#6.システム管理を内製化することは正しいの?DX実現に向けた、クラウド化の進め方
これまで、過去5回にわたるコラムでは、普段エンタープライズIT領域でベンダー動向やさまざまなユーザー事例を取材するフリーランスジャーナリストの立場で得られる情報と、日常的に顧客企業と接しているTIS担当者へのインタビューを通じて、データベースのクラウド化について紐解いてきました。
#1.既存のオンプレミスのデータベースシステムは、本当にクラウド化すべきか?
#2.オンプレミスのOracle Databaseをクラウド化するための、ベストなクラウド選択とは?
#3.Oracleからの脱却先に選ぶべきデータベースとは?:データベースクラウド移行の選択肢
#4.止められないデータベースの基幹系システムをクラウドへリフトする方法:ミッションクリティカルなデータベースインフラの選択肢
#5.ERPパッケージアプリケーションをクラウド化するための事前検討ポイントとは
今回は、シリーズの最後として「クラウド化を機にIT部門の体制を内製化にシフトすることができるのか?」および「内製化の際のポイントと有効なアプローチ方法とはどのようなものか?」をテーマに進めます。DX推進のためにも、外部のリソースに頼っていたITシステムの構築、運用を内製化したいと考える企業も多いでしょう。ミッションクリティカルなシステムでも、Oracle Cloud Infrastructure(以下OCI)のようなクラウドインフラをうまく活用してクラウド化を行えば、企業のIT部門担当者にとって重かったインフラ運用管理の手間から解放され、そこで生まれたリソースを新たに企業のDXのための取り組みに振り分けることができ、企業全体での効率を上げることができるのです。
クラウド移行、IT部門の内製化に必要なのとは
ここ最近、ITインフラ関係者の間では「システムの内製化」というキーワードが注目を集めています。ある程度システムを内製化していないと時代や市場の激しい変化に迅速に対応できないため、自社でDXを実現するためには自社システムを内製化にシフトすることが必要だと考えられるようになりました。そのため、クラウドへ移行するタイミングで内製化に舵を切ったとの事例も聞こえてくるようになりました。
しかし、注意しなければならない点は、例えばIaaS、PaaSを利用する場合、監視などの日常的な運用管理業務はなくならないため、システム環境をクラウド化したからと言って、すぐに自社IT部門が内製化にシフトできるわけではありません。サービスレベルを考慮しながら、自分たちがクラウドで運用するITシステムに求められる性能や可用性、セキュリティなどの非機能要件が満たされるように、自社システムに対しては手を掛け続けなければならないのです。特にクラウドで運用するのがミッションクリティカルなシステムともなれば、それなりの運用体制の継続は必要です。
「もともと内製化の努力を続けていた企業以外では、たとえクラウド化をしてもすぐに内製化体制に移行することは難しいでしょう 」と、TISでデータベース(DB)エンジニアリング/コンサルタントの立場としてクラウド化の診断や実際の移行や運用を15年以上に亘って手掛けてきたこの道のスペシャリストである貴志氏も言っています。内製化をするには、ITシステムを構築、運用するための基礎知識やノウハウが必要になります。
例えばIaaSを使ってITシステムをクラウドで立ち上げたとしても、セキュリティを担保するにはファイアウォールの設定などが必要です。適切なアクセスコントロールも欠かせません。それらをプロに任せるなどしない限り、IT部門担当者には日々手間の掛かる運用管理業務が残る訳です。
「これまでオンプレミスにあるサーバーのコンソールで行っていた設定操作は、Webブラウザーなどでリモートからできるようになるので確かに便利です。しかし、そのような操作が便利になっても、実際の設定で何をどのように選べば良いかはIaaSやPaaSを運用する知識、ノウハウがなければ判断がつきません。知識が十分にないまま設定していたせいで、情報が漏洩する事故も発生しています。」と指摘するのは、TISでアプリケーション実行基盤/DBエンジニアリング/クラウド等の基盤領域で多数のリプレイスやクラウドリフトの実績を持つ藤橋氏です。
内製化とクラウド運用のベストプラクティス
