経費精算システムをオンプレミス型からSaaSへ移行する時のポイント
公開:2025年10月
■目次
近年、経費精算システムをオンプレミス型からクラウド型であるSaaS(Software as a Service)へ移行する企業が増えています。その背景には、働き方改革の推進やテレワークの普及、さらには頻繁に行われる法改正への迅速な対応などが挙げられます。
柔軟性とスピードが求められる現代の業務環境において、SaaS型システムの導入は非常に有効です。DX(デジタルトランスフォーメーションの潮流に乗り、業務プロセス全体を効率化するためにも、クラウド環境への移行は重要なステップとなっています。
この記事では、経費精算システムにおけるオンプレミス型とSaaS型の基本的な違いをはじめ、移行による具体的なメリット、注意点、スムーズに移行するための手順などを解説します。
1. オンプレミスとSaaSの違い
オンプレミス型とSaaS型どちらの経費精算システムであっても経費申請から承認、仕訳、データ管理などの基本的な機能を持つことに変わりはありませんが、その提供方法や運用形態には大きな違いがあります。
1-1. オンプレミス型とは
オンプレミス型とは、企業が自社のサーバーに経費精算システムをインストールして運用する方式です。オンプレミス型の主なメリットは以下の通りです。
- 自社の業務や方針に合わせてセキュリティやシステム構成を設計・運用できる
- カスタマイズ性が高く、独自の承認フローや精算ルールに柔軟に対応可能
- 長期的に見ると、ランニングコストが安定しやすい傾向にある
ただし、初期導入にはサーバーやライセンス費用など多額の投資が必要となり、システム更新や法改正の度にIT部門による改修・保守対応が発生するため、運用コストが高くなる傾向にあります。
特に、法令対応や制度変更への迅速な対応が求められる昨今では、オンプレミス型の柔軟性に課題を感じている企業が増えています。
1-2. SaaS型(クラウド)とは
SaaS型は、インターネットを介して提供されるクラウドサービスです。主なメリットには以下が挙げられます。
- サーバー構築やインフラ整備が不要で、短期間かつ低コストで導入可能
- ベンダーによる自動アップデートにより、法改正やセキュリティ更新への迅速な対応が可能
- モバイルアプリなどにより、外出先やリモート環境でもスムーズな申請・承認が可能
- 製品によってはAIを活用した自動仕訳や不正検知など、最新技術を活用した高度な機能も利用可能
一方で、カスタマイズ性はベンダーの提供範囲内に限られるため、企業が独自に持つ業務フローへの適合が可能かどうかは事前に確認が必要です。
また、インターネット環境が不可欠であることから、ネットワーク障害時などには業務が遅延、もしくは停止するリスクも考慮しなければなりません。
1-3. 経費精算システムにおける主な違い
オンプレミス型とSaaS型の経費精算システムを比較すると、以下のような違いがあります。
| 比較項目 | オンプレミス型 | SaaS型(クラウド) |
|---|---|---|
| 初期費用 | 高い(サーバー構築に費用が必要) | オンプレミス型と比較すると低い |
| 運用・保守 | 自社で実施、情報システム部門の負担が大きい | ベンダーが対応 |
| アップデート対応 | 社内主導で手動による更新 | ベンダーによる自動更新 (例:SaaS型経費精算システム「Spendia」は3ヶ月に1度自動アップデート。法改正にも即対応) |
| カスタマイズ性 | 高い(独自要件に対応可能) | 中~低(基本的に提供範囲内での設定が中心) |
| モバイル・リモート対応 | 基本的に非対応(別途開発が必要) | 標準対応(外出先からも利用可能) |
| 柔軟性と拡張性 | 柔軟性は高いが、一度構築した後は硬直的な運用になりやすい | 拡張性があり、標準機能のみでも効率化が進めやすい |
2. なぜ今、SaaS型への乗り換えが進んでいるのか?
