人工知能(AI)でマーケティングはこう変わる! ~成果を挙げている事例に学ぶ~
ディープラーニングが話題になっているように、この数年でAI(人工知能)は飛躍的に進化しました。車の自動運転や医療分野での診断支援など、ビジネスへの活用も広がりつつあります。
マーケティングも例外ではありません。オムニチャネル化で顧客との接点が増え、得られるデータが膨大になる一方で、市場の変化は加速し、これまでにないスピードでのデータ解析が必要になっています。
このような中で、データに基づく的確なレコメンドや顧客行動の分析に、いち早くAIを取り入れている企業があります。
2016年の今、AIはどれほど使えるものなのか? AIでマーケティングはどう変わるのか? 今回は第一弾として、成果を挙げている企業の事例や、これからが期待される取り組みをご紹介します。
1.パーソナライズDMで来店率アップ
アパレル業界で注目されているのは、カラフル・ボード株式会社が提供する「SENSY」。ユーザーのセンスを学習し、好みに合った商品をレコメンドしてくれる人工知能です。店頭での商品提案やECサイトなど、様々なチャネルでの活用が始まっています。
紳士服大手のはるやま商事では、DM(ダイレクトメール)に「SENSY(センシー)」を試験導入しました。人工知能がセレクトしたアイテムを掲載し、好みに合った提案で顧客満足度を高めるのが狙いです。同社では、6月中旬に若者向けスーツブランド「P.S.FA」の会員に向けてDMを発送しました。そのうち12,000人に対しては、2014年以降の購入履歴をもとに「SENSY」が掲載アイテムを選定。同時に、別の会員群には従来どおりのDMを送付しました。
キャンペーンの途中で比較したところ、「SENSY」を使ったDMは、通常のDMに比べ来店率がメンズで15%、レディースで12%も高いことがわかりました。パーソナライズしたレコメンドに、一定の成果があったといえるでしょう。
同社では、今後「P.S.FA」のオンラインショップにも、「SENSY」を使ったレコメンド機能を搭載するとのことです。
2.デジタル店員による「接客」で利益率向上
次は海外で、ECサイトに人工知能を活用している事例です。アウトドア用品を販売するThe North Face社(米国)のオンラインショップには、AIがユーザーとの質疑応答形式で、最適な服をレコメンドする機能が搭載されています。いつどこで使うか、どんな素材が好きかなど、簡単な質問に日常使う言葉で答えるだけで、目的や好みに合ったアイテムを勧めてくれるのです。ユーザーからの評価は高く、2カ月のトライアル期間中に75%のユーザーが「また利用したい」と回答したそうです。
ECサイトにAIを導入するメリットは、パーソナライズされたレコメンドだけではありません。従来のオンラインショップでの買い物には、「接客」という概念がありませんでした。しかし、AIを利用することで、ECサイトでも店舗と同じような「接客」を実現することができます。
たとえば、ユーザーニーズに合った商品を紹介しつつ、利益率の高い商品をより積極的にレコメンドするといった働きかけも可能になります。これは企業側にとって大きなメリットです。
3.人とAIの連携でチャットを効率化
ECサイトでの接客に関して、これからが期待される取り組みをもうひとつご紹介しましょう。
アパレル企業向けに株式会社空色が提供する、チャット接客システム「OK SKY」です。ECサイト内のチャットで、プロのスタイリストがコーディネートを提案。パーソナライズした接客により、1顧客あたりの購入率が15%以上、購入単価が1.5倍以上、改善されたという実績を持ちます。さらに、Webとリアルの相互送客を実現する点でも、注目されているサービスです。
同社では今年7月22日のプレスリリースで、株式会社オリーブ・デ・オリーブのLINEアカウントにおいて、AIを活用した自動接客システムの提供を開始する、と発表しました。AIの導入により、バックエンドで人が回答していた従来のチャット接客システムと比べて、接客数や営業時間の拡大、人員の効率化、より多くのデータ収集や分析が可能になる見込みです。
ただしAIに全ての接客を任せるわけではなく、ユーザーから想定外の質問があった場合にはスタイリストに引き継ぎ、柔軟な回答を実現するとのこと。引き継ぎはスムーズに行われ、ユーザーはあたかも一人の人間と話しているような感覚で接客を受けられるそうです。人とAIのそれぞれの得意分野を活かした今回のパーソナライズ接客システムが、どれほどの成功を収めるか、今後の展開に注目したいと思います。
4.データに基づく店舗レイアウトで商品をアピール
最後に、オフラインでの事例を紹介しましょう。ABEJA社が提供する、インストア・アナリティクスサービスの事例です。このサービス「ABEJA Dashboard」では、リアル店舗にカメラを設置し、来店者数や属性、行動パターンをAIで解析。客観的なデータに基づく店舗改善をサポートしています。
中古車販売の株式会社IDOM(旧社名:株式会社ガリバーインターナショナル)では、ショッピングセンターに出店する業態「HUNT」の常滑店で、「ABEJA Dashboard」を導入。ゲストの行動をヒートマップで可視化し、レイアウトや接客の改善につなげています。常滑店では展示車両の販売比率が約7割と、他店舗より約1割高くなっているとのこと。IDOM社では、「レイアウトの改善により、各車両の魅力をしっかり伝えられていることの功績だ」と評価しているそうです。
まとめ
今回は、マーケティングにいち早くAIを取り入れて成果につなげている事例をご紹介しました。パーソナライズしたレコメンド、ECサイトでの接客、店舗内での行動解析など、いずれも始まったばかりの取り組みですが、一定の成果を挙げており、AI導入の有効性がうかがえます。
現時点ではチャネルごとの最適化事例が中心ですが、いずれはチャネル間のシームレスな連携や、客観的なデータに基づく統合型デジタルマーケティングの基盤として、AIが活用されていくことになるでしょう。マーケ@ITではマーケティングへのAIの導入・活用事例を引き続きご紹介していく予定です。
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