04 データ分析
価値を生む分析を支える、データ分析人材とマーケターの協働
収集したデータの分析結果は、データドリブンのビジネスを実施するための根幹となるものです。今、多くの企業が課題としているのが、分析を担う専門人材の不足。ここでは、データサイエンティストに代表されるデータ分析人材をどのように確保すればよいのか、そしてマーケターが分析において担う役割について解説します。
分析未満の「見える化」止まりでは企業にとっての価値は生まれない
さまざまな顧客接点や業務システムから収集したデータは、「分析」によって初めて価値を発揮させることができます。そもそも分析とは、人間の経験と勘ではなく、数値や文字情報を分類・整理・取捨選択することで、客観的視点によりビジネスの意思決定をしていく手法を意味しています。
分析の最終目標は、あくまでも会社にとって価値のある事業戦略やマーケティング施策を導き出すこと。しかし、よく起こりがちなのが、データ収集後の「見える化」の段階で満足してしまうケースです。
たとえば複数店舗を持つ会社が、各店舗の週次の来客数や売上をBIツールでダッシュボード化して共有しているケース。会議の場でグラフを見て「どの店舗の売上が低かったのか」「どの商品が一番売れたのか」といった事実を確認するだけでは、会社の利益には貢献できません。
分析のメリットの一つは、新たなビジネスのヒントを見つけることです。ある店舗が目標に達しなかった場合、来店客数や購買単価、店頭の品揃えを他店と比較し、さらに天候や近隣で開催されたイベントなどの情報も加味して原因を深掘りしていく。このドリルダウンにより、原因と改善のポイントを見出すことが分析の目的であり、さらに次の週の売上を高い角度で予測して、目標達成に向けた活動計画の立案に活かしていくことが重要です。
このような、分析の段階にまで進めない理由として、データ分析の人材が社内に不足しているという状況もあります。優秀なデータ分析人材は、会社間で奪いあいにも近い状況になっており、人材不足はどの業界にも共通する課題と言えるでしょう。
データ分析人材に求められる資質とは
データ分析人材の中でも、近年データサイエンティストという職種が注目されています。これは、統計学に関する知識や分析ツールを使いこなす能力、ディープラーニングによるAIロジックの作成スキルなどを備えた人材を指します。たとえば、天候や周辺イベントなどの外部要因の変化と商品の売れ筋の変化の因果関係を導き出したり、ECにおいて最も効果的な「合わせ買い」のレコメンドを導き出すアルゴリズムを構築するといった場面が代表的な活躍シーンです。
百貨店やコンビニチェーン、大手ECのように規模が大きい事業ほど、データサイエンティストに頼る部分が大きいと言えます。実際、数年前から、国内の大手企業がデータ分析の専門人材を社内に抱えて分析を内製化しようという動きが活発化しています。 しかし、中堅企業においては、データサイエンティストの絶対数が不足している社会状況もあって、十分な数のデータ分析人材を社内に確保することは難しいのが現状です。
社外からのスキルトランスファーも人材育成の手段の一つ
では、データ分析人材を社内に育成するためにはどうすればよいのか。一つの手段として、データ分析のスキルを持つ外部の会社(SIer、ITベンチャー、IT系コンサル会社など)からのスキルトランスファーが考えられます。
具体的には、「どのデータを分析して」「何を導き出すのか」という段階から社外のスペシャリストに先導してもらい、PoCから分析ツールを使った実作業までをアシストしてもらいながら進めるというもの。最初の技術的なハードルが高い部分で、社外のスペシャリストに伴走してもらいノウハウを蓄積。徐々に内製化の比率を高めていくのが、スキルトランスファーの基本的な流れになります。
社内にデータ分析人材が育っていけば、その人が新たな指導役となり、他の社員のスキルを底上げしていける効果も期待できます。
なお、TISでは同じTISインテックグループのデータサイエンティスト集団、澪標アナリティクス株式会社と共同で、データ分析・AI人材育成サービスを提供しています。これは数カ月にわたるe-learningとワークショップトレーニング、OJT研修を通じて、専門人材を育てることを目的としています。社内にデータ分析人材を育成したいが、何から手を付ければよいか分からないというお客様にお勧めのサービスです。
ますます重要になる「分析の目標」を定めるマーケターの役割
実は、データ利活用はデータサイエンティストのようなデータ分析人材がいればすべて解決というわけではありません。分析用ツールを使いこなすスキルや、Python等の開発言語を習得して仕組みを構築するスキルはあっても、マーケティングの発想を持つ人材を抜きに分析は成立しません。
たとえば、“普段は商品Aのみを購入しているお客様に、別の商品をレコメンドして顧客一人あたりの購買単価を高めたい”といった、分析の目標を定めるのは、やはりマーケティング専門職(マーケター)の役割となります。
つまり、データ分析人材と、分析の意識を持つマーケターの両方を持つ会社が、この先の競争で有利になっていくでしょう。
将来的には、AIを組み込んだツールがさらに進化し、分析手法の選定や分析作業を自動化してデータサイエンティスト的な役割を担う可能性もあります。そのように、もし分析のスキルがコモディティ化したとしても、マーケターの発想力や、ビジネス課題を理解し分析の目標を定める力が、競合他社との差異化に役立つはずです。
分析結果を効果的なアクションにつなげるために
ここで解説したデータ分析の先には、「施策(Action)」のフェーズがあります。お客様一人ひとりに最適化したおもてなしで満足度を高める「ユニファイドコマース」を実現するためには、データを分析しお客様を正しく理解した上で、最も適したターゲットへ求められる商品を推奨し、お客様の満足度を高める還元をしていくアプローチが重要となります。このような理想的な施策(Action)を実施していくには、データ分析が正しく行えていることが前提となります。
そして、本当に価値を生む分析が実行できているかどうかは、売上や利益率といった実績の数字が唯一の判断基準となります。極論すれば、結果に結び付かないデータ分析は企業にとって価値はないと言えるでしょう。
そのため、分析→施策(Action)フェーズを実施した後は、必ず効果を測定し、分析が正しく実施できていたかをフィードバックするPDCAを回していくことが重要です。そして効果測定を受け、分析対象のデータ種類を変更したりと、より分析の精度を高めることがマーケティング施策の成功につながり、お客様の満足度向上につながっていきます。