企業が対策すべきソーシャルメディアにおける「守り」と「攻め」の課題 ~炎上対策と統合化~
デバイスの進化とTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアの普及により、誰もが瞬時に情報を拡散できる時代となりました。それに伴い、ソーシャルメディアで新製品の情報を発信したり、カスタマーサービスに活かしたりと、顧客とのコミュニケーションを取るための一つのチャネルとして活用する企業が増えています。
しかし同時に「複数のソーシャルメディアアカウントが管理しきれない」、「部門間での連携が取れない」など、運用面での課題を抱えている企業の話をよく聞きます。
また、ソーシャルメディアはマーケティングに活用できる一方で、消費者からのクレームや批判が拡散されたりと、企業にとって大きな損害をもたらすリスクにもなり得るのです。これまでにも、食品メーカーの異物混入写真の投稿やファストフード店の従業員が売り物で遊んでいる写真の投稿等、不適切な投稿によって炎上し、企業に損害をもたらしたことはみなさんの記憶にも新しいことでしょう。
今回は、企業のソーシャルメディア活用における「守り(炎上対策)」と「攻め(マーケティング活用)」の課題について考えてみます。
1.ソーシャルメディアの守りの炎上対策
(1)ソーシャルメディアの炎上のきっかけ
ソーシャルメディアでは情報が瞬く間に拡散するため、企業にとって批判的な内容が投稿され、炎上してしまうと大きな損害を招く危険性があります。その危険性があるのはソーシャルメディアで情報発信している企業に限りません。
例え自社でソーシャルメディアを運用していなかったとしても、顧客の投稿によって炎上することもあり得るのです。
では、企業はどのような炎上対策をすべきなのでしょうか?
<炎上のきっかけ>
ソーシャルメディアで炎上が起こるきっかけは、大きく3つのパターンに分かれます。
(1) ソーシャルメディア運用担当者による不適切な投稿
(2) 従業員、アルバイトによる不適切な投稿
(3) 顧客など第三者によるクレームや批判の投稿
このうち(1)(2)については、ソーシャルメディア利用のガイドラインの策定や従業員教育の徹底などを取ることが重要となります。しかし、ガイドラインを策定し従業員教育を徹底したとしても不適切な投稿を100%防ぐことはできません。
また、顧客など第三者からクレームや批判的な投稿を企業側が制御することはもちろんできません。
そのため、企業内での対策だけではなく、不適切な投稿がされた際にどう対応するのか、炎上対策も重要となってきます。
(2)画像検知の必要性
「火種」をいち早く発見するためにソーシャルモニタリングツールは有効でしょう。しかし、実は一般的なソーシャルモニタリングツールで対応できるテキスト情報の検知だけでは、不十分な時代となってきているのです。
ペヤング事件
2014年12月2日、消費者がツイッターでゴキブリ混入写真を投稿
2014年12月3日、消費者が保健所とまるか食品に連絡。まるか食品は消費者に写真の削除を依頼
2014年12月4日、対象商品ペヤングを自主回収、生産停止
2014年12月11日、全工場の停止と販売休止を発表
(参考:『「ペヤング事件」とは、いったい何だったのか』、東洋経済、2015/5/24、http://toyokeizai.net/articles/-/70654)
2014年に起こったまるか食品の即席麺「ペヤング」にゴキブリが混入した事件は、大きな騒動となりました。ある調査によると食品の異物混入は年間約2000~3000件起こっているそうです。その中で、なぜペヤング事件は過剰反応ともいえるほど大きく騒がれたのでしょうか。
過剰ともいえる大騒動となった原因の一つとしてTwitterに投稿された「画像」が指摘されています。
インパクトのある「画像」が投稿されたことで、瞬く間に拡散されていったのです。現在のソーシャルメディアでは、画像の重要性が増してきています。テキスト情報よりも視覚的にインパクトのある画像情報は、より利用者の興味関心を惹きやすいのです。さらにはYouTubeなどの動画も劇的に存在感が増してきています。
このようにソーシャルメディア上の「火種」を発見するためには、今までのようなテキスト情報の検知だけでは不十分となってきています。今後の炎上対策には、画像検知も求められる時代となっているのです。画像認識の技術は日々進化しています。画像を高精度で検知するソーシャルモニタリングツールも今後出てくるものと考えられます。
