VMwareの買収・事業再編による影響と“次のVDIの選択肢”を考える
はじめに
リモート環境で仮想デスクトップの操作を可能にするVDI(Virtual Desktop Infrastructure)は、在宅や出先で高セキュアな作業環境を実現するため、多くの企業で導入が進んでいます。
2023年のBroadcomによる仮想化ベンダー大手VMwareの買収は、VDIのユーザー企業に大きなインパクトを与えました。この買収に伴うライセンス料金の上昇や、サポート体制の変更などの影響を整理するとともに、他製品への移行を検討する際の留意点を解説します。
VMware買収とその後の事業譲渡の動き
まず、VMwareの買収に至るまでの流れを簡単に振り返ります。1988年に米国で設立された仮想化ソフトウェアベンダーのVMwareは、2010年代に入ってVDI事業を拡大。同じく大手CitrixとともにVDI市場を牽引してきました。また、データセンターにおけるサーバー仮想化というインフラの進化にも技術面で貢献し、VDIの仮想化基盤も当初のオンプレミスからクラウドへとシフトしています。
2019年にマイクロソフトがAzure純正のVDIサービス「Azure Virtual Desktop」(以下、AVD)を提供開始してからも、AVDに不足する機能をVMwareやCitrix製品を組み合わせて補う構成が一般化するなど、依然としてVDI技術の先駆者として大きな存在感を示していました。
そして、2023年11月に半導体ベンダーのBroadcomがVMware買収を完了。その後Broadcomは、VDI製品であるVMware Horizon(以下、Horizon)を含むEUC(エンドユーザーコンピューティング)部門を2024年2月に投資会社KKRに売却し、4月からはKKR傘下の事業会社Omnissaが事業を継承しています。
このVMwareを取り巻く状況の変化を受け、私が担当しているお客様からは「VMware製品は今後も問題なく使えるのか? 料金はどうなるのか?」といった問い合わせも寄せられました。ここからは実際に、VMwareの買収・事業分割によって、お客様にどのような影響が及んでいるのかを整理します。
利用製品によって異なるコスト上昇の影響度
VMware の主力製品のうち、VDI製品のHorizonを単独で利用しているケースと、サーバーを仮想化するハイパーバイザーとして「VMware vSphere」(以下、vSphere)を利用しているケースとで、影響の度合いはかなり異なります。
前者のHorizonについては、Broadcomから分離され別会社の提供となり、現状、従来のライセンス形態からは大きな変化は見られません。仮想デスクトップの端末台数が数千台を超えるような規模でも、深刻なコスト上昇の影響は出ていないようです。
一方、ハイパーバイザーとしてvSphereを利用中のお客様の場合、かなり大きな変化が生じています。vSphere製品群を引き継いだBroadcomは、ラインナップを4つに簡素化するとともに、買い切り型の永久ライセンス販売を終了し、全面的にサブスクリプション型(月額制)モデルへと移行しました。また、ライセンス料がCPUごとの課金からコア数に基づく課金へと変更になったこともあり、利用形態によっては年間コストの大幅な上昇につながっています。
サポート体制の変更によるデリバリーの遅れ
コスト面だけでなく、サポートの体制・品質についても影響が見受けられます。買収や事業分割に伴うシステム変更や組織変更があったためか、一時期、HorizonやvSphereの新規導入や保守更新の見積りを依頼すると返答が来るまで2~3カ月を要することがありました。新規事業のため、大量の仮想デスクトップ端末を速やかに調達したいお客様にとって、リードタイムの遅れは深刻な問題となります。
その他にも、製品の技術情報やサポート情報が国内に伝達されるまでに本国とタイムラグが生じ、最新情報をキャッチアップしにくいという課題も出ています。TISは、製品を継承したBroadcomおよびOmnissaと密に連携を図り、お客様への情報提供の迅速化に取り組んでいく方針としています。
「次のVDI」として有力候補となるAVD
このように、コスト面やサポート面での変化に不安を持つお客様からは、他製品への移行を望む声も上がっています。将来的に安定したサービス継続に不確定要素がある場合、事業継続上のリスクにつながりかねないため、移行は現実的な選択肢のひとつと言えるでしょう。
他社のVDIに乗り換える際、最も有力な候補は、Azure純正のVDIサービスであるAVDだと考えています。ここでいうAVDは、前述したように不足する機能をHorizonやCitrixを組み合わせて補うかたちではなく、AVD単独での利用を意味しています。
乗り換えにあたって、既に資産として持っている仮想デスクトップのデータは、AVDのアーキテクチャに合わせてつくり直すことが基本となります。この際、組織別・業務別にモデルを作成して横展開することで、数千台を超えるような仮想デスクトップ端末数であっても、比較的短期間で移行可能です。
他の製品で同等の機能要件を満たせない場合は「継続」を推奨
ただし、中には「移行」ではなく「継続利用」が適したお客様もいらっしゃいます。業務上、Horizonでしか使えない機能を用いており、同等の機能がAVDで提供されていないケースがこれに該当します。
実例として、MP4動画のスムーズな再生を必須条件としているお客様からの移行相談があります。ご利用中のHorizonでは、動画や音声の再生時にサーバー側での処理だけではなく、ローカル端末のリソースに負荷を分散させるマルチメディアリダイレクト機能(MMR)を利用して高品質な再生を実現していました。現時点ではAVDに同等の機能が実装されておらず、求められる再生品質が保てないことから、お客様にはAVDへの移行ではなくHorizonの継続利用をアドバイスさせていただきました。
もし会社の方針として脱VMwareを優先させたい場合は、VDI環境をHorizonからAVDに移行すると同時に、高度なグラフィック処理や厳格なセキュリティなどが求められる端末のみ、Fat PCを組み合わせる方法も考えられます。結果的にベンダーロックインの回避にもつながりますし、事業継続性の強化という観点からも有効な選択肢と言えるでしょう。
「次のVDI」のご検討をTISがお手伝いします
なお、もう一社の大手仮想化ベンダーCitrixについても、2022年4月に投資会社により買収されており、ライセンス料金の値上げやサポート体制の変更などの影響が出ています。大きなシェアを持つ2社の買収により、大半のVDIユーザー企業が、仮想化基盤の見直し・検討という喫緊の課題に直面しています。
VDI製品を契約した時期・期間にもよって差はありますが、このままHorizonやCitrixを継続するか、AVD等に乗り換えるかの結論を出すまでの時間的猶予はまだしばらくあると思います。VDI製品の市場が大きく変化する中、TISはお客様と同じ目線に立って課題を整理し、最適なVDIの選択をお手伝いいたします。

TISは2009年頃 にVDIのビジネスに参入し、約15年の実績があります。Horizon、Citrix、AVDをはじめ、新たなプライベートクラウド基盤として注目されるNutanixやAmazon WorkSpacesなど、さまざまな製品を取り扱ってきました。オンプレミス/クラウドを問わない仮想化基盤の構築・運用の豊富な経験と、24時間365日の運用サポート体制により、仮想デスクトップ端末1万台を超える大規模案件にも対応可能です。国内トップレベルの知見に基づいて、お客様の用途・業務課題に応じた「次のVDI」をご提案させていただきますので、どうぞお気軽にご相談ください。
著:TIS株式会社 IT基盤サービス事業部 IT基盤ソリューションサービス 部長 茅野博史
TIS株式会社 IT基盤サービス事業部 IT基盤ソリューションサービス セクションチーフ 小林 友作
TIS株式会社 IT基盤ビジネス事業部 IT基盤ビジネス推進部 チーフ 瀧内 権輔