近年、企業が経費精算システムをSaaS型へ乗り換える動きが加速しています。ここでは、乗り換えが進む3つの要因を解説します。
2-1. DX推進とクラウド移行の流れ
デジタル技術を活用して企業の在り方そのものを変革するDXはますます加速しています。多くの企業にとってDXはもはや選択ではなく、避けては通れない経営課題です。その第一歩として注目されているのが、紙業務のデジタル化や既存システムのクラウド化です。
その中でも経費精算業務は典型的なバックオフィス業務の1つで、煩雑な手作業や紙処理が残る分野でもあります。ここにSaaS型経費精算システムを導入することで、申請から承認、会計連携までを全てデジタル化・自動化が実現できます。将来的には業務の見える化や、データを活用した経営環境構築などに向けた準備を整えることにもつながります。
また、サブスクリプションモデルで利用できるSaaSは、初期投資を抑えつつ必要な分だけ柔軟に活用できるため、IT投資の最適化という観点からもおすすめです。
2-2. テレワーク・モバイル対応の必要性
新型コロナウイルスの影響を受け、多くの企業がテレワークや在宅勤務などの新しい労働環境を取り入れました。その結果、従来の紙ベースの経費精算業務や、社内サーバーに依存したオンプレミス型システムでは対応しきれない課題が表面化しました。
例えば「紙の領収書にハンコを押して提出する」「承認者が出社しないと処理できない」といった状況では、経費精算業務の遂行が大幅に遅れるケースがあります。
SaaS型の経費精算システムであれば、モバイルアプリやクラウド上での承認機能を利用して、場所や時間にとらわれずに処理が可能です。これにより、リモートワーク中でもスムーズに経費申請・承認が進み、業務の停滞を防げます。
さらに、全国に拠点を持つ企業や、出張の頻度が高い営業職の社員を多く抱える組織においても、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末からアクセスできるSaaS型は高い利便性を発揮します。場所を問わないアクセス性の高さは、現在の働き方に適した選択だと言えるでしょう。
SaaS型経費精算システムのスマートフォン対応の詳細機能については、以下のページもご覧ください。
2-3. 法令対応の柔軟性
経理・会計業務では、法令や制度の変更が頻繁に行われます。2022年の電子帳簿保存法の改正や、2023年のインボイス制度の導入時など、企業は最新の法令・制度に応じてシステムの更改を行う必要があります。
オンプレミス型では、その都度システムの改修や保守対応が必要になり、IT部門や経理部門への負担が大きくなりがちです。
一方、SaaS型であればベンダーが法改正に対応したアップデートを迅速に行い、自動的に反映するため、利用企業は社内でのシステム改修や運用ルールの再設計といった特別な対応をせずとも、最新の法令に準拠した業務を遂行できます。
法令違反によるリスクの回避だけでなく、運用負担の軽減にもつながります。
経費精算システムによるインボイス制度や電子帳簿保存法への対応については、以下のページもご覧ください。
3. SaaS型経費精算システムの具体的なメリット
実際にSaaS型経費精算システムを導入することで得られる、主な4つのメリットを紹介します。
3-1. 業務負担を軽減する自動化と利便性
経費精算業務には、領収書の確認・入力、承認フローの設定、仕訳作業、支払処理など、多くの手作業が伴います。特にAI技術を活用した最新のSaaS型システムでは、これらの作業を大幅に自動化することが可能です。
例えば、領収書をスマートフォンで撮影すればAIが文字情報を読み取り、日付・金額・支払先などをシステムへ自動入力します。さらには、あらかじめ企業の規則に沿った経費ルールを登録しておけば、それに照らして費目分類や不正の有無のチェックまで行うことができます。
承認フローが複雑かつ多岐にわたる場合は、あらかじめその条件をシステムに設定しておくことで、申請内容に応じた分岐を自動化するといったことも可能です。こうした仕組みにより、処理の遅延やミスを防ぐことができるでしょう。
3-2. 法改正への迅速な対応
SaaS型の経費精算システムは、法改正に迅速かつ的確に対応できるだけでなく、その対応プロセスを「見える化」しやすい点も大きな利点です。多くのSaaSベンダーは、制度変更の数ヶ月前から情報提供やアップデート予定のアナウンスを行い、企業側が事前に準備を進めやすい環境を整えています。
