進んでいったとき、店舗の存在意義はどう変わっていくのでしょうか。私は、店舗は試着をして商品の感触を確かめる場所であるとともに、販売員との会話を通じた良い買物体験を提供することが重要になっていると思います。また、ユーザーの生の声を集めるマーケティングリサーチの場としての役割が、従来にも増して大切になっていくでしょう。

今では消費者は、ネットで事前に商品をチェックした上で来店されるケースがほとんどです。従って店舗に足を運んだ際に、単なる商品説明だけでは顧客満足には至りません。商品やファッションに関するスペシャリストである販売員からアドバイスを受けたり、コーディネートを紹介してもらう「特別な接客体験」により、ブランドに対する満足度・ロイヤルティの向上につながります。こうして店舗がサロン化、ショールーム化していく際、ネットは商品注文のツールとしてだけではなく、事前に販売員を指定して来店予約をしたり、試着の予約を入れるために欠かせないインフラとなります。

「在庫がなくても売れるお店」に近い存在として、「売らないお店」や「ショールーミングストア」というワードも話題を呼んでおり、百貨店も続々と参入しています。代表例として、西武渋谷店の「CHOOSEBASE SHIBUYA」、大丸東京店の「明日見世」、高島屋新宿店の「Meetz STORE」。商品はECサイトでの購入のみであったり、その場で購入して持ち帰る選択肢も用意されていたりと、コンセプトはそれぞれ異なっています。しかし、ECとの連携により新たな購買スタイルを提案し、店頭在庫を最小限に抑えたビジネスモデルを模索しているという点で、共通しているのではないでしょうか。

このように、小売業がリアル店舗とECを連携させる動きは、もはや止めることができないもので、今後も業種に関わらず大きな変化が起きていくと予想されます。

現時点でアパレル業界を俯瞰すると、リアル店舗を減らしECの売上を伸ばした成功例、その反対に店舗での特別な接客体験を強化してファンの裾野を拡大している例のように、正解は決して一つではありません。どちらの方向へ舵を切るにしても、ECをどう事業戦略に組み込んでいくかがビジネス成長の鍵となっていくでしょう。

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