また、「火種」が落ちている可能性があるソーシャルメディアはTwitterやFacebookだけではありません。YouTubeなどの動画共有サイト、ブログ、掲示板、ニュースサイト、レビューサイトなど、様々なメディアにも知らぬ間に「火種」が投稿されている可能性があります。炎上を防ぎ、最小限の被害に抑えるためには様々なメディアも対応していることが求められす。
これまで見てきたように、ソーシャルメディアが発達した現代では企業は常に炎上対策を講じる必要があります。あらゆるメディアを監視し、テキスト情報だけではなく画像情報も含めた「火種」をいち早く発見することが、被害を最小限に防ぐことに繋がるでしょう。そして、今後はそのような対応が可能なサービスが求められてくるでしょう。
2.ソーシャルメディアの攻めのマーケティング活用
ここまではソーシャルメディアの「守り」である炎上対策について見てきました。次は「攻め」とも言えるマーケティング活用について見ていきましょう。
(1)ソーシャルメディアマーケティングの対応範囲
瞬時に多数の人へ情報を拡散することができ、また顧客との双方向コミュニケーションが取れるソーシャルメディア。情報発信と顧客関係強化が行えるため、企業にとってソーシャルメディアを活用したマーケティング活動の重要性が高まっています。
ソーシャルメディアと一言で言っても、「Twitter」や「Facebook」「Google+」「YouTube」「LINE」「Tumblr」など、数多くのソーシャルメディアが存在しています。そして企業側では複数のソーシャルメディアアカウントを運用しているケースも増えてきています。
これらソーシャルメディアの効果を最大化するために、運用上考慮すべき事項は多岐にわたります。
- ソーシャルリスニング:ソーシャルメディア上の投稿情報を収集分析
- コンテンツ作成:顧客との関係性を強化するコンテンツの作成
- 投稿管理:ワークフローでの確認・承認、複数メディアへのコンテンツの投稿
- 効果測定、分析:リーチ数やエンゲージメント率などを様々な角度から測定、分析
そしてこれらは単独で完結するものではありません。
ソーシャルリスニングで情報を収集・分析し商品開発やコンテンツ作成に活かし、投稿結果を効果測定し改善する。このように各ソーシャルメディアに対して、一連のPDCAを回すことが重要になってきているのです。
(2)ソーシャルメディア運用の現状と課題
しかし、それぞれのソーシャルメディアに対して対応が必要とされるため、運用現場では以下のような課題をよく耳にします。
- ソーシャルメディアアカウントが増え、運用業務(PDCA)が回らない
- 各部門で個別に運用している
- 社内の連携が取れず効果的なマーケティングが行えない
- 横断的な効果測定、分析ができない
新しいソーシャルメディアが次から次へと生まれ、それらに対し各部署が個別に対応していくということを繰り返したため、同じような運用作業を複数の部署で実施し、せっかくの情報が共有されず効果的なマーケティングができていない、という事態に陥ってしまうのです。
飲料メーカーなどでは企業アカウントとは別に、ブランドごとに複数のソーシャルメディアアカウントを運用しているケースが多くあります。ブランドや事業部ごとにアカウントが乱立しバラバラの運用を行ってしまうと、情報やノウハウの共有ができず効率的な運用が行えません。
ある百貨店ではソーシャルメディアアカウントの運用を完全に店舗に任せた為、まったくバラバラの情報提供を行った結果、ノウハウが蓄積されない為、お客様のエンゲージメント(例えば、Facebookでいいね!もしくは情報をシェアするなどの共感を得た数)が高まらず、活用されなくなった例もあります。
また、ソーシャルメディア運用については、マーケティングの観点だけではなく、顧客対応品質やリスク対策の観点も求められます。ブランドごとにバラバラな投稿や顧客対応を行っていては、顧客満足度の低下やクレームに結び付く可能性も否定はできないのです。
複数のブランド、複数のアカウントを統合的に管理し、企業としてのガバナンスを確立しながら効率的に運用を行い、顧客対応品質を均一化し顧客満足度を向上する。そして、ブランド横断的な情報共有、情報発信を行うことにより、お客様とのエンゲージメントを最大化させることが、ソーシャルメディアを活用する本来の目的、そして価値でしょう。
まとめ
現代のビジネスにおいてはソーシャルメディアを無視することはできません。ソーシャルメディアをマーケティングに活用することは非常に有効である一方で、ソーシャルメディア上には多くのリスクも潜んでいます。ソーシャルメディアの活用するための「攻め」と「守り」の両方の課題について、きちんと把握しておきましょう。