さらに、税務署とのやりとりや監査対応に必要なシステムの設定変更・操作手順について、ガイドラインやFAQ、ウェビナーなどによるサポートを提供しているケースが多く、これを利用することで制度変更時に起こる社内の混乱をある程度コントロール可能です。結果として、経理・情報システム部門だけでなく、現場の申請担当者もスムーズに新制度に対応することができるのです。
SaaS型ならではの強みは、単に「機能のアップデートが自動で行われる」だけではありません。新制度へのスムーズな移行対応を組織全体で推進するためのサポートをベンダーが提供してくれるという点も大いに注目すべきでしょう。
3-3. 外部システムと連携できる
SaaS型経費精算システムは、会計システムや人事給与システムなど、他の業務システムとの連携が容易な製品もあります。
例えば、申請された精算データをワンクリックで会計ソフトに取り込んだり、交通系ICカードの乗車履歴を取り込んで交通費精算を自動化したり、車移動の際にGPS情報と連携して精算時の入力作業効率化する といった使い方が可能です。
また、CSVなどの汎用的なデータ形式での出力・インポートができる製品であれば、既存システムとの橋渡しもスムーズになるでしょう。システム間でデータを自動連携する仕組みがあれば、二重入力といったヒューマンエラーによるミスの低減が実現でき、業務効率向上にもつながります。
経費精算システムと連携できる外部サービスの例は、以下のページからも確認できます。
3-4. 料金の負担を下げやすい
SaaS型はオンプレミス型に比べて初期投資が小さく、導入ハードルが低いというコスト面の利点も大きな魅力です。月額・年額支払いなど課金タイミングが定期性であることが多く、利用人数や機能に応じて料金プランを選べるため、自社の規模や利用状況に合わせてコストを柔軟に設定できます。
また、アップデート機能開発や保守にかかるベンダー費用が月額利用料に含まれているケースが多く、想定外の追加費用が発生しにくいとも言えるでしょう。
オンプレミス型で発生する、老朽化に伴うシステム更新やハードウエアのメンテナンスコストといった要素はSaaS型では不要です。そのため、長期的な総保有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)の観点でも優れた選択肢と言えます。
4. オンプレミスからSaaSへ移行する際の注意点と課題
SaaS型経費精算システムには多くのメリットがある一方で、オンプレミス型から移行する際には、注意を払うべき点があります。導入の際は以下のような課題への事前対応が必要です。
4-1. セキュリティとデータ管理の不安への対処
クラウド上で機密性の高い経費データを扱うことから、セキュリティに対するリスクを懸念する方も多いのではないでしょうか。
クラウドサービスの利用拡大に伴って増加する不正アクセス、サイバー攻撃、およびそれらに伴う機密データの漏洩といったリスクに対して、近年のSaaSベンダーは高度なセキュリティ対策を行い、信頼性の高いサービスを提供しています。例えば通信・保存時のデータ暗号化、二要素認証、IPアドレス制限、ISO取得済みデータセンターの利用など、企業のセキュリティポリシーに応じた最新の対策が施されているケースも多くあります。
サービスの導入前にはあらかじめセキュリティガイドラインを確認し、自社の求めるレベルに合った対策がなされていることを確かめておきましょう。これによって、セキュリティに関するリスクを十分に軽減できます。
経費精算システムのセキュリティ対策については、以下のページも参考にしてください。
4-2. データ移行の手間と対策
過去の申請履歴やマスタ情報といった既存データをSaaS型経費精算システムへ移行する際には、フォーマットの形式や項目の違いに注意が必要です。
事前に移行対象のデータ範囲と整合性を確認し、必要に応じてベンダーの移行支援サービスを活用することで、作業の工数やトラブルを大きく抑えられます。また、既存システムと新システムを一時的に並行して運用することや、段階的な切り替え措置も有効なアプローチです。
4-3. 機能のカスタマイズ性を確認