それでもやはり内製化を進める必要があれば、安全と効率面を考え、IaaS、PaaS環境の運用はプロに任せ、アプリケーションの開発部分だけを内製化するという選択肢があります。これであれば比較的にスムースに内製化を実現できるかもしれません。クラウド上にはローコード、ノーコードのアプリケーション開発環境も用意されており、それらを活用してアプリケーション開発の内製化を始めた事例は既にあります。
システムの監視/運用を内製化するよりも、アプリケーション開発の部分を内製化し、市場や自社プロセスの変化などへの迅速な対応力を強化するほうが結果としてDXの加速にも貢献できるでしょう。クラウドを使いインフラの運用管理から解放された上で、非機能要件の実現やセキュリティの担保などの部分はプロに任せる。そして、内製でアプリケーションを開発し、開発したアプリケーションをクラウド環境にデプロイし運用する。現在この一連のアプリケーションのライフサイクルをクラウドで実現するためのサービスは、さまざまなものがあるため、「“どのような組み合わせで取り組めば良いか?”などの支援要請がTISにも多く寄せられている」と貴志氏も言っています。
また、「クラウド化を機にIT部門の業務を全て内製化しようとするのではなく、適材適所でTISのようなパートナー企業の力を借りる事が得策です。クラウドサービスは責任共有モデルとなっているので、例えばIaaSではOSより上の部分はユーザーが責任を持って管理しなければなりませんが、パッチ適用やバックアップなどはプロであるTISに任せて、反面、自分たちでやるほうがメリットのあるアプリケーションは内製するなど、パートナー企業と一緒にシステム運用に取り組むのが効率的で良いでしょう」と藤橋氏も言っていました。
ちなみにアプリケーションの内製化の際でも、最初から全てを自分たちでやる必要はありません。適宜パートナーのアドバイスを受けることで、アプリケーションそのものの安全性などを高めることもできるのです。
内製化と外部委託、上手に使い分けできていますか?
守りのIT部分はTISなどの専門家に担わせ、攻めのIT部分を内製化していく。結局守りの部分はプロに任せたほうが、安定性が増し結果的には運用管理コストの削減にもつながります。自社IT部門のリソースは限られていますので、攻めの部分になるべく集中するのが得策なのです。
そのような場合でも、TISではアプリケーションの内製化を実現するためにどのようなクラウドサービスを利用すれば良いかのご提案やサポートだけでなく、例えばOCIで用意されているローコード開発環境のOracle Application Express(APEX)の教育プログラムなど、組織に内製化チームを作るためのサポートも提供しています。
前述の貴志氏は「単にAPEXの使い方を学べるようにするだけでなく、APEXを活用する初期のアプリケーション開発プロジェクトに、TISのメンバーが参画し内製化メンバーと一緒に開発することで、内製化チームの経験値が上がり、以降は自分たちだけで効率良く開発できるようになります。このように企業の体制に応じ、段階的な内製化チームを作るアプローチなど、柔軟な対応ができるのがTISの特長です」とコメントしています。
まずはクラウド上のシステムの監視、運用保守などの守りのIT部分を専門のプロに担わせ、そのサービスが提供される中で自社のクラウドの利用体制や効率的な運用形態などを把握します。その上でクラウドサービスをどのように組み合わせて活用していけば良いかを模索していく。そんな段階的なアプローチもTISなら提案可能との事。例えば、OCIの新しいサービスを利用することでさらにアプリケーション開発が加速できると分かれば、そのサービスのPoCを提案し、アプリケーション開発で活用できるようにするところまで対応してくれます。
クラウドサービスの進化は非常に速いので、ユーザーが自分たちだけで新たな機能や技術をキャッチアップし活用していくのは難しいものがあります。「新しい機能や技術をどう活用していけば良いか?」の部分も、適宜、外部のプロのノウハウや知見を活用していくべきでしょう。それぞれの企業において、適切な内製化の体制は異なります。任せるべきものは任せ、内製化すべき部分がどこかをしっかりと見極めることが、DX実現を成功に導く重要なポイントとなります。
※Oracle、Java及びMySQLは、Oracle Corporation、その子会社及び関連会社の米国及びその他の国における登録商標です。