SaaS型は製品の標準機能を利用することが前提とされることが多く、オンプレミス型のようなフルカスタマイズは難しい傾向があります。導入前に、自社の業務フローや承認ルールに、サービスがどこまで適合できるかを確認することが不可欠です。
中には設定項目が豊富で柔軟なカスタマイズが可能なSaaS製品も存在するため、導入後のギャップを避けるには、サービス選定時の十分な精査が必要です。
5. 失敗しないためのSaaS型経費精算システム選定ポイント
数あるSaaS製品の中から自社に最適なものを選ぶためには、いくつかの比較ポイントを押さえる必要があります。以下に主な比較ポイントをご紹介します。
- 必要な機能があるか(交通費精算、ICカード連携、領収書OCRなど)
- UIの使いやすさ、モバイル対応の有無
- 初期費用、料金体系(ユーザー課金・従量課金など)
- 導入支援、サポート体制(電話・チャット・マニュアルの充実度)
- 法改正へのアップデート頻度、対応スピード
- 契約期間
長期間、継続的に利用するためには上記のポイントを導入前に確認することが大切です。可能であれば無料トライアルを活用し、実際の操作感や他部門からのフィードバックを確認することで、導入後のギャップを抑えられます。
6. SaaS移行を成功させるための導入ステップ
SaaS型経費精算システムへの移行を成功させるには、導入前後の計画と社内体制の整備が不可欠です。以下では、効果的な導入に向けた3つのステップを紹介します。
6-1. 現状分析と社内課題の洗い出し
まずは現行の経費精算業務の全体像を把握します。申請~承認~仕訳~支払といった基本的なフローから具体的な作業工程を洗い出し、多くの工数がかかっている業務、ミスや遅延が起きやすいポイントがあれば、定量・定性の両面で分析することが大切です。ボトルネックになっている領域や非効率な部分を可視化することから始めましょう。
経理部門だけでなく、実際に利用する申請者や承認者の声も拾うことで、システム選定時の要件が明確になります。
6-2. 比較検討・ベンダー選定
課題を整理した後は、自社の要件にマッチするシステムを比較・検討してください。複数のSaaSベンダーに問い合わせてデモやトライアルを依頼し、機能・操作性・サポート体制・料金などを比較表にまとめて評価します。
提案依頼書(RFP:Request for Proposal)を用いて具体的な提案を受けることで、導入後の運用イメージをより鮮明に描けます。情報システム部門や他部署とも連携し、全社的な合意形成を図ることが成功の鍵です。
6-3. 導入~運用までのスケジュール設計
システムを決定したら、導入から本番稼働までのスケジュールを策定していきます。その際、一部部門や小規模チームでのテスト導入を行い、フィードバックを反映した上で段階的に全社展開していく「スモールスタート」は、成功体験を踏まえつつシステムを自社に最適なかたちでブラッシュアップしていくことができるため、よく選ばれるアプローチとなっています。
また、業務マニュアルの整備や利用者向け説明会の実施も計画しておくことで、サービスの定着を高められます。さらに導入後も定期的に効果検証を行い、運用の最適化を図ることが大切です。
7.SaaSへの移行で経費精算業務を効率化
SaaS型経費精算システムは、オンプレミス型に比べて効率化・迅速化・柔軟性の面で優れており、法令改正や働き方の多様化にも対応しやすいのが大きな特長です。初期コストが抑えられ、スマートフォンなどのモバイル対応やAI機能などの利便性も享受できることから、今や大企業を含む多くの企業で導入が進んでいます。
特に、日本の商習慣や複雑な組織構造に対応したSaaS型システムは、既存の課題を解消し、経理業務のDXを推進する第一歩として有効な選択肢です。中でもSaaS型経費精算システム「Spendia」は、日本企業の業務に適した柔軟な設定と法令改正への迅速な対応、充実したサポート体制を備えており、最新のAI技術も利用できます。
一般的なSaaSサービスはカスタマイズが難しいことがデメリットですが、Spendiaは企業ごとに柔軟な設定が可能です。経費精算システムの見直しを検討している企業担当者は、課題に合ったSaaSサービスの選定と段階的な導入計画の立案から始めることをおすすめします。
関連コラム
・経費精算とは?業務の流れや注意点、効率化のポイントを解説
・2025年4月施行|国家公務員旅費法の改正内容と社会への影響
・経費精算にAIを活用!AI-OCRが使えるおすすめのシステムも紹介